上 下
42 / 61

第31話

しおりを挟む
夏休みが始まる直前まで学園の音楽室とスタジオでみっちりと練習した。
まぁ、学園では歌ってないけど。

「音楽室はスタジオと違って完全防音じゃないから、歌うのはナシだ。そのかわり、音をひたすら聴いて耳をならせ」

と、シュウゴに念押しされたからだ。
仕方ないので、家のカラオケルーム?でもらった音源流して歌ってる。
屋上でも、チームの曲は歌ってない。





〆◼️〆◼️〆◼️〆





「ねぇねぇ!!!大変だよ!」

夏休み1週間前、顔を青くして音楽室に駆け込んできたヒカルは叫んだ。

「どうしたんだ、ヒカル?」

「どうしたも、こうしたもないよ!たいへんなんだってば!」

「だから、何がだ?」

「夏休みの1ヶ月間、、、学園完全封鎖で音楽室使えない!」

「は?冗談だろっ!」

「ううん。冗談なんかじゃない!」

「おい、そうなったら練習時間スタジオの週2日だけになっちまうぞ。どうするんだ、シュウゴ?」

「なんでまた、、、」

「毎年、長期休みは学園の防犯システムのメンテナンスが入るから閉鎖になるってさっき事務員さんが言ってたの」

「今からスタジオに連絡をしても、他の学生で埋まっているでしょうね」

「うわっ、マジかよ」

4人は口々に文句や解決案を吐き出しては、否定を繰り返しはじめた。

『うわぁ、どうするの?イチ兄』

どうするか、、、。
週2日は厳しいな。

『コー監督に相談したら?』

あー、いやでもなぁ。
見返りがとても大きそうだからな。

『それしかなくない?他にどうにか出来そうな人いないと思うんだけど』

あー、んー、でも、、、あー。

『腹をくくれ!イチ兄』

あー、クソッタレ!!!

「ねぇ」

「なんだ?今お前の話を聞いてる暇はねぇんだよ。後にしろ」

「少し、時間ちょうだい」

「は?」

「なんとかしてみる」





〆◼️〆◼️〆◼️〆





「で、、、私の所に来たと」

「えぇ、まぁ」

「しかし驚いたな。君がダイフェスに出るって言うなんて」

いつものように、向かい合うようにして座ってお茶(今日はルイボスティー)を飲むコー監督はちょっと嬉しそうに話してくる。

「その様子では、今年は1年生に上手く連絡が回っていなかったのかな?」

「そうなんですか?」

「言っただろう、その様子では、ね」

「はぁ、そうですか」

コー監督はまた少しお茶を飲むと、AIパットを取り出してどこかに電話をかけ始めた。

「あー、もしもし。私だが、、、済まないね。聞きたい事があったんだが、《ヘルメス》の別荘の件でね。うん、それだ。あぁ、1ヶ月程貸したい人物がいてね。ん?ハハハ、君にはバレてしまうか。じゃあよろしく頼むよ。愛してるよ」

、、、愛してるって言ったな今。

『コー監督の奥さんだよ、たぶん』

結婚してんの、あの人?

『40周年を迎えているはず、、、』

ラブラブだな。

「もう少し待てるかい?」

「あっ、はい」

そう言ってまた違う人物に電話をかけ直した。

「もしもし。うん、かしこまる事はないよ。少し君にお願いしたい事があってね、、、いや、そんな難しい事じゃないさ。保護者として合宿の引率をして欲しいんだよ。奥さんと一緒に1ヶ月、《ヘルメス》で。誰かって?君がマネージャーをしていた子だよ」

ん?君がマネージャーをしていた?
って事はもしかして、、、。

「あぁ。よろしく。日程は後で送るよ」

電話を切ると、コー監督は再びお茶を口にして飲み干した。

「もしかして、今の相手ハルキさんですか?」

「もしかしなくてもだよ」

ニッコリとわかってコー監督がAIパットを操作した数秒後、ピロリン♪と音がして自分のAIパットを取り出した。
画面には【メール1件】と表示されていて送ったのだとわかった。
中身を確認すると、山の中に建てられた大きなウッドハウスの写真とマップがメールに貼り付けられていた。

「隣町《ヘルメス》の山に建てた別荘だよ。ここ数年、忙しくて妻と行けてなかったんだ。夏休みの1ヶ月間、君のチームに貸してあげるから合宿に使いなさい。保護者として奥村夫婦に来てもらうから、後でお礼をする事」

、、、金持ち、怖い。

「それと週1で1週間分の食料も届けてあげよう。差し入れとしてね」

、、、金持ち、怖い。

「全部、タダですか?」

「そう思うのかい?」

「いいえ」

そうだ、あのコー監督だ。
何を考えてるのか、全くもってわからないコー監督だ。

「タダより怖いものはない、ですからね。何がお望みですか?楓宮監督」

まっすぐと目を向けた。
やっぱりその表情から何も読めなかった。

「そうだね、、、。欲を言えば2つかな」

「2つ?」

「1つ目はダイフェスで優勝する事。確実に、圧倒的差で」

これは随分と、無茶振りだな。

「2つ目は、、、次の僕の作品を君を主役で作らせてもらう」

、、、主役!?

「脇役とかではなく?」

「あぁ、雪村ユウ完全復活の作品を」

本当にタダより怖いものはないよ、まったく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

元婚約者様の勘違い

希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。 そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。 しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。 アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。 カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。 「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」 「そんな変な男は忘れましょう」 一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...