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⑮美味しいは正義-4-
しおりを挟むあ~っ・・・
「美味しかった~♡」
余は満足じゃ!と言わんばかりに、マリヤが満面の笑みを浮かべる。
『シェリアザード。食後のデザートはどうなっておる?』
キャン!
(分かっているわよ。紅茶を作るのにお湯を沸かさないといけないから待って頂戴)
本当はミルクティーを作りたかったのだが、手間がかかるので今回はストレートティーにする事にした。
『湯か・・・。それくらいなら我が出してやる』
スフレチーズを食べさせると約束していたシェリアザードは、収納ボックスから取り出したケトルに革袋に入っている水を注ごうとしたのだが、ワタガシが魔法で一瞬にしてケトルを湯で満たす。
(あ、ありがとう・・・)
これで湯を沸かす手間が省けた。後は紅茶を作るだけだ。収納ボックスからティーバックとティーカップと深めの皿を取り出したシェリアザードはティーカップに湯を注ぐ。カップと深めの皿に蓋をしている間にスフレチーズを取り出し、それを皿に載せる。
「どうぞ、召し上がれ」
『うむ』
もぐもぐ
ワタガシは目の前に差し出されたスフレチーズを食べつつ、紅茶に舌を伸ばす。
「シェリアザード殿・・・?ワタガシちゃんは何を食べているのだ?」
「食後のデザートのスフレチーズ。甘い食べ物です」
(甘い食べ物という事は・・・あのスフレチーズというパンのようなものに砂糖がたっぷり入っているのだろうな)
ヨシュアは甘いものが食べられない訳ではないが、どちらかちいえば苦手の部類に入る。
市場で売っている焼き菓子や果物に砂糖と蜂蜜が入り過ぎているからなのか、味覚が麻痺してしまうくらいに甘ったるいのだ。
これはリューヴェリオンや他のメンバーにも言える事でもある。
それを知っているからこそ、シェリアザードの答えにヨシュア達は顔を顰める。
「皆さんの分も用意していますから食べて下さいね」
自分だけ食べて彼等には食べさせないという真似などしないシェリアザードは、スーパーマーケットで買った某メーカーのスフレチーズと紅茶を四人の、白湯を注いだカップをラヴィーネの前に置く。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
「有難く頂くとしよう」
これが市場で売っているものであれば躊躇したが、作り手がラクシャーサにアイスクリームの作り方を教えたシェリアザードであれば話は別。
リューヴェリオンは躊躇う事なく皿を手にすると、フォークで適当な大きさにしたスフレチーズを口に運ぶ。
「・・・柔らかくてしっとりとしていて甘い。けど、甘すぎない」
「甘いけど・・・甘すぎない?」
「何だ、そりゃ?」
「言った通りだ。お前達も食べてみろ」
リューヴェリオンの言っている意味は理解出来ないが、人の厚意を無にしたくない三人はフォークで小さくカットしたスフレチーズを口に入れる。
「「「!?」」」
「甘くて柔らかい!でも、甘すぎない!」
「この柔らかいパン・・・市場で売っている焼き菓子のように砂糖と蜂蜜を大量に使っていないから、舌に纏わりつくように甘くないんだ」
「これなら甘いものが苦手な俺でも食べられる!」
「この赤く色づいている飲み物もいい匂いしているし・・・さっぱりしていて美味しい」
「これのおかげで柔らかいパンが幾らでも食べられるな」
「マリヤ、今のあたし達って国王や王妃達よりも贅沢をしているんじゃないかな?」
「レイラちゃんもそう思う?実はあたしもそう思っていたんだ!」
実はスーパーマーケットで買ったスフレチーズ、ワタガシ以外に食べさせるのは彼等が初めてだったので、リューヴェリオン達の舌に合うかどうかという不安があったのだ。
明日になれば別れてしまうだけではなく、二度と顔を合わさない相手であるとはいえ、四人の言葉にシェリアザードは安堵の息を漏らす。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この日の夜はシェリアザードにとって非常に重要なものとなる。
『惚れた女を護る事が出来ねぇ男は男じゃねぇ!!』
『シェリアザード殿・・・今の貴女は独りではない。ワタガシちゃん、いや・・・ハイリゲスエールング様とラクシャーサ殿だけではなく・・・俺達がついている』
『寄ってたかって何の罪もない女の子を・・・昔のシェリーちゃんを虐めた挙句殺す奴なんて生きている価値なんかないよ!!』
『お前なんか死んじゃえ!!』
『俺の教え子をテメェのようなクズに渡す訳にはいかねぇよ』
己の秘密を打ち明ける事が出来るだけではなく、竜王を前に怖気づいてしまいそうになる自分の心を満身創痍になりながらも支えてくれる、本当の意味での友が出来る出会いであった。
そして───ラヴィーネを除く四人と、冒険者として復帰したラクシャーサと共に行動を共にする事になる。
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