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⑦ヒロイン・カサンドラ-6-
しおりを挟むリーベンデールはヒロインが幸せになる為だけに創られた世界なのだから、生きとし生けるもの全てが自分の為だけに働き踏み台にならないといけないという考えに凝り固まっているカサンドラは、攻略対象者達と友達以上恋人未満の関係となるべく『行き遅れな教育係のイビリに耐えている可哀想なアテクシ』気分に浸りながら女子力を磨いていた。
数ヶ月後
(やっと・・・やっと後宮に入る事が出来た)
少女達が皇帝の側室候補に選ばれた事を喜ぶ中、カサンドラだけはアイドネウスに一歩近づいたのだと、やはり自分は女神になるべく選ばれた人間なのだと、ここ数ヶ月間における己の努力を自賛していた。
カサンドラは知らないが、裁縫・料理・歌舞音曲といった女子力は同じ時期にゼフュロスに買われて教育を受けてきた少女達と比べたら大きく見劣るのは否めない。
それなのに何故カサンドラはカルロスの側室候補に選ばれたのか?
ヒロイン補正?
ゲームの強制力?
否。
この世界は現実なのだから、そのようなものなど働くはずがないのだ。
カサンドラの常識を外れた言動に手を焼いた教育係が、カルロスの母にして皇太后であるバレンシアと彼の寵愛を一身に受け唯一の皇子であるエピメテスを産んだ事で権力を持っているフローラに泣きついたというのが真相である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カサンドラが側室候補に選ばれる数日前
『ゼフュロス様がカルロス様の為に仕入れたカサンドラですが、あの娘の頭は狂っているとしか思えず、我等の手には負えません!母后様、フローラ様、どうかカサンドラに現実というものを教えてやって下さいませ!!』
『マカディア、貴女の言い分は分かりました。陛下の御心を乱す、躾のなっていない雌豚を調教するのも私達の役目──・・・』
(人間の言葉を理解出来ぬ馬鹿など生きている価値はない・・・)
カサンドラの事は自分に任せておけばいいというフローラの力強い言葉に、マカディアと呼ばれた教育係は平伏す。
頭を下げていたマカディアは見えていなかったが、その時のフローラの瞳は嫌悪と憎悪に満ちていた。
『陛下の側室候補として新しく後宮に入るカサンドラという娘ですが、随分と誇大妄想が激しい御方みたいですわね』
『主神・アイドネウスの唯一の妃となる?【愛人】ではなく【情婦】の間違いではないかしら?』
『私がアイドネウス神であれば、女性らしさの欠片などない小娘を情婦にしようとすら思いませんわ』
恥ずかしげもなく妄想を語る、まだ見ぬカサンドラがどのような娘であるのかを想像してしまったのか、フローラの取り巻きであるカルロスのお手付きになったが御子を儲けていない側室達は思わず声を上げて笑ってしまった。
その笑い声は上品であるが、侮蔑の色が含まれているのは言うまでもない。
『皆、カサンドラ様を笑ってはいけなくてよ』
ある人物とカサンドラを重ね合わせてしまっていたフローラは、それをおくびにも出さず優しい微笑みを浮かべながら側室達を宥める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(あたしがアイドネウス様と結ばれる事でバカ殿のシジフォスは産まれないし、プロメテスとアストライアーは処刑される事なく皇帝・皇太后になれるのよ?何より悪役令嬢達は婚約破棄されなくて済むのだから、これってどう考えてもいい事ずくめよね~♪)
皇帝の手が付かなかった事により侍女として仕えている女達に案内されるまま、窓枠・軒下・天井等に壮麗な装飾が施している後宮の回廊を側室候補として後宮入りした少女達は母后であるバレンシアに挨拶をする為、皇太后の間へと向かっていた。
(流石は超大国の宮殿だけあって絢爛豪華~。でも、アイドネウス様の神殿と比べたらやっぱり貧相だわ)
ヒロインの仮の住処として相応しくないと、後宮の内装に対して心の中で愚痴を零している内に側室候補に選ばれた女奴隷達は皇太后の間の扉の前に到着する。
側室候補達がやって来たことを告げた後、侍女達が扉を開ける。
広い室内の中央にあるソファーに、一人の中年女性が腰を下ろしていた。
ふ~ん・・・
(この人が皇太后・・・カルロスの母親か)
ゲームでは教養だけではなく淑女という言葉が相応しい気品と仕種、美貌、何より自分の事を母として孝行しているアストライアーを気に入っている人物として登場していたが、その姿は十把一絡げだった。
皇太后と言っても所詮はヒロインである自分とは異なり固定のビジュアルをモブキャラでしかないので、モブに対する驕りを隠す事なくカサンドラは側室候補としてカルロスの母に頭を下げる。
「そなた達側室候補は、人ではなく陛下の所有物。故に後宮の掟に従い、何より陛下の事を思い努めに励むが良い」
仰せの通りに
嘗て王女や貴族令嬢だった者は自分を【人】ではなく【道具】と思わない皇太后の言葉に憤りを覚えたが、考えてみれば買い手が娼館の女将であれば不特定多数の男と肌を合わせなければならない毎日を送るしかないのだ。
しかし、皇帝の目に留まり御子さえ産めば側室として格上げされた証として個室が与えられるし、何より我が子が帝位に就きさえすれば自分は皇太后として後宮に君臨出来る──・・・
考えを切り替えた元令嬢達は皇帝の心を射止める算段を立てていく。
一方、元は農家の娘であった女奴隷達は、皇帝に気に入られたらドレスや宝石が思いのまま。
自分が贅沢する為だけに野心を燃やす──・・・。
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