鳥籠姫

白雪の雫

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⑥白き翼を持つ者(中編)

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「いらっしゃいませ。テーブルに案内いたします」
四十分ほど並んでいた二人を出迎えたのは、巷では美人給仕として評判のブリュンビルデだった。
(て、天使様・・・!?まさか。そんな事あるはずがないわ・・・・・・)
客としてやって来たヴァルドの姿が、自分が【天使様】と呼ぶ初恋の人に瓜二つであるという事にブリュンビルデは内心驚いてしまったが、これでも嘗ては王太子妃としての教育を受けていた身。
営業スマイルを浮かべたブリュンビルデは椅子に座った二人にメニューを渡すと、並んでいた客を空いているテーブルに案内する。
「ベリル、お前が勧める料理はあるか?」
「そうだな~・・・。ここの飯はどれも美味いから、肉料理・魚料理・卵料理・揚げ物料理・米料理・パスタ料理・デザートの全部を勧められるが・・・・・・」
まぁ、自分が食べたいものを選んだらいいんじゃないのか?
「じゃあ・・・チキンときのこのドリアとキャラメルラテ。デザートは・・・フルーツパフェ」
「俺はシーフードグラタンとコーヒー。デザートは・・・ストロベリーショートケーキ」
メニューに描かれているイラストを見て、どのような料理なのかがイメージ出来た二人はブリュンビルデを呼び寄せて食べたい料理を告げる。
「ビルデちゃん。仕事が終わったらさ、俺と一緒に広場に行かないか?」
「いいですね。マスターとママとエレーネも誘って一緒に行きましょうよ」
「ビルデちゃん。俺と付き合って下さい!」
「ありがとう。でも、好きな人がいるの」
今日の夕刻から広場で芸人一座が音楽や芸を披露するので、これを切っ掛けにブリュンビルデと親しくなりたい男性客が料理を運んでいる彼女に声をかけたのだが、銀髪美女は笑みを浮かべて男の誘いを断る。
「お前、馬鹿だな~。鉄壁の防御を誇るブリュンビルデちゃんがデートをするはずがないだろうが!」
(ブリュンビルデの好きな人って、どんな奴なんだ・・・?)
臣下だから王様の命令に従い自分が犠牲にならないと嘆いていた幼子が大きくなったと感動を覚えると同時に、幼い頃から目に付けていた少女の好きな人が誰なのかを、ヴァルドは気になってしまう。
(ディアボロスが言っていたように、あの時に拉致ってしまえば良かったかも・・・・・・)
勇者とは、自分の理想通りに育てた子供を嫁にしたディアボロスのような男の事を言うのだな~
ブリュンビルデの好きな人というのが、どこかの人間や獣人だったりしようものなら、俺、氷河時代を再来させてしまうかも知れないな~
この世界を干からびさせて砂漠にするというのもありかな?
いや、待てよ?洪水を起こして世界を水没させるという手もあるな
「お待たせしました。ご注文のチキンときのこのドリアとキャラメルラテ、シーフードグラタンとコーヒーです。デザートのフルーツパフェとストロベリーショートケーキは後でお持ちいたします」
遠い目をして物騒な事を考えてしまっているヴァルドが座るテーブルに、ブリュンビルデが料理を持ってきた。
店のマスターが作ったのか、ママが作ったのかは分からないが、目の前の料理は見た事がないものであるだけではなく、熱々で美味しそうな匂いが食欲をそそる。
(・・・美味い!)
弾力を感じさせるチキンときのこ、熱々で濃厚なホワイトソースチーズ、そして米が混然一体となり、口の中でハーモニーを奏でる。
(これだから人間という生き物は面白い)
僅か百年くらいしか生きられないのに、創意工夫して新しいものを作り上げるという点は、どの種族よりも秀でていると、ヴァルドは思う。
(暫くはこの店で食事を摂る事にするか)
カフェ・四つ葉のクローバーの料理とデザートが気に入ったという事もあるが、何よりブリュンビルデの好きな人が誰なのかを知りたいヴァルドは常連客になる決意を固める。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










「おまたせいたしました。ご注文の品のシュークリームとアフォガードです」
アップルパイとアップルティーをお願いします
私はマフィンとコーヒーね
ランチタイムを過ぎた事で人は少ないが、それでも店内には注文の声が飛び交うからなのか、それなりに忙しい。
そんな中、特に目立っているのは、長身で男の色気がダダ漏れのイケメンである為、否応にも人目を惹きつけずにはいられないヴァルドである。
現にデザート目的でやって来た女性客達が、彼が座っているテーブルをこっそりと盗み見している。
朝・昼・夜
日によって決まっていないが毎日通っているものだから、ヴァルドはカフェ・四つ葉のクローバーの常連さんの一人としてグリーズをはじめとする店の者達に認識されていた。
「俺が注文したのはクロックムッシュとミルクティーであって、食後のデザートにアフォガードとシュークリームを頼んでいないのだが?」
「私からヴァルドさんへの奢りです」
こそっと耳打ちしてきたヴァルドにブリュンビルデも小声で話す。
(俺にだけこんな風にサービスをするって事は、少しは期待をして・・・いいのか?)
冒険者と思しき男やギルドの関係者と思しき男達の一部は銀髪の美人給仕ことブリュンビルデが目的で、カフェ・四つ葉のクローバーに通い詰めている事をヴァルドは知っていたが、例え相手が常連であっても、ベリルと一緒にテーブルに着いている時の彼女はこのように奢ってくれたりしないのだ。
「ビルデちゃん、好きです!だから・・・僕と付き合って下さい」
「私には心に決めた人がいるので、貴方とはお付き合い出来ません」
「大事な話がある。今日の店が終わったら、ミステルの丘まで来てくれ」
例によって例の如く笑顔で誘いを一刀両断した後、トレイを抱えて厨房へと向かおうとするブリュンビルデの腕を掴んだヴァルドは小声で話しかける。
王国にいた頃は公爵令嬢だったが、今は平民の娘に過ぎない。
好きな人がいるというのが本当か嘘なのか分らぬが、今のブリュンビルデは自分に言い寄って来る男共を軽く躱している。
だが、この状態が続けば店主夫妻が手頃な男を見繕い縁談を持ち出してくるだけではなく、二人と自分の立場を考えたブリュンビルデがそれを引き受ける可能性が高いのだ。
当時の彼女は幼かったから本来の姿を晒しても【天使様】として受け入れていたが、帝国に来る前は学園という教育機関に通っていたらしい。
当然、彼女は自分達に対する事も学んでいるはず───。

恋をすると、誰かを愛するようになると弱くなる。だが、同時に強くなるとは、どこの誰が言った言葉だっただろうか?
子供の頃は自分を【天使様】として慕い、今は客として普通に接してくれているが、過去にあらゆる生物や種族を滅亡へと追い込んだと知ったら?
(軽い気持ちで言い寄っている男共と同じように拒絶されたら俺は・・・)
「え?ええ・・・」
(ヴァルドさん?)
顔に不安の色を浮かべながらも承諾してくれたブリュンビルデにヴァルドは安堵の息を漏らす。







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