追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

②聖女、側室になる聖女-2-

　後宮
　一人の男に仕える為だけに集められた数多の美女が住まう宮殿
　煌びやかで華やかな鳥籠
　純朴な娘を鬼にも夜叉にも変える女の園
　妍を競う女達が皇帝の寵愛を巡って争う戦場
　魑魅魍魎が跋扈する魔の巣窟





 「こんな地味なドレスでは陛下のお声が掛からないじゃないの！」
 「薔薇の香油を塗って頂戴」
 「この髪型、おかしくないかしら？」
 「昨夜も陛下は私を何度も求めて下さいました」
 「かような卑しい娘を毎晩お召しになるとは──･･･」
 「陛下も物好きな･･･」
 「身の程を弁えぬ小娘には忠告をせねばなりませんわね」





　飛ぶ鳥を蹴落とす勢いの寵妃
　己が成り上がる為に策略を駆使する妃
　想い人と引き裂かれて涙ながらに入宮した妃
　一度として皇帝からお召しの声が掛からない妃





　後宮とは女達の欲望、愛憎と嫉妬、陰謀と権謀術数が渦巻く絢爛豪華な伏魔殿そのものなのだ。




　権力？
　皇帝の寵愛？
　何それ？
　美味しいの？
　皇帝の御子を産み参らせるのがお妃様の役目？
　陛下の覚えが目出度い花の名を冠する部屋を与えられているお妃様にお願いすればよろしいのでは？
　政でお疲れになった陛下のお心を癒すのもお妃様の勤め？
　面倒･･･ではなく、そのような事が規則に従い晴れて自由の身となり後宮から出て行ける三年後を心待ちにしている私に出来るとお思いになりまして？





　血みどろの争いが繰り広げられている豪華な牢獄には、皇帝に興味がない妃達が住んでいるのもまた事実。





 （どうやら･･･少しは楽しめそうね）
　新しく入って来た側室候補である自分達を品定めするかのような視線を受けながら、マルガレーテは心の中で笑うのだった。