竜王の番は竜王嫌い

白雪の雫

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㉓オーク肉(中編)

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(この家、俺の拠点よりも住み心地が良さそうだな・・・)
リューヴェリオンは世界各地を旅して討伐や調査の依頼をこなす冒険者という事もあるからなのか、地方都市に小さな家を拠点として借りている。
だが、所詮は仮の宿でしかないのか、必要最低限なものしか揃えていない拠点は狭いだけではなくベッドと引き出ししか置いていない宿屋の一室のように殺風景であった。
(例え寝るだけの拠点であっても花でも飾っていたら、少しはマシだったかも知れねぇな)
同じ冒険者でもそういうところは男と女の性差が出ているのか、シェリアザードに案内されながら部屋を見渡しているリューヴェリオンはそんな事を考えていた。
「リューヴェリオンさん。私は今から夕食を作りますので、その間にお風呂にでも入って下さい」
青い容器に入っているのがシャンプー、赤い容器に入っているのがトリートメント、透明な容器に入っているのがボディソープです
それと・・・今着ている服はそこのウォッシャーに入れて下さい。リューヴェリオンさんが入浴している間に洗い終わるだけではなく乾燥までしてくれますので
「風呂!?この家には風呂もあるのか?!」
「え、ええ。風呂は汗と埃に塗れている身体を綺麗にしますし、自分の好きなフローラル系や柑橘系の入浴剤を入れた湯船に浸かれば一日の疲れを癒してくれますもの。リューヴェリオンさんから見れば狭いですけど・・・・・・」
「シェリアザード、そなたの言っている事は分かる。だが、拠点に風呂があるのは贅沢だと思ってだな・・・・・・」
平民にとって風呂といえば大衆浴場が一般的なので、自宅にトイレはあってもバスルームはなかったりする。ましてや、世界各地を旅する冒険者ともなれば、風呂は大衆浴場で済ませるのが普通なのだ。
「リューヴェリオンさん、冒険者は身体が資本です。疲れていたら元も子もありません」
「シェリアザード、心遣いに感謝する」
実家にいる時はともかく、こうして旅に出ている時は大衆浴場で入浴していたリューヴェリオンは、シェリアザードの言葉に甘えて風呂に入る事にした。
肩当て、籠手、ベルト、グリーブ───戦士系や剣士系にとってそれらは己の身を護る為の装備だが、リューヴェリオンの場合は鍛錬と自身の力を抑える為に着けている。
合わせて七十キロもある防具を外し身に纏っている衣服を脱いでいくと浅黒く焼けた肌、均整の取れた身体つき、がっしりとした大胸筋、六つに割れている腹筋、丸太のような両腕と両足、引き締まった臀部───もし、この場にブランシェットがいたら『私はデゼールシュメイラ帝国のサルヴァトール殿下のように甘いマスクの細マッチョがタイプなんだけどな~。でも、この人は左側として見れば非常に理想的な身体をしているわね!』という感じでスケッチするであろう、極限まで鍛え抜かれた肉体がそこにあった。
バスルームに入るなりシャワーのコックを捻ると、降り注ぐ湯がリューヴェリオンの頭と身体に降り注ぐ。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










リューヴェリオンが疲れを癒している頃
「どんな風に料理すればいいのかしら?」
収納ボックスから取り出した、一度も取り扱った事がないオーク肉の塊を前にシェリアザードは悩んでいた。
とはいえ、ここで思い悩んでいても仕方がない。
薄くスライスしたバラの部分をフライパンで焼いて試食してみる事にした。
数分後
(!?)
「柔らかくてジュージー。それなのに脂はくどくない・・・」
火を通したオーク肉を食べたシェリアザードの口の中に広がるのは、平民でも食べる事が出来るブラックピック以上の甘味と風味、程よい歯応え、そしてさらっとしているのにコクがある脂の旨味。
ロース・肩ロース・ヒレ・ももの部分は分からないが、塩と胡椒だけで味付けしたバラがこれだけ美味しかったのだから期待してもよさそうな気がする。
「・・・・・・元の姿だけで敬遠せずに、もう一ブロックずつ・・・いや、二ブロックずつ買っておけばよかった!」
『そんなもの、自分でオークを倒して捌けば済む問題だ。シェリアザード、そなたは師からオークの捌き方を教わっているであろう?出来ぬのであればリューヴェリオンに捌いて貰うかだな』
「リューヴェリオンさん、狩ったオークを捌いてくれるかしら?」
『そなたの手料理を口にしたら異を唱えぬであろうよ』
身体が資本の冒険者にとって食料は生命の最前線の一つなので、食べられる怪物や魔物は狩るのが常識という考えなのだ。
『ところでシェリアザード、オークをどのように料理するつもりでいるのだ?』
豚の角煮のように醤油を使った煮込み、味噌漬け焼きのような焼き物、トンカツのようにパン粉を塗した揚げ物───。
ワタガシが尻尾を揺らしながら期待に満ちた目を向ける。
「そうね・・・」
ワタガシに問われたシェリアザードは考える。
醤油・味噌・米はフィクスにあるかどうか分からないので、それらを使った料理をワタガシにならともかく異世界の食べ物や生活用品を買う事が出来る【スーパーマーケット】というスキルを内緒にしているリューヴェリオンに出す訳にはいかない。
という事はパンに合う豚肉料理に限られてくる。
(野菜の肉巻きはタレに醤油を使っているから避けなきゃいけないし、ローストポークは炊飯器で作るにしても時間がかかる・・・。まぁ、ローストポークは今日の夜か明日の朝に作って収納ボックスに入れるけどね)
「ポークチャップ・・・いや、ピカタがいいわね。後はオニオンスープにサラダ、デザートはアイスクリームでいいかな?」
作る料理が決まったので、シェリアザードはさっそく調理に取り掛かる。
(こうしてキッチンに立っていると母さんを思い出すわね・・・)
収納ボックスから取り出したホワイトオニオンを薄切りしながら、前世の自分が母親の隣で料理している姿を眺めていた事を懐かしむ。
電子レンジで温めた薄切りのホワイトオニオンを中火で飴色になるまで炒めるのが、シェリアザードの前世の母親が作ったオニオンスープだった。
アラームが鳴り耐熱容器を取り出すと、サラダ油を入れて熱している鍋にホワイトオニオンを入れて炒めていく。
木べらで時折混ぜながら炒めたホワイトオニオンが入っている鍋に水・固形スープの素・塩・黒胡椒を加えて十分から十五分煮込んだらオニオンスープの出来上がりだ。
(オニオンスープはリューヴェリオンさんが来たら温めなおさないと)
次にシェリアザードはピカタと一緒に盛り付けるサラダ作りに取り掛かる。
「といっても、どんなサラダがいいかしら?」
サラダには色々な種類がある。
日本人として生きた記憶があるシェリアザードは野菜を生で食べられるが、フィクスではそのような習慣がない事と味付けがなかったのでリューヴェリオン達には不評だった。
(火を通した方がいいわね。温野菜サラダが妥当かな?)
食べやすい大きさに切ったオレンジキャロットとグリーンアスパラとホワイトポテトを茹でるだけだ。
水が入っている鍋にホワイトポテトを入れて茹でている間、オーク肉のピカタ作りに取り掛かる。
「私はヒレ、ワタガシはロースが好きだけどリューヴェリオンさんはどっちが好きなのかしら?」
あっさりとしているヒレが好きなのでヒレを使いたいのだが、今回は仕事なので依頼人の好みに合わせて作るべきであろう。
『あ奴は出された料理に文句を言わぬと思うが、オーク肉で特に美味いのはロースの部分だと我は思っている』
「じゃあ・・・今回はロースを使うわ」
一センチ幅にスライスしたオーク肉のロースに塩と胡椒で軽く下味をつけてから小麦粉を塗す。
慣れた手つきで割った卵をボウルに入れて溶きほぐした後、粉チーズを加えて菜箸でさらにかき混ぜていく。
卵液が入っているボウルに小麦粉を塗しているオーク肉のロースを漬け込むと、フライパンにサラダ油を入れてガスを点火する。少しして熱くなったフライパンに卵液に漬けているオーク肉のロースを中火で焼いていく。
両面に薄く焼き色がついたので、後は器にピカタを作っていた間に茹でたホワイトポテトとオレンジキャロットとグリーンアスパラを盛り付けたら完成だ。
最後に主食であるパン───前回は柔らかいロールパンだったので今回はハード系のバゲットを選んだ。
スーパーマーケットで買った某メーカーのバゲットを袋から取り出しラップで包むと、電子レンジで温める。その間に焼く時間を短縮させる意味でトースターを予熱しておく。
電子レンジから取り出したバゲットからラップを外し、トースターで焼いていく。
三~四分焼いて食べやすい大きさに切ったバゲットを籠に盛り付ける。








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