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㉓オーク肉(後編)
しおりを挟むこれは王都だけではなく地方都市でも言える事なのだが、高級料理店で出ている料理の食材はオーク・ワイバーン・キラーフロッグ・コカトリスといった怪物にホワイトクレイン・ホワイトスワン・レインボーピーコックといった鳥類、トラウト・イール・バスといった魚介類を扱っている。
世間一般でそれは富豪や王侯貴族しか口に出来ない高級食材として認識されているのだが、ルチルティーガ帝国で発展していた調理方法が戦火で失われた為、現代の料理はどちらかといえば【不味い】の部類に入る。
「シェリアザード、これは一体・・・・・・?」
器に盛られている野菜は、自分が幼い頃から何度も口にしてきたホワイトポテトとオレンジキャロットとグリーンアスパラである事は分かる。
だが、黄色い料理が何なのか分からないリューヴェリオンはシェリアザードに尋ねる。
「黄色の料理はピカタです。今日はオーク肉を使いました」
「ピカタ?」
「塩と胡椒で下味をつけた食材に小麦粉と卵を絡ませた料理です。ピカタにはこれ、野菜にはこれをつけて食べてみて下さい」
シェリアザードがケチャップの入った瓶と某メーカーのチーズ味のソースが入っている小皿を渡す。
リューヴェリオンにとってピカタは初めて目にする料理だが、作り手がシェリアザードなので味に関しては不安がない。
「では、頂くとしよう」
ナイフとフォークを手にしたリューヴェリオンはケチャップをかけ食べやすい大きさに切ったピカタを口に運ぶ。
「・・・!?」
リューヴェリオンの口に広がるのはオーク肉の柔らかくふわっとした食感と旨味にチーズの風味。これだけだと何か一つ物足りないような気がするが、下味に使った塩と胡椒、そしてケチャップがいいアクセントになっている。
オレンジキャロット・グリンアスパラ・ホワイトポテトをそのまま食べたら味気ないと感じるのだが、小皿に入っている白いソースをつけるとチーズのコクが食を進める。これがあれば野菜嫌いの子供も食べる事が出来るのではないだろうかと思えるほどだ。
次にリューヴェリオンが手にしたのは、オニオンスープが入っているカップ。ホワイトオニオンの甘さと旨味、そして優しい味が心に染み渡るように感じる。
「美味い」
『うむ。ホワイトチキンとコッドのピカタとは違った味わいがあって、これはこれで美味い』
「お口に合って良かったです」
(リューヴェリオンさんって動作の一つ一つが綺麗なのよね・・・)
フォークとナイフの使い方、パンを食べる時の仕種が訓練されたかのように綺麗なものだから、リューヴェリオンはどこかの貴族、或いは富豪の次男か三男という立場で家を継げないから冒険者になったのかな?と推測を立てる。
シェリアザードはリューヴェリオンの姓をヴァンノーツァと思っているが、本当の姓はグラウディウスだ。
リューヴェリオンの実家であるグラウディウス家は平民であるが、代々武芸に秀でた者を輩出する家柄でもある。
これだけを書けば、ラノベに出てくるヒロインの言い分だけを信じて『ヒロインちゃんに対して謝罪しろ!』と腕力にものを言わせて自分の婚約者や悪役令嬢ポジションにある身分の高い令嬢を押さえつける恋愛スイーツ、猪突猛進の脳筋のように思われがちだがそうではない。
どのような手を使えば敵に大ダメージを与える事が出来るか?
どこをどうすれば己の弱点を克服出来るか?
一般教養と礼儀作法と武術だけではなく、己と相手の力量差を見極めて生き残る術を身に付ける
それがグラウディウス家の教育方針であり、その考えが戦乱の世を経て現代に血筋を残せたと言ってもいい。
『シェリアザード。食後のデザートだ』
夕食を食べ終えたワタガシがアイスクリームを要求する。
(はいはい)
立ち上がったシェリアザードは冷凍庫から取り出した某メーカーの一リットル入りバニラアイスをディッシャーで掬いガラスの器に盛り付ける。
「リューヴェリオンさん、食後のデザートです」
「これ、は・・・」
滑らかな舌触りでコクがあってクリーミー。甘いという事は砂糖が入っているのだろうが、かといって甘過ぎず程よい甘さであった。
幼い頃は父母と、成人してからは高位冒険者になってからになるが、リューヴェリオンは高級料理店の料理を食べた事がある。だが、高級料理店で出される肉・魚料理は火を通し過ぎているからなのか味気なく、かと思えば香辛料の味が強過ぎたり、食後のデザートには大量の砂糖や蜜が入っているので舌が麻痺してしまうのかと思ってしまうくらいに甘過ぎるのだ。
以前のポトフもそうだが、旅をしている身でありながら温かい部屋で美味い食事とデザートを食べていいのだろうか?と思いながらも、リューヴェリオンは料理を堪能する。
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