竜王の番は竜王嫌い

白雪の雫

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⑪天狼・ハイリゲスエールング

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急がば回れ
コツコツと地道に積み重ねていく事こそが成功への近道である
バルでの給仕、荷物の配達、孤児院の子供達の世話、家庭教師、倉庫の整理整頓、家事代行等といった雑用系の依頼を丁寧にやり遂げるだけではなくコツを教えた事で近隣の住民達からの評判は良いものの、自分と同じ時期に登録した者達と比べたら一足遅れてFランクになったシェリアザード。
薬草、花、キノコ、山菜、果実、蜂蜜───
(採取系の依頼か・・・)
依頼内容が貼られている掲示板の前に立ちながら、何の依頼を受けようかと考える。
う~ん・・・
「これにしよう」
シェリアザードが手にしたのは、一粒で銀貨一枚というスノーホワイトストロベリーの採取だった。
スノーホワイトストロベリーというのは糖度が高くて酸味の少ない雪のように白い果実・・・・・・一言で言えば白い苺である。
ただ、この果実はその名が示すように、冬のルミエルの森でしか実をつけない。
レッドストロベリーとは異なりスノーホワイトストロベリーは栽培方法が見つかっていないが故に希少価値が高く、王侯貴族や富豪しか口にする事が出来ない贅沢品の一つである。スノーホワイトストロベリーを用意出来るという事は、上流階級の者達にとってステータスであると同時に己の財力を相手に見せ付ける意味合いもあるのだ。
掲示板に貼っている依頼書を取ったシェリアザードは受付へと向かう。
「すみません。依頼の受付をお願いいたします」
「はい。スノーホワイトストロベリーの採取ですね?承りました」
シェリアザードが差し出した依頼書を受付嬢が魔道具に通す。
「この時期の王都は雪かきしているとはいえ寒さで道が凍結していますし、ルミエルの森は降り積もった雪で歩くのも困難ですので、きちんとした装備をして下さいね」
「ええ。ですから、ちゃんと防寒だけではなく雪対策もしているのですよ」
ほら
年頃の女性であれば思わず『可愛い』と声を上げてしまう、お洒落なロングのダウン風コートを身に纏っているシェリアザードがファッションモデルのように受付嬢の前でくるりと回ってみせる。
「か、可愛い~♡もしかして、この防寒着ってシェリアザードさんがデザインを考案したアメシスティナ商会の新作ですか?」
「そう。女性らしさをアピールするファーつきの防寒着もあるから、仕事が終わったら店に寄って欲しいわ」
「行く!実はそろそろ新しい防寒着が欲しいと思っていたのよ!」
彼氏に買って貰おう~っと♡
「っていう事は・・・このブーツも?」
「そう。滑り止めだけではなく防水性と防寒性も兼ね備えているわ」
「でしたら、ルミエルの森に行っても大丈夫ですね」
受付嬢の言うように、普通の靴で雪道を歩いたり走ったりすれば滑るし濡れるので辛いものがある。但し、それは気功術が使えない者達の話だ。
水の上だけではなく針山であっても自由に動けるシェリアザードであれば普通の靴であっても問題はないのだが、それを説明するのは面倒以外の何物でもないので、周囲の目を誤魔化す意味でスノーブーツを履いている。
「では、スノーホワイトストロベリーの採取に行ってきますね」
受付嬢にそう答えたシェリアザードはルミエルの森へと向かう。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










ルミエルの森というのは栗鼠・ハリネズミ・鹿・梟・ヤマネコ・キツネ・狼・熊といった数多の動物が棲んでいるだけではなく、山の幸が豊かな森である。
付近の住民にしてみれば木の実と山菜の宝庫、腕に覚えのある狩人にしてみれば良好の狩場、冒険者にしてみれば薬草の宝庫という認識でしかないのだが、この森にはある伝説があった。
ルミエルの森は神々の母であるエルより生まれた原初の神の一柱にして天地を駆け巡る神獣・ハイリゲスエールングが守護しているので山の恵みは豊か。故に森の恩恵を受ける者達は森そのものを神として崇め、動物達は魔物に脅える事なく安心して暮らせるのだと。
おそらくこの伝説は、ルミエルの森への感謝の念を忘れない為に生まれたものではないか?
シェリアザードはそう考えていたのだが、考えてみれば自分は八百万の神を信仰する国で育っただけではなく、実際に神様達の恩恵を受けているのだ。伝説は伝説でしかない可能性も否定出来ないが、案外真実かも知れないと思い始めているので機会があればルミエルの森を探索したいと思っている。
「よしっ!」
スノーホワイトストロベリーを摘む為、シェリアザードは森の奥へと進んでいく。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










依頼書に希望の数は書いていなかったが、森に棲む動物達の事を考えれば摘むにしても限度がある。
「これくらい、摘めばいいかな?」
上流階級の人間が見栄を張れる個数分のスノーホワイトストロベリーが入った籠を収納ボックスに入れた事で今日の自分が引き受けた依頼を終えてしまったので冒険者ギルドへと戻ろうと思ったのだが、日もまだ高いし白銀の世界を楽しみたいシェリアザードは春とは違った顔を見せるルミエルの森を散策する事にした。





冷たくて澄んだ空気
春に花を咲かせる為の準備をしている冬芽
氷の芸術とでも言うべき氷瀑
静寂に包まれているからなのか、冬の森はモノクロであると感じるのに神秘で幻想的な世界そのもの───。





森を歩いただけで世間の煩わしさから開放されたような気分となり、また心が癒された事で気持ちを引き締める事が出来たシェリアザードは王都へ戻ろうとした。
その時───
「洞窟?」
シェリアザードが見つけたのは洞窟だった。どうやら自分でも気づかない内に付近の住民や冒険者達も足を踏み入れない森の奥へと進んでいたらしい。
「・・・まさか、この洞窟の奥は鍾乳洞があるのかしら?アリババと四十人の盗賊よろしく溜め込んだ財宝が隠されているとか?或いは古代人が祭壇として利用していた?」
洞窟を前にシェリアザードは考える。
これはエデルリオン王国だけではなく他国でも言える事だが、盗賊が溜め込んだ財宝、遺跡やダンジョンで発見した古代の魔法道具マジックアイテムは全て発見者が手にする事が出来る。
但し、古代遺跡やダンジョンには試練に挑む者の命を奪うトラップが至る所に仕掛けられているわ、暗号を解読しないと先に進めないわ、番人として存在しているキマイラやゴーレムといった凶悪な魔物や怪物を倒さないと先に進めないわ───。
とまぁ、こんな感じでそれらを攻略しないと莫大な財宝を手にするのは容易ではないのだ。
ルミエルの森は付近の住民にとって信仰の対象であり、冒険者にとって薬草の宝庫であるが、そのような場所に盗賊が財宝を隠すだろうか?
いや、そのような場所であるからこそ盗賊にとっては溜め込んだ財宝を隠すには最適なのかも知れない。
「・・・・・・でも、何の下準備もなしに洞窟を探索するのは下策以外の何物でもないわ」






『洞窟というのは神秘の世界だ。だが、同時に危険な世界でもある。山賊のアジトと化していたり、高濃度の有毒ガスで満ちていたり、そこでしか棲めない希少な生物が存在していたり、体長が十数メートル以上もある妖蛇の住処と化している場所もあるからな。いいか、シェリー?これはトレジャーハンターだけではなく冒険者を目指す者全て・・・いや、軍の指揮官にも言える事なのだが、引くのもまた勇気だ。何の下準備もなしに洞窟の探索をしたり、相手の力量を見極めずに立ち向かうのは蛮勇以外の何者でもない』






その点に関してはラクシャーサから何度も注意を受けていたので、シェリアザードはそのような愚を犯す気など毛頭ない。
「・・・・・・帰ろう」






人間の娘よ
そなたから巨大な魔力を感じる
汝は何者ぞ






「だ、れ・・・?」
呼ばれたような気がしたシェリアザードは振り返るが───誰もいない。
(気のせいかしら?誰かが・・・いいえ、何かが近くにいるみたいね)
シェリアザードはさり気なく気配を探ってみるが───それは森に棲む動物のものでもなければ人型生物のものではない。かといって怪物や魔物のものではなかった。
(まさか・・・神獣・ハイリゲスエールング?)
「そんな訳ないか」
確かにルミエルの森は神獣・ハイリゲスエールングが守護しているという伝説があるけど、住処ではないのだ。
我ながら馬鹿な事を思ってしまったものだと、シェリアザードが己の考えを否定したその時、再び自分を呼び止める声が聞こえてきた。





人間の娘よ
我の問いに答えよ
汝は何者ぞ





「貴方は一体・・・?」
その後に続くはずであった何者ですか?という言葉を、目の前にいる生物を前にして驚きを隠せないでいる彼女は発する事が出来なかった。
何故ならシェリアザードの瞳には、緑と金色の瞳に雪のように白くて美しい毛並みを持つ、フェンリルのように神々しさをも感じさせる一匹の巨大な狼が映っていたからだ。
(こ、これは絶対に死んだわ・・・。死亡フラグが立ってしまった・・・。どうせ死ぬなら、ブランさんの18禁のBL新作を読んでからが良かった──・・・)
『死亡フラグ?18禁のBL新作?それらが何なのか分からぬが、これだけは言っておく。人間の娘よ、我には人間を食べる趣味などない』
「えっ?」
死を覚悟したシェリアザードは誰かに話し掛けられたような気がしたので辺りを見渡すが───そこには自分以外の人間はおらず狼しかいなかった。
(も、もしかして・・・狼が喋って、いる?某特攻女神の敵であるあの神様のように低くて威厳のあるいい声なんですけどーーーっ!!!)
『我と汝は喋っているというより念話・・・つまり、そなたの脳に直接語りかけていると言った方が正しいな』
「ね、念話?!何故、狼がテレパシーを使えるの!?いえ、そんな事よりも!私、さっきから一言も話していないのに何で死亡フラグや18禁のBL新作という言葉を狼が知っている訳?!」
『汝の思っている事が我に流れてくるからだ。今のように何かを考えていたら・・・・・・であるが』
「!!?」
狼の答えを聞いた途端、シェリアザードの顔は恥ずかしさで真っ赤になっていた。
「あの、その、え~っと、今更ですけど・・・・・・狼さんにお聞きしてもよろしいでしょうか?」
『汝の問いに答えるが、その前に我の問いに答えよ』
「そう言われましても・・・」
目の前の狼が、自分の名前や何の目的でルミエルの森に来たのかと問い掛けているのではないのだという事くらいシェリアザードは察している。だが、狼からの問いが余りにも抽象的過ぎるので、何をどう答えればいいのか分からないのだ。
『では、問い方を変えよう。人間の娘でしかない汝から、何ゆえ我が母エルの力を感じるのだ?』
「エル?狼さんが言ったエルって・・・もしかして、神々の母にして冥界の女王であるエル様の事ですか?」
狼がエルを母と口にした事でシェリアザードは察した。
この巨大な狼の正体が神々の母であるエルを母に持つ、原初の神の一柱であり神話の時代では天地を支配していた天狼。エルと交わり、犬型・猫型・狐型等───フィクスに存在する獣人が神として信仰しているフェンリル、人の姿に変化出来る金狼族と銀狼族の祖であると言われているハイリゲスエールングである事を───。
「天狼・ハイリゲスエールング様。信じてくれるかどうか分かりませんが、私が今から話す事は全て真実です」





一度目はユースティア=フロノワールとして、エルの力によって異世界に転生した二度目は園宮 真珠として生きた記憶を持っている事
人間に変化した時は極上のイケメンだが、中身はクズでゲスなトカゲ野郎に二度も殺された事
ミャンエルをはじめとする神々に異世界の商品を買う事が出来るスーパーマーケットといったスキルを与えられただけではなく、様々な事を教わってシェリアザード=アメシスティナとして転生した事





シェリアザードはハイリゲスエールングに全てを打ち明ける。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










『アレキサンダーの代行者である彼の竜王を、取り得が顔だけの中身がクズでゲスなトカゲ野郎とは・・・。シェリアザードよ、中々に的を射た表現をするではないか』
シェリアザードから話を聞いたハイリゲスエールングは面白いと言わんばかりに声を上げて笑い出す。
『人間の娘でありながら母の力を感じた理由は分かった。今はミャンエルのおかげで竜王から隠し通せているからまだよい。だがな、今のままでは同じ事を繰り返すぞ』
「それは・・・どういう事ですか?」
『これは白竜族だけではなく、金狼族と銀狼族といった獣人全てに言える事なのだが・・・・・・奴等は番に対して一途であると言ってもいい。ユースティア=フロノワールを求める強すぎる想いが、異世界に転生した形で己から逃げた園宮 真珠を殺したようにな』
「でも、ユースティア=フロノワールは全てにおいて劣る人間であるというだけで白竜族に見下されていただけではなく、雌トカゲ共に虐げられていると訴えても、情が深く赤子のように純粋無垢で清らかな心を持っている彼女達がそのような事をするはずがないと、きっぱり言い切ったクソッタレ野郎は私の事を嘘吐き呼ばわりしましたけど?」
『だが、奴等の番を求める想いは本物だ。奴は何れユースティアの生まれ変わりであるシェリアザードを見つけ出して【魂魄の契り】を交わそうとするであろうな』
「魂魄の契り?」
初めて耳にする言葉に嫌な予感がしたシェリアザードは顔に疑問を浮かべる。
『シェリアザードよ、当事者であるにも関わらず【魂魄の契り】についてミャンエル達から何も教わっておらぬのか?』
「え、ええ・・・」
(それって碌でもないものなのでしょうね、きっと)
ハイリゲスエールングの言葉にシェリアザードは頷く。
【魂魄の契り】というのは、行為の最中に己の血を飲ませる事で相手の寿命を延ばす儀式である。簡単に言えば、二人で一緒に死にましょうというものだ。但し、それが出来るのは神々の代行者だけであり、獣人の中でも体力と魔力に秀でている金狼族と銀狼族であっても番の寿命を延ばす事は出来ないのだ。
ただ、ハイリゲスエーリングの話によると、金狼族と銀狼族の番が異世界人の女性であれば、幾つかの段階を踏まなければならないものの寿命を延ばせるらしい。
「顔だけが取り得の爬虫類とセックスなんて絶対無理!!あのクソッタレの番になるくらいなら、ゴブリンやオークの苗床になった方が遥かにマシだわ!!!」
ハイリゲスエールングの説明で【魂魄の契り】が何なのかを理解したシェリアザードが恐怖で身を震わせる。
『シェリアザードよ、汝が奴と【魂魄の契り】を交わさなくて済む方法が一つだけある』
「本当ですか、ハイリゲスエールング様?!是非、教えて下さい!!」
『簡単な事だ。シェリアザード、汝が奴に死を宣告すればよいのだ。番であるそなたに拒否されたという事実が奴の魂魄を消滅させる。但し、それは汝が奴と【魂魄の契り】を交わしていない状態でなければ出来ぬ方法であるがな』
「・・・・・・」
藁にも縋る思いで問い質したシェリアザードであったが、【魂魄の契り】を避ける方法が意外と簡単であったという事実に思わず脱力してしまっていた。
『だが、ジークフリートとの因縁を完全に断ち切るには、そなたがクソッタレ野郎と呼ぶ男と顔を合わせねばならぬのだが──それでもよいのか?』
「・・・・・・・・・・・・」
ハイリゲスエールングの一言に、やるせない思いになってしまったシェリアザードは己の拳を強く握り締める。
分かっているのだ。
今の自分は単にジークフリートから逃げているだけでしかない事を。
本当の意味でジークフリートから自由になるには、自分が直接対峙しなくてはいけない事を───。
「・・・・・・・・・・・・」
『ユースティア=フロノワールであったそなたを殺しただけではなく、奴の番の転生体であるそなた自身が望んでもいないにも関わらず【魂魄の契り】を交わそうとする相手と向き合うのは汝にとって恐怖でしかないであろうな。そこでだ。我はそなたと・・・シェリアザードと行動を共にして力を貸す事にする』
「はい?ハイリゲスエールング様、それってどういう意味なのでしょうか?」
『どういう意味も何も、我はシェリアザードと共に行動をすると言っているのだ』
ハイリゲスエールングの見た目は巨大な狼だが、その正体はエルから産まれた神なのだ。
下位はスライム、上位はドラゴンといった魔物をテイムして従魔契約をするというのは低確率であるかも知れないが、それはきちんとした訓練を積んだテイマーであるからこそ出来る事なのだ。テイマーでもない自分が天狼と一緒に行動をするという展開にシェリアザードは思わず頭を抱える。
「私と一緒に行動をしてもハイリゲスエールング様には何のメリットもありませんよ?」
『そうであろうか?汝と行動を共にすれば異世界の・・・特に料理は美味と聞いておる。ルチルティーガ帝国が存在していた頃はフィクスの料理もそこそこ美味であった・・・。だが、先の大戦でルチルティーガ人が書き記したレシピが失ってしまった事で我は美食を楽しむ事が出来なくなってしまった。シェリアザードよ、異世界人として生きた記憶があるそなたであれば異世界の料理を再現できるのであろう?我への報酬はそれでよい。それにな、汝も我と行動を共にすれば命を落とす危険を回避出来るし、何と言っても奴から身を護れると思うがな?』
シェリアザードは考える。
ハイリゲスエールングの言うように、ジークフリートを倒す方法が分かったとはいえ何らかの形で邂逅してしまったら、まずユースティアだった時に嫌というほど味わった恐怖が襲ってくるだろう。今のシェリアザードは修行してユースティアだった頃と比べると格段に強くなっているとはいえ、やはりジークフリートは嫌悪と恐怖の対象でしかないのだ。
最終的にはジークフリートに対する恐怖を克服して自分の心の有りようを変えなければいけないのだが、神であるハイリゲスエールングが傍にいてくれたら、それだけで立ち向かえる勇気が出てくると思う。
「・・・ハイリゲスエールング様がそう仰るのであれば、私は別に構いませんけど。ですが、見た目が巨大な狼・・・見ようによってはフェンリルとも受け取れ兼ねない今の姿だと、人間の世界で色々と支障が出るのではないかと──・・・」
自分は冒険者なので、狼の姿のままのハイリゲスエールングと行動を共にするとなれば冒険者ギルドで神様を従魔として登録しないといけないのだ。
『そなたの従魔になるという形で我が人間世界で行動出来るのであれば、そのようにしても構わぬ』
「私としては神様であるハイリゲスエールング様を従魔扱いする事に対して心理的に抵抗があります!ふわふわのもこもこ・・・出来れば産まれたての仔犬サイズくらいになって頂ければ従魔登録しなくて済むのですけど」
ふむ
『ならば、これでどうだ?』
シェリアザードから人間世界の事情を聞いたハイリゲスエールングの行動は早かった。二~三十メートルくらいだったハイリゲスエールングが見た目は綿菓子の、産まれて間もない仔犬ほどの大きさになったのだ。
「か、可愛い~♡」
ふわふわのもこもこ仔犬になったハイリゲスエールングを抱き上げたシェリアザードは黄色い声を上げる。
「でも、姿は綿菓子な仔犬なのに、威厳と迫力がありすぎる○ーデス様ボイスというのは余りにもシュール過ぎますね。ハイリゲスエールング様、声も変える事が出来ますか?」
『・・・・・・人前や街中でそなたと会話する場合は念話で済ませればよいから何の問題もなかろう?それにだ、この姿でいる時の我が人間の言葉を話せるなど誰も思いもせぬわ!』
キャンキャン!
声まで変えろと言ってきたシェリアザードに、ハイリゲスエールングが某アニメに出てくる小犬を思わせる実に可愛らしい声で吠える。
「綿菓子な仔犬でいる時の声ってそんな感じだったのですね?!これでしたら何の問題もありません。それから、人前で本当の名前を口にする訳にはいきませんので、この姿でいる時の名前も決めないといけませんね」
う~ん・・・
「見た目が綿菓子なので、ワタガシにしましょう」
『ワ、ワタガシ・・・?仮の名前であるとはいえ何の捻りもないな!』
例え仮名であっても、もっとカッコいい名前を付けて欲しいとハイリゲスエールングが訴える。
「カッコいい名前・・・?ポチ?コロ?シロ?サブちゃん?」
『ポチ?コロ?シロ?サブちゃん?シェリアザードよ、そのような名前をカッコいいと思っているのか!!?・・・そなたのネーミングセンスを心底疑うぞ?!』










一悶着はあったものの、ハイリゲスエールングが綿菓子な仔犬の姿である時の名前は【ワタガシ】で落ち着いた。









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