13 / 58
④再会と告白-4-
しおりを挟む「和寿さん、聞きたい事があるのだけど」
「何だ?」
「和寿さんがここにいるという事は、俺と同じように前世の記憶を持ってこの世界・・・リーベンデールに転生したという認識でいいのか?」
もし、自分と同じ時期に死んでいたのであれば、現在の和寿は十六~七歳の少年であるはず。
それなのに、二十代半ばから後半の青年にしか見えないものだから、ミストレインは和寿に対して抱いている疑問について問い質す。
「いや、俺は元々この世界の住人。灯夜のように地球からの転生者ではないんだ」
「転生者ではない?」
和寿の言葉が理解出来ないミストレインが首を傾げる。
そんな彼女に【稲垣 和寿】というのは地球で活動しやすい為に名乗っていた偽名でしかなく、本当の名前はアイドネウスである事を教える。
「アイドネウスって・・・」
天空神と同じ名前を付けるなんて両親は随分と怖いもの知らずというか、畏れ多い行為をしたものだと呟くミストレインに、自分がその神である事を話す。
「和寿さん・・・中二?」
「違うわ!!俺はただ事実を告げただけだ!!!」
「じゃあ、証拠を見せてよ」
「証拠?何をすればいいんだ?」
「そうだな・・・」
ミストレインは考える。
和寿が本当に天空神であれば、自由に天候を操れるだけではなく、大陸の一つや二つくらい簡単に沈められるはず。
これが中二病特有の妄想であれば和寿が恥をかくだけで済むが、もし彼の言っている事が真実であれば世界が崩壊してしまう可能性も否定出来ない。
よって、天変地異を起こす形で証拠を示すというのは避けた方がいいように思える。
(死者を蘇らせるとか?でも、こういうのって生命の理から外れるのよね)
本性になって貰うという考えも浮かんだが、神話ではアイドネウスの本来の姿は巨大なフェンリルだと語られている。
自宅兼店舗で本来の姿に戻ってしまったら壊れてしまうのが目に見えているし、そのような理由だけで人目の付かない場所に行くというのはどうなのだろう?という思いがある。単に面倒くさいとも言う。
「・・・・・・神様だったら賢者の石を作れるよね?」
賢者の石というのは鉛や錫を黄金やダイヤといった貴金属に変える媒介であり、不老不死の薬にもなると言われている夢のような素材の一つで、ミストレインを除く錬金術師達はそれを作る事を最終目標としている。
レンちゃんの以前の持ち主にして、偉大な錬金術師として名を残すパラケルスですら作れなかった代物なのだ。
「それくらいお安い御用だ。材料となる水晶はこの家にあるのか?」
「水晶?和寿さんが言っている水晶ってパワーストーンの?」
「ああ」
雑貨ショップ・ミストレインでは、精霊の力を込めた冒険者向けのアクセサリーを売っているので、その媒介となる水晶は地下の工房に置いている事を告げると、和寿はそこへ案内して欲しいと頼んだ。
「和寿さん、賢者の石の材料って【硫黄】と【水銀】だったはず・・・」
リーベル達がいる工房に案内している最中、水晶と賢者の石がどう結びつくのか分からないミストレインが尋ねる。
「それは人間共の空想による産物だな。第一、灯夜は水銀を身体に取り入れたら死ぬという事を授業で学んで知っているだろ?その水銀が賢者の石の材料の一つとして伝わっている事がおかしいと思わなかったのか?」
ここが地球であったのなら水銀が賢者の石の材料になる事の矛盾に気付いたのだが、リーベンデールが乙女ゲームの世界であると思っているからこそミストレインはそれに気付けなかったのだ。
「賢者の石というのは、神の力が籠っている水晶の事を差すんだ。火属性による攻撃ダメージを半減や無効にするペンダントや指輪を作る時に使うパワーストーンに火魔法を使える錬金術師が自分の魔力を注いで作ると言えば、イメージ出来るんじゃないのか?」
「え、ええ・・・。という事は、不老不死の薬として使う賢者の石と、鉛を黄金に変える賢者の石は別物という考えでいいの、かな?」
「そういう事だ」
但し、不老不死の薬を作る場合は水晶ではなく水に神力を注ぐのだと補足を入れる。
賢者の石についての説明をしている内に、一柱と一人は目的地に到着した。
お釜に水を入れまして♪
はい!
お次に毒消し草を入れまして♪
はい!
ぐつぐつぐつぐつ煮込みます♪
はい!
最後に蜂蜜で味を調えば♪
はい!
毒消しポーション(上級)の出来上がり~♪
「・・・・・・ここでは歌いながらアイテムを作るのか?」
扉の向こうにある工房から楽しそうな歌声が聞こえたアイドネウスはミストレインに尋ねる。
「ええ。レンちゃんと精霊達がラップ調で歌いながらアイテムを作るの」
「レンちゃん?」
「錬金釜のレンちゃん。付喪神になったレンちゃんが作るアイテムは効果が抜群なの」
例えば、初級ポーションが中級レベルの効き目があるという感じでね
疑問符を浮かべる和寿にそう答えたミストレインが扉を開けると、ウンディーネの水とドリアードが出してくれた毒消し草で作ったポーションを、リーベルとディアナがお玉で掬い小さな瓶に注いでいるところだった。
「「アイドネウス様!!」」
真の主が姿を現した事に驚きを隠せない二柱は、作業の手を止めて和寿に平伏する。彼等だけではない。七大精霊達も小さな身体を震わせながら上位の存在である和寿に頭を下げていた。
「リーベル?ディアナ?」
「姉ちゃん、何ボ~ッっとしとんねん?!さっさと頭を下げんかい!!人の姿を取っているけどな、兄ちゃん・・・いや、この御方はアイドネウス様や!!!」
え゛っ?
「じゃあ・・・」
生意気なレンちゃんが震えながら土下座をしているという珍しいものを目にしてしまったミストレインは、和寿の言っていた事が真実であるのだと受け入れる。
「灯夜、俺はお前に対してそのような事など望んでいない。・・・お前は俺の最初で最後の愛人なのだからな」
「愛人?和寿・・・アイドネウス様「俺の事は呼び捨てで構わない「アイドネウスにとって俺は数多くいる情婦の一人じゃ・・・ないのか?」
「僭越ながら、ミストレイン様。神代の頃よりアイドネウス様には御子はおろか情婦など存在しておりません」
「後に皇帝や王族と呼ばれる輩が、己の権威と箔付けの為だけにアイドネウス様の子孫であると騙っているだけに過ぎないのです」
リーベルとディアナの話によると、神話に描かれている通り、己の子孫を称した事に怒りを隠せなくなったアイドネウスが世界を崩壊寸前まで追い込んだのは事実であり、復興してから興った皇帝や王族は凝りもせずに彼の子孫を称しているのだという。
(情婦がいないアイドネウスは俺を愛人と言った。という事は──・・・)
(///△///)
和寿ことアイドネウスが、自分を愛人と断言した事の意味を理解したミストレインの顔が赤く染まる。
※ここで使われる愛人という言葉は不倫相手・情夫・情婦・セフレといったものではなく、最愛の伴侶や恋人やステディという意味で使っています。
愛人が情婦・情夫の意味で使われるようになったのは戦後だと、辞書に書いてました。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
私と運命の番との物語
星屑
恋愛
サーフィリア・ルナ・アイラックは前世の記憶を思い出した。だが、彼女が転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢だった。しかもその悪役令嬢、ヒロインがどのルートを選んでも邪竜に殺されるという、破滅エンドしかない。
ーなんで死ぬ運命しかないの⁉︎どうしてタイプでも好きでもない王太子と婚約しなくてはならないの⁉︎誰か私の破滅エンドを打ち破るくらいの運命の人はいないの⁉︎ー
破滅エンドを回避し、永遠の愛を手に入れる。
前世では恋をしたことがなく、物語のような永遠の愛に憧れていた。
そんな彼女と恋をした人はまさかの……⁉︎
そんな2人がイチャイチャラブラブする物語。
*「私と運命の番との物語」の改稿版です。
【完】相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)
桜 鴬
恋愛
私は公爵家令嬢のエリザベート。弟と妹がおりますわ。嫡男の弟には隣国の姫君。妹には侯爵子息。私には皇太子様の婚約者がおります。勿論、政略結婚です。でもこればかりは仕方が有りません。貴族としての義務ですから。ですから私は私なりに、婚約者様の良い所を見つけようと努力をして参りました。尊敬し寄り添える様にと努力を重ねたのです。でも無理!ムリ!絶対に嫌!あからさまな変態加減。更には引きこもりの妹から明かされる真実?もう開いた口が塞がらない。
ヒロインに隠しキャラ?妹も私も悪役令嬢?ならそちらから婚約破棄して下さい。私だけなら国外追放喜んで!なのに何故か執着されてる。
ヒロイン!死ぬ気で攻略しろ!
勿論、やられたら倍返ししますけど。
(異世界転生者が登場しますが、主人公は異世界転生者では有りません。)
続編として【まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない。】があります。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる