竜王の番は竜王嫌い

白雪の雫

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⑮美味しいは正義-3-

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出来立てである事を物語るかのように湯気を立てている透明感のある黄金色のスープ
鮮やかな色の野菜とベーコンとウインナー
キツネ色のパンに挟んでいるのは、鮮やかな緑のグリーンレタスと薄くスライスしている肉とチーズを重ねている料理





「このスープ・・・ベーコンとウインナーがジューシーだし、野菜も柔らかい」
「煮詰めた事でスープに溶け込んでいる野菜の甘味と旨味を感じるな」
「身体が温まる~♡」
「癒される~」
リューヴェリオン達の反応を見るにポトフは概ね好評と見ていいだろう。
「パンに挟んでいるのは何なのかな?」
肉とチーズを重ねている料理なんて初めてなのか、リューヴェリオン達は不思議そうに見つめている。
『やはり、そなたの作る料理は美味いな』
キャン!
「ワタガシちゃんが食べているって事はパンに挟んでいる奴、美味しいのかな~?」
本来であれば、仲間でもない彼女が貴重な食料を使ってまで自分達に料理を振る舞う義理と義務などない。
マリヤが作るエロイムエッサイムな料理に怯えた自分達にシェリアザードが救いの手を差し伸べたに過ぎないのだ。
「シェリアザード殿の厚意だ。無下にする訳にもいくまい」
意を決した・・・というよりワタガシが食べている姿に美味そうだと思っていたヨシュア達はミルフィーユカツサンドを口に運ぶ。
「「「「!?」」」」
パンのしっとりとした柔らかい食感。温かいままで収納ボックスに入れたからなのか、仄かに甘味を感じる茶色いソースとマッチしている柔らかい肉と溶けたチーズ。
「「美味しい!」」
「「美味い!」」
初めて口にする味と食感に四人は声を上げる。
「これ、ブラウンカウの肉よね!?何でこんなに柔らかいの?!」
「すりおろしたホワイトオニオンかヨーグルトに漬け込んでおいたら硬い肉が柔らかくなるの」
「へぇ~っ・・・」
レイラにとって・・・というより、彼等フィクスの住人にとってブラウンカウの肉とは筋張って硬いので噛み切るのに一苦労する食材の一つというのが常識だった。
苦労せずに噛み切れるくらいに肉が柔らかいという事実にマリヤが感動の声を上げる。
「パンも柔らかくて甘い。これだけでも美味しいかも知れない」
「リューヴェリオンさん、これってオーク肉より美味いですよね!」
「そうだな」
「オーク?オーク肉って高級食材の一つですよね?リューヴェリオンさん達は食べた事があるのですか?」
「ああ。でも、これと比べたら雲泥の差だがな」
シェリアザードの問いにリューヴェリオンが答える。
オーク肉とは読んで字の如く、怪物の一種としてお馴染みであるあのオークの肉である。
リューヴェリオンの話によると、オーク肉はブラックピックを数段グレードアップした食材であるらしい。
幼い頃からチェザーレに鍛えられたリューヴェリオンは自分で倒したオークを調理して食べた事があるし、王都でも一・二位を争う店で作ったオーク肉を口にした事だってある。
しかし、どういう訳かパサパサとして硬いのだ。
それって、調理方法に問題があるのでは?
シェリアザードは声を大にして言いたかったのだが、考えてみればルチルティーガ帝国が滅亡してしまった事が原因で、食文化が後退してしまったのだから料理人達を責める言葉を口にする訳にはいかなかった。
(オークの肉って食べた事がないのだけど・・・ブランド豚のように柔らかくて上質な肉だと思えばいいのかしら?でも、あれを食べるのって相当な勇気を出さないといけないわね、きっと・・・・・・)
『シェリアザード、そなたであればオークの肉を美味く料理出来よう』
頭部は豚という人型で女であれば見境なしに襲う性欲旺盛な怪物であるオークを思い浮かべただけで食べる気が失せてしまったシェリアザードはオーク肉を避けようと決意するのだが、そんな彼女にワタガシが念話で待ったをかける。
(ワタガシ?)
『オークの肉は柔らかくてコクがあってだな、脂には旨味と甘味があるのだ。味は・・・そうだな。以前、スーパーマーケットで買った豚肉・・・確か、100gで銀貨一枚くらいしたあの肉と同じようなものだ。そう思えばそなたでも食べられるのではないか?』
(・・・・・・・・・・・・オーク肉がブランド豚と言われても、元の姿があれでは)
『では聞くが、我等が普段口にしているブラウンカウやブラックホッグとオークに何の違いがあるのだ?』
(そ、それは──・・・)
ワタガシの問いにシェリアザードは答えに詰まる。
牛・豚はOKだが鯨はダメ。
何でダメなの?と聞かれたら、牛・豚は家畜だから食べてもよくて、乱獲で減っている鯨を保護しないといけないからと答えるだろう。
だが、それはその土地に根付いている食文化を否定する事になるのだ。
(・・・・・・わ、分かったわ)
国・地域・土地に伝わる文化を否定する=彼等のアイデンティティを否定するという考えを持っているシェリアザードにとってそれは本意ではない。
郷に入っては郷に従え
シェリアザードはワタガシにオーク肉を使った料理を食べさせる事を承諾するしかなかった。
「あの・・・出会ったばかりのシェリアザード殿にこのような事を頼むなど図々しいと分かっているのだが、その・・・肉とチーズを重ねた料理を挟んだパンを作ってくれないか?!」
あれはとても美味かった
成人男性、それも身体が資本である彼等にとって、ミルフィーユカツサンドが一つだけというのは物足りないのだ。
「俺も」
「あたしも!」
「あたしも」
それはヨシュアだけではなくリューヴェリオン達も同じだったらしい。
一人につき銀貨一枚を払うと提示して四人がシェリアザードに頼み込む。
和食・洋食・中華料理を食べ慣れているワタガシならともかく、彼等にとってミルフィーユカツサンドは未知の料理。
受け入れられるかどうかが分からないので一つしか作らなかっただけなのだ。
「分かりました」
こいつ等、本当に図々しいな!
視線で訴えるラヴィーネをよそにシェリアザードはミルフィーユカツサンドを作り始める。







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