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④再会と告白-4-

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 「和寿さん、聞きたい事があるのだけど」
 「何だ?」
 「和寿さんがここにいるという事は、俺と同じように前世の記憶を持ってこの世界・・・リーベンデールに転生したという認識でいいのか?」
 もし、自分と同じ時期に死んでいたのであれば、現在の和寿は十六~七歳の少年であるはず。
それなのに、二十代半ばから後半の青年にしか見えないものだから、ミストレインは和寿に対して抱いている疑問について問い質す。
 「いや、俺は元々この世界の住人。灯夜のように地球からの転生者ではないんだ」
 「転生者ではない?」
 和寿の言葉が理解出来ないミストレインが首を傾げる。
 そんな彼女に【稲垣 和寿】というのは地球で活動しやすい為に名乗っていた偽名でしかなく、本当の名前はアイドネウスである事を教える。
 「アイドネウスって・・・」
 天空神と同じ名前を付けるなんて両親は随分と怖いもの知らずというか、畏れ多い行為をしたものだと呟くミストレインに、自分がその神である事を話す。
 「和寿さん・・・中二?」
 「違うわ!!俺はただ事実を告げただけだ!!!」
 「じゃあ、証拠を見せてよ」
 「証拠?何をすればいいんだ?」
 「そうだな・・・」
 ミストレインは考える。
 和寿が本当に天空神であれば、自由に天候を操れるだけではなく、大陸の一つや二つくらい簡単に沈められるはず。
 これが中二病特有の妄想であれば和寿が恥をかくだけで済むが、もし彼の言っている事が真実であれば世界が崩壊してしまう可能性も否定出来ない。
 よって、天変地異を起こす形で証拠を示すというのは避けた方がいいように思える。
 (死者を蘇らせるとか?でも、こういうのって生命の理から外れるのよね)
 本性になって貰うという考えも浮かんだが、神話ではアイドネウスの本来の姿は巨大なフェンリルだと語られている。
 自宅兼店舗で本来の姿に戻ってしまったら壊れてしまうのが目に見えているし、そのような理由だけで人目の付かない場所に行くというのはどうなのだろう?という思いがある。単に面倒くさいとも言う。
 「・・・・・・神様だったら賢者の石を作れるよね?」
 賢者の石というのは鉛や錫を黄金やダイヤといった貴金属に変える媒介であり、不老不死の薬にもなると言われている夢のような素材の一つで、ミストレインを除く錬金術師達はそれを作る事を最終目標としている。
 レンちゃんの以前の持ち主にして、偉大な錬金術師として名を残すパラケルスですら作れなかった代物なのだ。
 「それくらいお安い御用だ。材料となる水晶はこの家にあるのか?」
 「水晶?和寿さんが言っている水晶ってパワーストーンの?」
 「ああ」
 雑貨ショップ・ミストレインでは、精霊の力を込めた冒険者向けのアクセサリーを売っているので、その媒介となる水晶は地下の工房に置いている事を告げると、和寿はそこへ案内して欲しいと頼んだ。
 「和寿さん、賢者の石の材料って【硫黄】と【水銀】だったはず・・・」
リーベル達がいる工房に案内している最中、水晶と賢者の石がどう結びつくのか分からないミストレインが尋ねる。
 「それは人間共の空想による産物だな。第一、灯夜は水銀を身体に取り入れたら死ぬという事を授業で学んで知っているだろ?その水銀が賢者の石の材料の一つとして伝わっている事がおかしいと思わなかったのか?」
 ここが地球であったのなら水銀が賢者の石の材料になる事の矛盾に気付いたのだが、リーベンデールが乙女ゲームの世界であると思っているからこそミストレインはそれに気付けなかったのだ。
 「賢者の石というのは、神の力が籠っている水晶の事を差すんだ。火属性による攻撃ダメージを半減や無効にするペンダントや指輪を作る時に使うパワーストーンに火魔法を使える錬金術師が自分の魔力を注いで作ると言えば、イメージ出来るんじゃないのか?」
 「え、ええ・・・。という事は、不老不死の薬として使う賢者の石と、鉛を黄金に変える賢者の石は別物という考えでいいの、かな?」
 「そういう事だ」
 但し、不老不死の薬を作る場合は水晶ではなく水に神力を注ぐのだと補足を入れる。
 賢者の石についての説明をしている内に、一柱と一人は目的地に到着した。





 お釜に水を入れまして♪
 はい!
 お次に毒消し草を入れまして♪
 はい!
 ぐつぐつぐつぐつ煮込みます♪
 はい!
 最後に蜂蜜で味を調えば♪
 はい!
 毒消しポーション(上級)の出来上がり~♪





 「・・・・・・ここでは歌いながらアイテムを作るのか?」
 扉の向こうにある工房から楽しそうな歌声が聞こえたアイドネウスはミストレインに尋ねる。
 「ええ。レンちゃんと精霊達がラップ調で歌いながらアイテムを作るの」
 「レンちゃん?」
 「錬金釜のレンちゃん。付喪神になったレンちゃんが作るアイテムは効果が抜群なの」
 例えば、初級ポーションが中級レベルの効き目があるという感じでね
 疑問符を浮かべる和寿にそう答えたミストレインが扉を開けると、ウンディーネの水とドリアードが出してくれた毒消し草で作ったポーションを、リーベルとディアナがお玉で掬い小さな瓶に注いでいるところだった。
 「「アイドネウス様!!」」
 真の主が姿を現した事に驚きを隠せない二柱は、作業の手を止めて和寿に平伏する。彼等だけではない。七大精霊達も小さな身体を震わせながら上位の存在である和寿に頭を下げていた。
 「リーベル?ディアナ?」
 「姉ちゃん、何ボ~ッっとしとんねん?!さっさと頭を下げんかい!!人の姿を取っているけどな、兄ちゃん・・・いや、この御方はアイドネウス様や!!!」
 え゛っ?
 「じゃあ・・・」
 生意気なレンちゃんが震えながら土下座をしているという珍しいものを目にしてしまったミストレインは、和寿の言っていた事が真実であるのだと受け入れる。
 「灯夜、俺はお前に対してそのような事など望んでいない。・・・お前は俺の最初で最後の愛人なのだからな」
 「愛人?和寿・・・アイドネウス様「俺の事は呼び捨てで構わない「アイドネウスにとって俺は数多くいる情婦の一人じゃ・・・ないのか?」
 「僭越ながら、ミストレイン様。神代の頃よりアイドネウス様には御子はおろか情婦など存在しておりません」
 「後に皇帝や王族と呼ばれる輩が、己の権威と箔付けの為だけにアイドネウス様の子孫であると騙っているだけに過ぎないのです」
 リーベルとディアナの話によると、神話に描かれている通り、己の子孫を称した事に怒りを隠せなくなったアイドネウスが世界を崩壊寸前まで追い込んだのは事実であり、復興してから興った皇帝や王族は凝りもせずに彼の子孫を称しているのだという。
(情婦がいないアイドネウスは俺を愛人と言った。という事は──・・・)
 (///△///)
 和寿ことアイドネウスが、自分を愛人と断言した事の意味を理解したミストレインの顔が赤く染まる。







※ここで使われる愛人という言葉は不倫相手・情夫・情婦・セフレといったものではなく、最愛の伴侶や恋人やステディという意味で使っています。
愛人が情婦・情夫の意味で使われるようになったのは戦後だと、辞書に書いてました。





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