7 / 10
王妃になった男爵令嬢-7-
しおりを挟む夜空に浮かぶ月はハンターの屋敷を見つけた時のように淡い光を帯びた満月ではない。
それでも月が旅人を導くかのように鮮やかに輝いて闇夜を照らしている事に変わりはない。
「ヴィンフリーデ=フォルクス・・・あんたが時間をかけて身に付けた教養とか礼儀作法はあたしが有効に使ってあげる。だから・・・」
あたしの前から消え去って頂戴!!!
この世で最も嫌う女の顔を思い浮かべたスピカはハンターから貰った薬を一気に飲み干した。
「見た目は・・・変わりないわね」
ハンターから貰った薬を飲んだ後、鏡に映る自分の姿を見ているスピカがそう呟く。
「スキルを入れ替えるという事は、テーブルマナーや礼儀作法だけではなく語学とかも身に付いているという事でいいのよね・・・?」
ハンターの言葉を信じるならそうである。
だが今は月が支配する夜だ。
寮の食堂は開いていないから今の自分のテーブルマナーが完璧なのかどうか分からないし、学園の図書室が閉まっているので異国の本が読めるかどうかも分からない。
「そうだ!教科書に載っている問題なら解けるかも知れないわ」
今までの自分だったら何を書いているのかが分からなくて放り出していたのだが、今の自分だったら出来るような気がすると思ったスピカは鞄から歴史の問題集を取り出してページを開く。
「この問題の答えは二百年前に起こったグリードの反乱で、この反乱を切っ掛けに奴隷制度が廃止されたのよ」
今までのあたしだったら文字を見ているだけで眩暈を覚えていたはずなのに何で!?
歴史の問題を解いた後、教科書を開いたスピカは驚きの声を上げる。
「他の教科もそうなのかしら?」
鞄から他の教科の問題集を取り出したら答えを書き、その後に教科書を確認するという行動を繰り返す。
歴史だけではなく外国語に古典、算術といった必須教科の問題集が簡単に解けるという事実にスピカは驚くしかなかった。
「これが・・・ハンターさんの薬の効果って奴なの?!」
凄い!凄いわ!!
裏通りには怪しげな雰囲気を醸し出している薬屋や呪術師が店を構えており、国での販売が禁止されている薬やアイテムが売っていたりする。
但し、効果は確かでも副作用が酷かったり、全く効き目がないという当たり外れがあるのだが───。
一度裏通りの薬屋でそういう類の薬を買って飲んだのはいいが、痛い目を見たスピカはハンターから貰った薬にも懐疑的だった。
だが、間違いなくこれは本物だ。
明日からの自分は王太子妃に選ばれてもおかしくないレベルの教養とマナー等を身に付けた男爵令嬢だ。
周囲の人間から羨望の眼差しを向けられている自分の姿を思い描きながらスピカはベッドに身体を横たえるのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
株式会社デモニックヒーローズ
とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
今の人生に君は満足しているか?
こんな人生で本当に良いのか?
そう囁く声がある。
それは身の内から響く声だ。
己の願いだ。欲望だ。渇望だ。
何かが変われと願う男の元に現れたのは、新しい世界への扉だった。
貴方の子どもじゃありません
初瀬 叶
恋愛
あぁ……どうしてこんなことになってしまったんだろう。
私は眠っている男性を起こさない様に、そっと寝台を降りた。
私が着ていたお仕着せは、乱暴に脱がされたせいでボタンは千切れ、エプロンも破れていた。
私は仕方なくそのお仕着せに袖を通すと、止められなくなったシャツの前を握りしめる様にした。
そして、部屋の扉にそっと手を掛ける。
ドアノブは回る。いつの間にか
鍵は開いていたみたいだ。
私は最後に後ろを振り返った。そこには裸で眠っている男性の胸が上下している事が確認出来る。深い眠りについている様だ。
外はまだ夜中。月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗い。男性の顔ははっきりとは確認出来なかった。
※ 私の頭の中の異世界のお話です
※相変わらずのゆるゆるふわふわ設定です。ご了承下さい
※直接的な性描写等はありませんが、その行為を匂わせる言葉を使う場合があります。苦手な方はそっと閉じて下さると、自衛になるかと思います
※誤字脱字がちりばめられている可能性を否定出来ません。広い心で読んでいただけるとありがたいです
ミスリルの剣
りっち
ファンタジー
ミスリル製の武器。それは多くの冒険者の憧れだった。
決して折れない強度。全てを切り裂く切れ味。
一流の冒険者にのみ手にする事を許される、最高級の武器。
そう、ミスリルの剣さえあれば、このクソみたいな毎日から抜け出せるはずだ。
なんの才能にも恵まれなかった俺だって、ミスリルの剣さえあれば変われるはずだ。
ミスリルの剣を手にして、冒険者として名を馳せてみせる。
俺は絶対に諦めない。いつの日かミスリルの剣をこの手に握り締めるまで。
※ノベルアップ+様でも同タイトルを公開しております。
アルファポリス様には無い前書き、後書き機能を使って、ちょくちょく補足などが入っています。
https://novelup.plus/story/653563055
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
奥様は聖女♡
メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。
ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる