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草原の村プレリー

9話【信頼】

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 私がふにゃふにゃになってしまったことで、ドゥラヤさんへ好意を抱いていることを2人に知られてしまった。
 あの状況で何も説明しないわけにはいかなかったけど、まさか好きになったタイミングでほかの人に話すことになるとは……。

 ジーンさんは「わかる! ドゥーちゃん可愛いとこ結構あるもんね」と積極的に頷いてくれたが、カルロさんは私たちの趣味が理解できないらしく「かわ、いい……?」と腕を組みながら首を捻りに捻っていた。

 初対面のときからかわいいとは思っていたけど、昨日のあれはだめだ……発狂した。
 でも19歳になったとはいえ、7つも年下だ。こんな姿は絶対に見せてはいけない、律しなければ。

***

 朝のランニング中、ドゥラヤさんをまた見かけた。家の横で、薪を割っている。あれも仕事だろうか。
 邪魔をしても悪いので、そのままタバーンへ戻ることにした。

 カウンター席でジーンさんが作ってくれた朝食をとっていると、彼女から小さな袋を手渡される。

「はい、お給料」
「え、少し早くないですか?」
「でもそろそろ服買わないと困るでしょ。食べ終わったら、行っておいで」

 肌着だけはジーンさんが先に買ってきてくれたものを着ているけど、好みがあるだろうからと言われて他はまだ借りていた。
 いつまでも借りるわけにはいかないし、確かにそろそろ……けど、お店の場所がまだよくわからない。
 走りまわっているので建物の位置は大まかに掴めてきたけど、早朝なので閉まっている。どこがどの店なのかまでは、把握できていない。

「ありがとうございます。お店の場所は――」

 言いかけると、ジーンさんが私の後ろを指差した。
 振り返ってみるといつの間にか、ドゥラヤさんがテーブル席に座っていた。眠そうに欠伸をしている。

「ドゥーちゃんに案内してもらったら?」
「で、でもお手数かと……」
「いいけど」
「い、いいんですか?」

 呆気なく承諾しょうだくが返ってきたことに驚いていると、肩にジーンさんの手がポンっと置かれる。
 ……顔が笑っている。楽しんでいるな、これは。

***

 9時頃からほとんどが開店するらしい。酒場の手伝いをし終えてからつことにした。

 商店街は村の門から入って、右手に位置している。
 ほどよく人が行き交っていて、これだけだとのどかでいい場所のように思えるけど、今日はドゥラヤさんが隣を歩いている。彼へだけでなく、心配か警戒か私への視線もやたら送られていた。

 ドゥラヤさんの機嫌が悪くなっていないかと横目で様子を窺ってみたけど、いつものように欠伸をしているだけで特に何もなかった。
 というか、欠伸が多いけど大丈夫なのかな。かなり寝不足しているんじゃ……。

 いろんなことが気になりつつもそのまま歩いていると、立ち止まった彼が建物を指差した。

「ここですか?」

 私の問いかけに、彼は浅く頷いた。
 その中へ入ると、店員さんが私たちの姿を見るなりぎょっとしだす。だけどドゥラヤさんはやっぱり気にしていない。
 親子丼の力なのか、あるいは眠くて仕方ないのか……。

 私に気を遣ってくれているのか、彼は出入り口の方で待っていた。腕を組みながら目を瞑っていて、寝てしまわないか心配になる。
 早く選ぼう。あまり注目されるのも、落ち着かないし。

 無難に着られそうな青灰色あおはいいろのノースリーブのパーカーワンピースと、それとセットになっているダボっとしたアームカバーのようなものを手にとる。
 それからレギンス、緑のブーツに――と選んでいると、出入り口付近に好みのデザインの服が置かれていることに気づいて、思わず声を漏らす。

「あ、これいい……」
「それ男物だぞ」

 突然声をかけられて少し驚いた。起きてたんだ。
 咳払いをひとつして、気を落ち着かせる。

「大丈夫です、シャツならワンサイズ下があれば着られます」

 それを店員さんのもとへ持っていって聞いてみたけど、残念ながらこれ以上小さいサイズは子供服しかないようだ。
 がっくしとつい項垂うなだれてしまう。

「……変わってんな」

 カウンターまでいつの間にか移動してきていたドゥラヤさんが、背後でぼそっと呟く。
 せない彼のひとことに神経が尖るも、とりあえず無視して女性用の服だけ購入した。

***

 数日後の15時頃、夜の開店準備を進めていると、仕事を終えたドゥラヤさんがタバーンへ戻ってきた。
 フラフラとした足取りで、そのままカウンターの上に突っ伏す。

「腹減った……」
「何も食べてないんですか?」
「昼はそんなに……今日は実のなってる木が少なかったし」

 それってかなり少量なのでは……心配だ。
 そういえばこれまでも、帰ってくるときはあまり元気がなかったような気がする。

「買わないんですか?」
「村の店、頻繁に寄りたくない。ジーンにもあんまり……」

 伏せた状態のままドゥラヤさんが、深く溜息をつく。
 食事代はしっかり払っているとはいえ、朝夕を用意してもらっているからか、ジーンさんの負担を考えて遠慮しているみたいだ。

「私でよければ、お昼用意しますよ」
「……なんで」

 彼がむくりと顔だけ上げる。上目遣いがかわいすぎる、それはずるい。

「その調子のままだと心配ですし。それにお礼もまだ、あまりできてないので」
「……いくら払えばいい?」
「いりませんよ」
「食材費くらい払わないと、アンタの方が生活できなくなるぞ」
「余計なものを買わなければ大丈――」

 言いかけたところで、ピシッと銀貨を1枚突き出される。

「受け取らないなら、いらない」

 思いがけない行動に目を丸くした。私より、ずっとしっかりしている。
 これ以上断るのはかえって悪そうだし、大人しくそれを受け取ることにした。

「わかりました。でもさすがに、こんなには」
「面倒だから先に渡しておく。……飯は何でもいいから」

 そう言うと、ドゥラヤさんはまたカウンターに顔を伏せた。
 めんどうでも普通、銅貨50枚分の価値がある銀貨を前払いなんて……それだけ信用してもらえてるってことかな。

「とりあえず、今あるもので何か作ってきますね」

 伏せたまま、彼が小さく頷いた。
 タバーンは11時から14時までランチタイムを、その後は16時から21時まで営業する。
 酒場にしては閉店が早いけど、そもそもここの人たちは寝るのが早いから、遅くまで営業していても誰も来ない。

 あと1時間で開店だ。急がなければ。
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