上 下
40 / 41
時を止めるヒーラー

4-11 総攻撃で立ち向かえ

しおりを挟む
 まさかケスキモーがモンスター討伐に力を貸してくれるとは思わなかった。理由はなんであれ、助けてくれるならそれに越したことはない。

「リュウウウウ……リュウ!」

 リリロイト・ドラゴンも、こちらに感づいたようだ。ツデレンが新呪文を習得して、仲間も加わった。今ならなんとかなるかもしれない。

 気合が体中から湧き出てくる……勝てる、きっと勝てる……!

「あの、わたくし、杖を落としてそれっきりなので戦えません」

 申し訳なさそうに、ジョーマーサが小さく手を挙げた。いきなり士気が削がれ、先行きが不安になった。

「ヨキヒルセ!」

 ジョーマーサの杖は現在ドラゴンの足元にあった。それが呪文を唱えたツデレンの手元まで引き寄せられる。人以外でも対象になるとは、なんという汎用性の高さだろうか。

「ほらよ、これで……うう……!」

 杖をジョーマーサに渡した直後、ツデレンは頭を押さえる。呪文の対象が人でない場合は、ツデレン本人が目を回してしまうらしい。

「おいおい……マヤイ・ユチルス」

 ツデレンもかなり気楽に呪文を使うようになった。状態異常回復の呪文も、想像以上の汎用性がある。
 良かった……これが無かったら、今頃どうなっていたことやら……。

「さ、今度こそ本当に気を取り直して……」
「リュウウウウウ!? リュウウッ!!」

 仕切り直しをする暇がなかった。ドラゴンは足を踏み鳴らし、衝撃波を発生させた。

「ぐああああああああああ!!! ……ユチルス!」

 俺たち4人はなす術もなく吹き飛ばされた。近くの木に腰を強打し、骨が折れたかのようなしびれが体中に走る。
 すぐさま回復呪文で自分と仲間の傷を癒し、体勢を整える。

「くうぅ……アンタ、時を止める呪文あるんじゃないのか?」

 ケスキモーが対処してくれる、そんな期待を勝手にしていたのが間違いだった。事前にどう戦うのか共有していなければ実質的な戦力が増強したとはいえない。

「連発はできない。以前君たちの戦いを見たが、大技はないみたいじゃないか。今回は攻めの機会に使うべきだろう」

 ケスキモーなりに戦況を見据えてのものだったようだ。左腕の機械についた土をはらい、俺に視線を向けた。

「つってもなぁ、攻めるにも……」

 攻めるためには近づく必要がある。しかし攻撃のせいで簡単に近づけない。

 だからといって簡単に時を止める呪文を使えない。1つでも力の使いどころを間違えたら負けに直結しかねない状況だ。

「近づくなら私の呪文がある。ヨキヒルセ!」

 俺の心を読んだかのように、ツデレンは杖をドラゴンの頭部に向けて叫んだ。するとツデレンの体が浮き、ドラゴンに近づいていく。

「なるほどっ……!」

 ヨキヒルセで引き寄せられるものにも限界があり、それを超えると今度は呪文を唱えた側が近づくことになるのだろう。
 ツデレンは空中で体勢を変え、今度は杖をこちらに向ける。

「おおっ!?」

 後に続くように、俺たちもツデレンのほうへ引き寄せられた。恐らく彼女が再度呪文を唱えたと思われる。体が宙に浮き、最終的にはドラゴンの顔の上に着地する。

「マヤイ・ユチルス!」

 目が回る代償が来る前に、呪文で相殺する。これで攻撃の準備は整った。

「リュ? リュリュ!? リュウウウウウ!!」

 顔に乗られたことなんて滅多にないためか、ドラゴンは混乱していた。首を左右に振り始めた影響で、足場がグラグラと揺れる。

 ヤバい……! せっかくここまで来られたのに……! 落ちてしまっては意味がない。

「おおっと! 今すぐ攻撃に移ろう、準備はいいね?」

 ケスキモーだけはニヤりと笑っていた。この状況で長期戦ができるわけがない。俺はコクりとうなずき返した。

「……イテシルス!!」

 ケスキモーは左手を開き、ドラゴンの顔にたたきつける。青白い光が手の中心から広がっていった。

 ピタり、とドラゴンの動きが固まり、声も一切出なくなる。

「これが一周する間だけ時が止まる。狙うは鼻だ!」

 ケスキモーは左の手の平を見せた。円の模様が光で記されていて、円の中心と弧を結ぶ直線が右回りで動いている。速度は目で見ても変化が分かる、そう長い時間ではない。

 ケスキモーが鼻に向かって直進する。俺たちも後を追う。鼻の穴の前まで到着すると、各々の武器を穴に向けた。

「はあぁ……! マナダン!」
「ガイナ・マナルキ!!」
「第1の術、ユチダン!」
「スーリュイ・ハ・ゲダキ!」

 魔球を放ち、刃を鼻に突き刺し、衝撃波を飛ばす。
 時が止まっていても、ダメージは与えられるはず。そして過度なダメージを受けることで、セッカケラに変わるはず。

「マナダン! マナダン! マナダン! マナダン!」

 しかし何度攻撃しても、その気配は一切ない。固まっているせいでダメージを与えられている実感も湧かない。

 大丈夫なのだろうか……時を止める呪文は連続使用できないとなると、この機を逃すわけにはいかない。

 ここを耐えられたら、完全にドラゴンに勝機が向いてしまう……!

「うおおおおおおおおおおっっ!!」
「ユチダン! はあぁ……ユチダン!」
「スーリュイ・ハ・ゲダキ……!」

 3人も攻撃の手を止めることはない。ただひたすらに呪文を一点に当て続けた。ダメージの蓄積を信じ、呼吸をする間すら惜しんだ。

「リュ……!」

 時が動き出した。

 鼻の穴の周囲が、うっすらと白く変色する。しっかりとダメージは通っていたようだ。

「リュウウウウウウウウウウ!!! ウリュウリュウウウウウウウウウウ!!」

 しかし、それで勝ちというわけではなかった。
 蓄積したダメージが一気に襲ってきたからか、ドラゴンは激しく暴れまわった。首を振り、足踏みをし、体を大きくひねる。

 さらに暴れまわると、白かった鼻の周りが元の七色に戻り始めていた。

 ここまで暴れられて顔の上に居続けられるわけもなく、俺たち4人は振り落とされた。

「ぬわあああああっ!?」

 ダメだ……!

 どうすればいい? どうすれば勝てる?

 あれだけの総攻撃でもセッカケラにはできなかった上、今は暴れていて攻撃可能な位置に行くことすらできない。

 何かないのか? この状況の打破はできないのか?

 必死に頭を巡らせる。でも方法は思い浮かばない。今使える呪文で、ここから形成を逆転できる手段はない。

 それでも……それでも勝たなきゃいけない! こんなところで負けたくはない!

「俺に……!! 俺に力を!!!」

 窮地に追い込まれても諦めない心……それが新しい呪文の習得につながる。

 だとすれば、今すがれるのはこの杖しかない。

 頼む……。

 俺の潜在能力を、引き出してくれ……!

 <****・****・****>

 来た……!

 頭に響き渡る長い呪文。

 体中が熱くなり、痛覚が吹き飛んだ。

 これこそが、逆転の一手……!

「ハコウツ……デイカ……」

 口にするだけで周囲の空気が変わる。
 落下速度が極限までゆっくりとなり、空中を泳ぐようにして、自由に体勢を整えられた。

 まだ呪文を全て言い切っていないのに、今まででは考えられない桁違いの力を感じる。

 杖をしっかりドラゴンの顔に向け、深く息を吸った。

「……マナセン!!!」

 肺にたまった空気を全て吐き出した。

 自分の肉体が発光を始め、光がドラゴンの頭部へ伸びる。野太い光線の中に自分自身がいる状態だった。
 明るくて細かい様子が判別できないが、一直線にドラゴンに直撃したことだけは把握できた。
 光線の発射音は骨を振動させるほど重々しい。他の周囲の音が全てかき消される。

 そして、光は消えた。

 ドラゴンの鮮やかなウロコは、白1色に変わっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

忘却の思い込み追放勇者 ずっと放置され続けたので追放されたと思ったのだけど違うんですか!?

カズサノスケ
ファンタジー
「俺は追放されたのだ……」 その者はそう思い込んでしまった。魔王復活に備えて時の止まる異空間へ修行に出されたまま1000年間も放置されてしまったのだから……。 魔王が勇者に討たれた時、必ず復活して復讐を果たすと言い残した。後に王となった元勇者は自身の息子を復活した魔王との戦いの切り札として育成するべく時の止まった異空間へ修行に向かわせる。その者、初代バルディア国王の第1王子にして次期勇者候補クミン・バルディア16歳。 魔王戦に備えて鍛え続けるクミンだが、復活の兆しがなく100年後も200年後も呼び戻される事はなかった。平和過ぎる悠久の時が流れて500年……、世の人々はもちろんの事、王家の者まで先の時代に起きた魔王との戦いを忘れてしまっていた。それはクミンの存在も忘却の彼方へと追いやられ放置状態となった事を意味する。父親との確執があったクミンは思い込む、「実は俺に王位を継承させない為の追放だったのではないか?」 1000年経った頃。偶然にも発見され呼び戻される事となった。1000年も鍛え続けたお陰で破格の強さを身に着けたのだが、肝心の魔王が復活していないのでそれをぶつける相手もいない。追放されたと思い込んだ卑屈な勇者候補の捻じれた冒険が幕を開ける!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...