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㉝神に希う
しおりを挟む「ユースティア。今日は暖かいから庭に咲く花を愛でながらお茶を飲もうか」
デザートはユースティアが大好きなイエロービーの蜜をたっぷりとかけたケーキを料理長に作って貰うからね
髪は抜け落ち、肌は子供特有の柔らかくて触り心地の良さそうなものではなく枯れ木そのもので、瑞々しさというものが一切感じられない人形───いや、ミイラと化してしまっているユースティアの身を綺麗に整えたジークフリートは少女の身体を抱えて、竜王と竜王が認めた者しか立ち入る事が出来ない庭園へと向かう。
薔薇の花で飾られているゲートを潜った先にあるのは、噴き出している水が涼しさを演出している噴水だった。
中でも目を惹くのは、白竜族の主神の名を冠した【アレキサンダーの泉】であろうか。
噴水の中央は四段のピラミッドになっていた。
一段目にあるのはアレキサンダー像、二段目にあるのは主神を見上げて崇拝している白竜族の像、三段目にあるのはアレキサンダーよりも神格が低く平伏している下級神の像、四段目にあるのは主神・白竜族・下級神に平伏している火・水・土・木・風の精霊像。
清らかな水を湛えている噴水には、頂点に立つ彼等を畏れ敬う人間・エルフ・ドワーフ・獣人・魔族の像があった。
この噴水を見れば、如何に白竜族が他種族を愚かな存在であると見下しているのが分かるのではないだろうか。
「ユースティア、この噴水は我等が主神と白竜族を讃える為に作られたものなんだ」
ジークフリートは物言わぬユースティアの死体に【アレキサンダーの泉】が素晴らしいかを語り始める。
「失礼いたします、ジークフリート様。お茶をお持ちいたしました」
そんな二人の元に、料理長が作ったというイエロービーの蜜をかけたケーキとお茶が入っているポットを手にした年若い侍女がやって来た。
侍女はリーネといい、ジークフリートの命令でユースティアの侍女となった白竜族の若い娘である。
自分はまだ番と呼ぶ存在が見つかっていない。だが、番と過ごす時間を誰にも邪魔されたくないという習性を知っているリーネは、テーブルにお茶とケーキを置くと噴水庭園から離れる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二百年以上前
ユースティアに対する仕打ちを知ったジークフリートは、お気に入りだったアンジェリカだけではなく、己の番の虐待に加わった全ての白竜を力無限牢獄へと投獄した。
無限牢獄とは、その名が示す通り、罪人の命が尽きるその時まで同じ事が繰り返される牢獄である。
料理長及び料理人は蝿が飛び交っている牢獄に投獄された。
蝿に卵を産み付けられて孵った蛆虫に食われ、成長した蝿に卵を産み付けられるという刑に、ユースティアを虐待していた侍女は濃硫酸に満たされた牢獄で身体が溶けていくという刑だ。
愛妾達は道具で口を閉じさせないようにしてから、大量の下剤入りの乳を飲ませて腹を壊させる。そして、自身の排泄物に塗れさせるという刑に服している。
中でも刑が酷いのはアンジェリカであろうか。
【玲瓏の竜姫】と讃えられたアンジェリカは身体の至るところが腐り落ちてしまうだけではなく、腐臭を放つドラゴンゾンビと化してしまった自分の姿を見せつけられるという、自分の美貌に誇りと自信を持っていた彼女にとって屈辱以外の何者でもなかった。
しかも、白竜族には再生能力があるので、肉体が復元しても同じ目に遭う。
つまり、強靭な肉体と生命力、そして再生能力を持つ白竜族にとって無限牢獄は地獄に等しい場所なのだ。
一言で言えば今の天空城には、人間であるという理由だけでユースティアに危害を加える白竜など存在しない。
(ジークフリート様を憐れと思し召すのであれば、今一度ユースティア様を──・・・)
だから、ジークフリートの元にユースティアを遣わして欲しいと、リーネは主神であるアレキサンダーだけではなく、愛と豊穣の女神であるミャンエル、そして神々の母であるエルに王宮へと戻る途中のリーネは少しずつ壊れていく代行者を救う為に希っていた。
だが、リーネの祈りはエルとハイリゲスエールングを敵に回しているが故に、神々に聞き入れられる事はないのだ。
ジークフリートには、サナトスから与えられた試練を乗り越えて精神的に強くなったユースティアの転生体の一言によって魂魄が消滅してしまう未来しかない事を───彼女は知らない。
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