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④カフェ・四つ葉のクローバー(後編)
しおりを挟む『お嬢さん達!大丈夫かい?!』
崖の下で倒れていたブリュンビルデとエレーネを助けたのは、市場で食材を調達し終え店に帰る途中のグリーズという男だった。
身体を揺すられて意識を取り戻したブリュンビルデは心配そうに自分を見遣っている髭面の毛深いマッチョな男に、自分の素性を隠した上で親の役に立たなかったという理由で修道院送りとなり、その途中で崖から落ちた事を話す。
(若くて、しかも綺麗な娘が親の勝手で、帝国でも一・二位を争う厳しい修道院で生涯を過ごさなければならないなんて・・・)
気の毒に思ったグリーズは二人を我が家に連れて帰る事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
吹き抜けで開放感を感じさせる店内
木の温もりを感じさせるテーブルと椅子
天井から吊り下がっているのは、可憐な花をイメージした照明
店内に色を添える季節を感じさせる活け花と観葉植物
グリーズの趣味なのかどうか分からないが、内装はカントリー風で明るい雰囲気を感じさせ、気取らないものだった。
女の子であれば一度は憧れたであろう、〇毛のアンの家をイメージしたカフェといえば、何となくイメージ出来るのではないだろうか?
『かあちゃん。今、帰ったぞ』
『おかえり、あんた・・・って、この女達は何者なんだい?!』
まさか・・・あんたのこれじゃないだろうね!?
『ち、違う!彼女達は近くの谷底で倒れていたんだ!!』
小指を立てて詰め寄る恰幅のいい中年女こと妻であるノルンに、グリーズとブリュンビルデが状況と身の上を話す。
『・・・あんた達は親の都合で山頂の修道院に送られる事になっていたのだが、途中で転落した。そこをうちの人が助けた──・・・。でいいんだね?』
ノルンの言葉にブリュンビルデとエレーネが首を縦に振って肯定の意を示す。
『で?あんた達は、これからどうするんだい?』
『二人には住み込みで店を手伝って貰おうと思っている。かあちゃんも言っていただろ?一人で家の事をしながら料理を運ぶのは辛いから、もう一人いたら楽になるかもって』
俺の方も野菜と肉を切ったり、魚を捌いてくれる奴がいたらいいと思っていたからな
自分達の意志を確認しないで勝手に話を進めないでくれ
ブリュンビルデとエレーネはそう言いたかったのだが、考えてみたら今の自分達は行くところがないのだ。
『『よろしくお願いいたします』』
二人の世話になる事を決めたブリュンビルデとエレーネは頭を下げる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ハムとチーズを挟んだパン
塩とハーブを炙った肉と魚
肉と野菜、或いは魚と野菜を一緒に煮込んだスープ
果物の砂糖漬け
グリーズが出す料理は可も不可もなく・・・・・・というより、【四つ葉のクローバー亭】という店を訪れる客が身体を資本とする冒険者や傭兵がメインなのか、一般的な食堂でよく目にするものだった。
メニューがこれだけでは客の心を掴めないだけではなく、新規の客やリピーターを捕まえる事など出来やしない。
今はこれでいいだろうが、近い将来、この店が潰れる可能性が高い。
見ず知らずの自分達を受け入れてくれたグリーズ夫妻に恩を返したいという思いもあるが、ここがなくなってしまったら路頭に迷い、色街で娼婦になるしかないのでブリュンビルデは平民に受け入れてくれそうな料理を考える。
『お嬢様・・・』
『分かっているわよ』
ブリュンビルデは公爵令嬢であるが、戦国大名として有名な伊達政宗のように料理にも造詣が深い。
自ら厨房に立って料理を作ったり、新たな料理を研究していただけではなく、公爵家にいた頃は自分が考案した料理を調理して両陛下に振る舞ったくらいだ。
その時に出した料理はフランス料理やトルコ料理のフルコースのように、素材と味付けだけではなく盛り付けから配膳に気を遣ったが、自分達が身を寄せている店に来る客は冒険者や傭兵だけではなく庶民が殆どだ。
味と見た目も大事だが、どちらかといえば質より量に重点を置いた方がいいと思っているブリュンビルデは、庶民向けのメニューを考える。
『お嬢様、賄いをメニューに加えるというのはどうでしょう?』
調理台の上に置いている食材を前にして悩んでいるブリュンビルデに、エレーネが公爵家の使用人達が余り物で作っていた料理を出せばいいのではないか?と提案してきた。
『エレーネ、公爵家で出ていた賄いってどういうものだったの?』
そこに庶民向けの料理のヒントがあるのではないか?と思ったブリュンビルデはエレーネに尋ねる。
『そうですね・・・肉の切れ端を野菜と一緒に炒めてトマトソースで味付けしたものをパスタにかけたり、パスタとホワイトシチューを絡めたり、薄焼きにした卵と炒めた肉の細切れを一緒にパンに挟んだりという感じでしたね』
『・・・・・・分かったわ。それを元に色々作ってみるわ』
ブリュンビルデが生国の国王と王妃の舌を満足させる料理を作れるが、万人受けするメニューを作れるかと言われたら話は別だ。
(主な客層が冒険者や傭兵という点を踏まえたら、繊細で薄い味付けより濃い味付けの料理がいいでしょうね──・・・)
エレーネが教えてくれた賄いや自分が食べてきた料理を元に、またブリュンビルデが市場で購入した珍しい食材───特に米・醤油・味噌で新たな料理を作り、グリーズ達が試食しては日替わりメニューとして出し客の反応を見ていく日々が続く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ビルデちゃんの考えた料理って凄く好評だよ!』
『マスターのグリーズさん、ママのノルンさん、エレーネがいたからこそ出来た事です』
『いや、かあちゃんの言う通りだ。ビルデちゃんが新しい料理を考えてくれたからこそ、今日もこうして店が繁盛しているんだ』
【四つ葉のクローバー亭】を繁盛させようとした動機が自分達の身の護るというものだったので、ブリュンビルデは心の中でグリーズ夫妻に謝る。
『お嬢・・・ビルデさん、女性客だけではなく一部の男性客からもデザートがないか?と聞かれるのですが、どうしましょうか?』
『エレーネ、デザートについては軌道が乗ればメニューに加えたらいいのでは?と、お二人に相談しようと考えていたの』
という訳で・・・
プレーンタイプのクッキーにチョコレートをコーティングしたクッキーといった焼き菓子だけではなく、ふわふわのスポンジにクリームを塗ったケーキ、サクッとした食感のパイ生地にクリームを挟んだミルフィーユ、タルト生地にクリームとストロベリーを盛り付けているタルト、砂糖で煮詰めたリンゴをパイ生地に包みオーブンで焼いたアップルパイ、薄く焼いた生地に果物とクリームを包んだクレープ、卵と牛乳を使ったデザートであるプリンやフレンチトースト等───。
店の定休日や空き時間を利用して公爵令嬢だった頃に口にした、最早芸術品と呼んでも差し支えがなかったデザートを元にして庶民向けに試作した数々の菓子をブリュンビルデが無限収納から出していく。
『このプリンって奴、柔らかくて甘いんだな』
『あたしは、このフレンチトーストっていうのが気に入ったよ』
『私はミルフィーユでしょうか・・・』
『ケーキとタルトも捨て難いな』
『クッキーだったら旅人や冒険者に欠かせない携帯食の代わりになるんじゃないのかい?』
『どちらかといえば、携帯食というより夜食の代わりになるかも』
ブリュンビルデが試作した菓子を試食した結果、料理と同じように日替わりのデザートとして出し客の反応を見てメニューに加えるかどうかを決める事になった。
後に【四つ葉のクローバー亭】はデザートが加わった事で、【カフェ・四つ葉のクローバー】に名を改める事になる。
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