天使は異世界で大金を稼ぐ

①キャバ嬢に彼氏を奪われた

 「出世街道を進む女より、世間知らずのお嬢様。自立しているおばさんより、自分を頼りにして気持ち良くさせるキャバ嬢」

　そういう女を選ぶのが男という生き物なのね

　コンビニで買ったメロン味の酎ハイを飲んだ後、イチゴ味の酎ハイを飲んでいる咲夜が何気なく呟く。

　昔は会社の事務職とイラストレーターの二足の草鞋を履いていたのだが、六年前、とあるゲーム制作会社の三国志をベースにしたゲームに登場するキャラクターのデザインを担当して欲しいと言う話が来た。

　ゲームの企画担当者が言うには、咲夜が描いた日本独特の怖さと幽玄さを表現した小説の表紙のイラストが、自分が思い描いているものを表現できるのではないか？と思ったらしい。

　三国志というのは、実在・架空を含めて登場人物が何百人もいる物語である。

　どこからどこまでが事実で虚構なのか見極めるのが大変だが、遣り甲斐と達成感はありそうだという気持ちで咲夜はこの話を引き受けた。

　当時は会社で働きながらだったし、ほんの少ししか登場しないのに正史にも載っている人物なのだからキャラクターのデザインをして欲しいというクライアントの要望に応えなければいけなかったので非常に苦労したものだ。

　しかし苦労した甲斐があったのか、ゲームは大ヒット。

　同時にイラストレーターとしての咲夜の名が有名にもなった。

　今ではRPGやアクションといったゲームのキャラクタデザインだけではなく小説の挿絵、ポスターや雑誌の表紙等を飾るイラストレーター一本で食うに困らないくらい･･･というかそれなりに活躍して稼いでいる二十八歳の女性だ。

　そんな咲夜であるが、高校生の頃から付き合っている男が居る。

　いや、別れた今となっては【居た】という表現が正しいだろう。

　男は小山　賢児といい、有能でタレントといっても差し支えのない会社員･･･というかナルシスト気質があるイケメン幼馴染みなのだが、先輩と共に行ったあるキャバクラのNo.1キャバ嬢に嵌まってしまったのだ。





　賢児曰く

　彼女こと里菜ちゃんは儚い美人でありながら他人を気遣う事が出来る優しい女の子である

　だが、親がしている借金を返す為にキャバ嬢になるしかなかった

　そんな彼女の元に通うのは男として当然の義務である





　等々──･･･。





 『しかも里菜ちゃん、僕の子供を身籠ってしまったんだ』

 『賢児さんには咲夜さんという恋人がいた事は知っています！ですが、子供には父親が必要なんです！！』

　キャバ嬢に入れ込んでいただけではなく、孕ませたという事実に呆然としている咲夜に里菜が頭を下げる。

 『咲夜さん！お願いします！どうか、賢児さんと別れて下さい！！』

 『という訳で咲夜、お前とは別れるわ』

　じゃあな

　お前も幸せになれよ？

 『咲夜さんっておばさんだけど、一応美人？の部類に入るから多分･･･きっと、金持ちの年寄りが引っかかるわよ』

 『お、おば！？』

 『頑張って金持ちの年寄りを落とす事ね♡お・ば・さ・ん♡』





　咲夜にそう宣言した二人は、幸せそうな表情を浮かべながら腕を組んで夜の街を歩くのだった──･･･。