竜王の番は竜王嫌い

白雪の雫

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㊲新メニューの開発-3-

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 ナイジェル地方の貴族や富豪の主食といえば、茹でてから荒く潰したホワイトポテトにチーズとブラウンカウのミルクを混ぜたマッシュポテト、目玉焼きとベーコンとチーズをトッピングしているそば粉のガレット。
 メインは何種類ものスパイスとハーブで味付けした肉か魚の炙り焼きか、パイ包み焼き。
 市場にオーク肉が流通している時は、贅沢品の一つであるオーク肉をふんだんに使った数種類の肉料理だ。
 そして、食後のデザートはゴールデンスイートポテトをヨーグルトで和えた甘いサラダにジャムを載せたヨーグルト、四季折々の果物、そば粉のガレットに塗ったジャムやペーストにしたゴールデンスイートポテトを何層にも重ねたミルクレープのようなお菓子、夏にはイエローハニービーの蜜や砂糖を大量に塗した雪である。
 あくまでもそれらは貴族や大富豪にとって平日のもの。
 お祝い事や宴、お茶会という風に人が集う時は、己の財力と権勢を示す為に高価な小麦粉を使ったパンや菓子を振る舞う。
 一方、平民はというと、蒸かす・茹でる・焼く・練って団子にしたホワイトポテトかゴールデンスイートポテト、摩り下ろしたホワイトポテトとホワイトオニオンを焼いたパンケーキ、水で溶いて焼いたそば粉にハーブで味付けして炒めた野菜を包んだガレットか蕎麦粥を主食としている。
 メインは根菜類に豆とソーセージやホワイトチキン、或いは川魚を一緒に煮込んだスープか、ハーブで味付けをしているホーンラビットの肉の串焼きや炙り焼きである。
 食後のデザートは旬の果物に干した果物、そば粉のガレットにペースト状にしたゴールデンスイートポテトや果物を巻いた・・・クレープのようなものであった。
 「・・・・・・・・・・・・」
 「味気ないと言えばいいのか、物足りないと言えばいいのか・・・」
 「考えてみれば、主食がパンである事を除けば俺達も似たようなものだったんだよな・・・」
 嘗ての自分達もナイジェル地方と似たような食生活だった事に、宿屋に戻る途中で立ち寄った食堂で注文した、塩を塗しただけのホワイトピックの串焼きを食べているリューヴェリオンとラクシャーサがガクッと力を落とす。
 「シェリー、何を作るのか決まったのか?」
 アメシスティナ家の食卓が王侯貴族よりも美味でメニューが豊富になったのは、目の前にいる少女のおかげである事を知っているラクシャーサが尋ねる。
 「そうね・・・小麦粉の代わりにホワイトポテトを使ったグラタンと揚げ物、何か冷たくて甘いデザート、ゴールデンスイートポテトのポタージュとプリン、そば粉を使ったケーキにしようかと思っているわ」
 「ホワイトポテトを使った冷たいデザートとやらが一体どのようなものになるのか、全く想像出来ないのだが・・・?」
 「それを言うなら、そば粉を使ったケーキというのも想像出来ないな」
 シェリアザードの料理の腕を知っているが、ホワイトポテトといえばメインとなる肉か魚の付け合わせ、蕎麦といえば粥かガレットにして食べるというイメージしか沸かないラクシャーサとリューヴェリオンは首を傾げる。
 「脂肪の塊との勝負は三日後だけど、その前に先生達は試作した料理の味見と、どれを出せばいいか選んでくれないかしら?」
 シェリアザードの料理の腕を知っている一柱と二人は、二つ返事で引き受ける。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 その頃
 「バスのパイ包み焼きとオーク肉の炙り焼き、小麦粉で作るバターの風味が豊かな白パン、新鮮な果物をふんだんに使ったタルト・・・」
 これらの料理は王都に住む王侯貴族と大富豪にとって日常的に食べられているものであるが、ナイジェル地方のような辺境地に住む者にとっては贅沢品以外の何物でもなかった。
 「態々王都から取り寄せたんだ」
 勝つのはこの俺に決まっている!!
 冒険者風情に伯爵家の料理人の誇りにかけて負ける訳にはいかないガンツは、シェリアザードが膝を折って絶望の表情を浮かべる姿を思い描きながら声を上げて笑うのだった。





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