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第三章
ひどい裏切り(高雅視点)
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「殿。何をなさっておられるのです」
広げられた書きつけの束を手に取る俺を見るなり、作左が少々慌てたように広間に入ってきた。
「うん? 皆が提出してくれた、此度の戦においての手柄を記した書きつけだ。評定の前に一通り目を通しておこうと思うてな」
「さようなこと、殿がなされることではございません。いつものように後日、内容をまとめたものを提出いたしますので」
そそくさと書きつけをかき集める作左に、俺は両の目を細める。
「……そうか。これらの取りまとめも、お前がしてくれていたのか」
手に取っていた書きつけを見つつ、俺はしみじみと言った。
「お前はいつも、人が嫌がる地味な仕事も危険な仕事もこつこつこなしてくれる。ありがとう。お前がいなければ当家は立ち行かぬ」
「! そ、そんな……滅相もない。それがしなどが、さような」
「事実を言っている。そんなお前に少しでも報いてやりたいが、そこまで手が回らず、申し訳ない限り」
「何をおっしゃいます」
頭を下げる俺を、作左はやんわりと制した。
「殿が思うように褒美を与えることができぬのは、お父上が満足に褒美を与えてくれぬせいでございます」
「それは……まあ」
「それに、それがしのことはお気遣いなさいますな。それがしは褒美が欲しゅうて、職務に励んでいるのではありません。ただただ、殿のお役に立てれば、それだけが無上の喜びにて」
「無上の喜び、か」
ぽつりと呟くと、「はい」と力強く即答された。
「殿はそれがしのような者を拾って取り立ててくださっただけでなく、夢を見せてくださいます。醜く汚らしいこの世に、ありえぬほど美しい夢を」
「美しい、なあ……」
「はい。イロナシだからと虐げられることがない。皆仲良く笑うて豊かに暮らせる……殿が治めておられるこの地は、乱世の桃源郷でございます」
「……はは」
あまりにも真剣な口調で言われたその言葉に、俺は苦笑した。
「そこまで持ち上げられるとさすがに困る。だが……ありがとう。お前にそこまで想ってもらえて、俺は果報者だ。ただ、くれぐれも無茶はしないでくれ。お前は俺の片腕だ。斬り落とされては敵わん」
「! あまりにも、もったいないお言葉。この作左、ますます忠勤に励み……」
「ところで作左」
珍しく頬を紅潮させて打ち震える作左に、俺は続けてこう訊いた。
「どうして、お前と雅次の書きつけはないんだ?」
瞬間、作左の顔色が変わった。
「申し訳ありません。取りまとめるのはそれがしですので、その時に出せばよいと思いまして。雅次様については、いつも後日ご提出いただくようにしております。戦後処理でお忙しいですから」
「なるほど。雅次を気遣ってくれてありがとう。では、二人の分が揃ったら俺に渡してくれ。今回は、俺がまとめるゆえ」
「……いえ。ですから、そのようなことはそれがしに任せていただいて」
「俺にされては困るのか?」
「はい。恐れ多くて困ります」
頑とした返事。俺は苦笑した。
「そうか。それならしかたない。我儘を言うて悪かったな」
素直に謝って、書きつけの束を作左に返した。
そして、小さく安堵の息を吐く作左の顔をしっかりと確認してから席を立った。
その足で向かったのは書物部屋。
以前提出された書きつけを確認する。
案の定。何枚か、よく似せてはいるが先ほどの書きつけと字が違う。
一通り調べ、一つの結論を導き出したところで、俺は書物部屋を出た。
そのまま無言で歩き続け、自室前の縁側に座したところで深い溜息が漏れる。
ずっと前から、違和を感じてはいた。
都合よく現れる援軍。都合よく引いて行く敵軍。都合よく消えていく政敵。
異様に高くて、好意的な周囲の俺への評価。
そして、雅次の動き。
不審に思ったきっかけは数年前。陣中で荷駄隊に指示している雅次を見かけた時のこと、動きが少々ぎこちないことに気がついた。
指摘すると本人は何でもないと言い張ったが、強引に人気のないところへ引っ張って行って脱がせてみると、右腕に血の滲む包帯が無造作に巻かれていた。
解いてみると、ざっくりと斬られている。
あの時は、雅次の容態が心配だったり、こんな大怪我をしたことを隠して無理をしていたことを腹立たしく思うばかりだったが、後になって……そういえば、雅次はどこであんな怪我を負ったのだろうという疑問が湧いた。
雅次がいたのは後方部隊。
敵襲が来るなどありえないし、そんな報告も受けていない。
何やら嫌な予感を覚えていると、
――雅次様のことでございますか。
作左がすかさず声をかけてきた。
気になるなら自分が調べてみると言い、後日、雅次は急遽赴いた陣で襲撃に巻き込まれ云々と、もっともらしい報告をしてきたので、その時はそれで安心してしまった。
だが、その後もこういうことが何度もあった。
気づいてしまうのだ。
雅次のことは、誰よりもよく見ているから。
そして、そのたびに作左が俺の疑念を払しょくするような報告をしてくるので、自分の勘違いなのかと片づけていた。
この嫌な予感が的中していてほしくないという願望もあったが、一番の理由は……それだけ、作左を信じていたのだ。
作左は俺の初めての家来にして、一番長く俺と苦楽を共にしてきた。
実直で真面目で、俺のためならいつでも死ねると平然と言い切る。
この男だけは絶対に俺を裏切らない。そう、信じていた……いや、信じていたかった。
だが、どうにも……言いようのない違和を拭うことはできず今日、ふと目の端に映った書きつけに、何やら胸騒ぎを覚え一通り確認して、愕然とした。
戦時中、作左から受けた報告と色々食い違っている。
それに、雅次の職務だと思っていた仕事の何割か、全く別の人間が負っていた。
過去のものも調べてみたが大体同じ。
これらが示している意味。
言いようのない痛みが胸を突いた。
心から信頼していた者たちから欺かれていた悔しさ。
今の今まで気づくことができなかった己の不甲斐なさ。
だが、一番俺の胸を掻き毟ったのは、雅次たちが俺に隠れて何をしているのかということ。
――夢を見せてくださいます。醜く汚らしいこの世に、ありえぬほど美しい夢を。
作左はよく、俺に対してそういうことを言う。
雅次もそう。
俺の言葉や見据える世界は、自分には綺麗過ぎて信じられない。見えないと言う。
俺には二人の言っていることがよく分からないが……もし、ごみ溜めの中に突如、この上なく美しいものが出現した場合、人はどうしようと思うか。そして。
――申し訳ありません。兄上は十年も頑張ったのに、いまだに兄上の全てを信じ切ることができなくて。でも……兄上とまた、こうしてともにいられて、それだけで俺は嬉しい。幸せなのです。それでは、駄目ですか?
泣きながらそう言ってきた雅次を、俺は「いいよ」と受け入れた。
血を分けた兄弟とはいえ、俺も雅次もそれぞれ別の人間だ。
考え方が違うのは当然のこと。
それに、腹を割って話し合い、違いを認め合えば信頼関係だって築ける。
俺は雅次のことが好きだし、雅次だって俺のことをこんなに慕ってくれている。きっとできるはずだ。
そう思って、その考えを実践し……正しいのだと実感した。
雅次は、それまでとは目に見えて変わった。
家臣たちの前では相変わらずの澄まし顔で、必要以上に関わろうとしなかったが、俺や俺の家族の前では、いつも引き締めている表情に柔らかな笑みを浮かべ、明朗な声を上げて笑う。
「雅次はもう大人です!」と突っぱねていたのが嘘のように、俺に屈託なく甘えてくるようにもなった。
そして、一番変わったのは、
――はああ。なにゆえ龍王丸はかように可愛いのか!
赤ん坊の世話だ。
雅次は仕事帰り、必ず龍王丸に会いに来て、せっせと世話を焼いた。
抱っこして、龍王丸が「あー」だの「うー」だの言うたび、
――そうなのかあ。それはすごいなあ。
と、しきりに褒め称え、お風呂に入れてやれば、
――龍王丸の尻は桃のように可愛いなあ。
と、褒め称え、龍王丸のおしめを開くと、便まみれになっていても、
――立派なのをしたな、龍王丸。偉いぞお。
と、やっぱり褒め称え――。
本当に、すごい変わりようだ。
琴の時は……抱っこしたら一々、怪我をさせたらどうしよう! と、戦々恐々。
琴が子ども特有の取り留めもない会話を仕掛けてくるたび、真面目に受け取り、理解不能過ぎて頭が痛くなってくると具合を悪くし、琴が便をしようものなら青ざめて、何をどうしても便に触れることができなかった。それなのに。
――ううう……まーぐ、きやい!
雅次が大好きな琴がすっかり拗ねてしまうほどの変わりようだった。
一体、何が原因か。
好いた女と添うことができたから?
その女との間に我が子を設けることができたから?
とにかく、喜ばしいことだ。
龍王丸は大の雅次っ子になったし、雅次もとても幸せそうだったから。
雅次曰く、我が子・虎千代も可愛くてしかたないのだとか。それと。
――ねえ兄上。俺は出世など望みません。兄上とそのご家族。それから、我が妻子さえいれば他に何もいらない。
そうも、言っていた。
だから、俺は雅次が望むままに、地味な裏方の職に就け続けた。
俺としては重要な仕事をどんどん任せて、ゆくゆくは俺の右腕として辣腕を奮ってほしいと思っていたが、雅次が出世ではなく愛する家族と仲良く慎ましく生きることを望むと言うのなら、好きにさせてやりたいと思った。
雅次はこれまでたくさん我慢して辛い目に遭ってきたのだから、これからの人生は一つでも多くの喜びを感じて生きていってほしい。
雅次が幸せなら俺も幸せだと。
けれど、その結果がこれ。
さらには――。
「父上!」
愛らしい呼び声に我に返る。
広げられた書きつけの束を手に取る俺を見るなり、作左が少々慌てたように広間に入ってきた。
「うん? 皆が提出してくれた、此度の戦においての手柄を記した書きつけだ。評定の前に一通り目を通しておこうと思うてな」
「さようなこと、殿がなされることではございません。いつものように後日、内容をまとめたものを提出いたしますので」
そそくさと書きつけをかき集める作左に、俺は両の目を細める。
「……そうか。これらの取りまとめも、お前がしてくれていたのか」
手に取っていた書きつけを見つつ、俺はしみじみと言った。
「お前はいつも、人が嫌がる地味な仕事も危険な仕事もこつこつこなしてくれる。ありがとう。お前がいなければ当家は立ち行かぬ」
「! そ、そんな……滅相もない。それがしなどが、さような」
「事実を言っている。そんなお前に少しでも報いてやりたいが、そこまで手が回らず、申し訳ない限り」
「何をおっしゃいます」
頭を下げる俺を、作左はやんわりと制した。
「殿が思うように褒美を与えることができぬのは、お父上が満足に褒美を与えてくれぬせいでございます」
「それは……まあ」
「それに、それがしのことはお気遣いなさいますな。それがしは褒美が欲しゅうて、職務に励んでいるのではありません。ただただ、殿のお役に立てれば、それだけが無上の喜びにて」
「無上の喜び、か」
ぽつりと呟くと、「はい」と力強く即答された。
「殿はそれがしのような者を拾って取り立ててくださっただけでなく、夢を見せてくださいます。醜く汚らしいこの世に、ありえぬほど美しい夢を」
「美しい、なあ……」
「はい。イロナシだからと虐げられることがない。皆仲良く笑うて豊かに暮らせる……殿が治めておられるこの地は、乱世の桃源郷でございます」
「……はは」
あまりにも真剣な口調で言われたその言葉に、俺は苦笑した。
「そこまで持ち上げられるとさすがに困る。だが……ありがとう。お前にそこまで想ってもらえて、俺は果報者だ。ただ、くれぐれも無茶はしないでくれ。お前は俺の片腕だ。斬り落とされては敵わん」
「! あまりにも、もったいないお言葉。この作左、ますます忠勤に励み……」
「ところで作左」
珍しく頬を紅潮させて打ち震える作左に、俺は続けてこう訊いた。
「どうして、お前と雅次の書きつけはないんだ?」
瞬間、作左の顔色が変わった。
「申し訳ありません。取りまとめるのはそれがしですので、その時に出せばよいと思いまして。雅次様については、いつも後日ご提出いただくようにしております。戦後処理でお忙しいですから」
「なるほど。雅次を気遣ってくれてありがとう。では、二人の分が揃ったら俺に渡してくれ。今回は、俺がまとめるゆえ」
「……いえ。ですから、そのようなことはそれがしに任せていただいて」
「俺にされては困るのか?」
「はい。恐れ多くて困ります」
頑とした返事。俺は苦笑した。
「そうか。それならしかたない。我儘を言うて悪かったな」
素直に謝って、書きつけの束を作左に返した。
そして、小さく安堵の息を吐く作左の顔をしっかりと確認してから席を立った。
その足で向かったのは書物部屋。
以前提出された書きつけを確認する。
案の定。何枚か、よく似せてはいるが先ほどの書きつけと字が違う。
一通り調べ、一つの結論を導き出したところで、俺は書物部屋を出た。
そのまま無言で歩き続け、自室前の縁側に座したところで深い溜息が漏れる。
ずっと前から、違和を感じてはいた。
都合よく現れる援軍。都合よく引いて行く敵軍。都合よく消えていく政敵。
異様に高くて、好意的な周囲の俺への評価。
そして、雅次の動き。
不審に思ったきっかけは数年前。陣中で荷駄隊に指示している雅次を見かけた時のこと、動きが少々ぎこちないことに気がついた。
指摘すると本人は何でもないと言い張ったが、強引に人気のないところへ引っ張って行って脱がせてみると、右腕に血の滲む包帯が無造作に巻かれていた。
解いてみると、ざっくりと斬られている。
あの時は、雅次の容態が心配だったり、こんな大怪我をしたことを隠して無理をしていたことを腹立たしく思うばかりだったが、後になって……そういえば、雅次はどこであんな怪我を負ったのだろうという疑問が湧いた。
雅次がいたのは後方部隊。
敵襲が来るなどありえないし、そんな報告も受けていない。
何やら嫌な予感を覚えていると、
――雅次様のことでございますか。
作左がすかさず声をかけてきた。
気になるなら自分が調べてみると言い、後日、雅次は急遽赴いた陣で襲撃に巻き込まれ云々と、もっともらしい報告をしてきたので、その時はそれで安心してしまった。
だが、その後もこういうことが何度もあった。
気づいてしまうのだ。
雅次のことは、誰よりもよく見ているから。
そして、そのたびに作左が俺の疑念を払しょくするような報告をしてくるので、自分の勘違いなのかと片づけていた。
この嫌な予感が的中していてほしくないという願望もあったが、一番の理由は……それだけ、作左を信じていたのだ。
作左は俺の初めての家来にして、一番長く俺と苦楽を共にしてきた。
実直で真面目で、俺のためならいつでも死ねると平然と言い切る。
この男だけは絶対に俺を裏切らない。そう、信じていた……いや、信じていたかった。
だが、どうにも……言いようのない違和を拭うことはできず今日、ふと目の端に映った書きつけに、何やら胸騒ぎを覚え一通り確認して、愕然とした。
戦時中、作左から受けた報告と色々食い違っている。
それに、雅次の職務だと思っていた仕事の何割か、全く別の人間が負っていた。
過去のものも調べてみたが大体同じ。
これらが示している意味。
言いようのない痛みが胸を突いた。
心から信頼していた者たちから欺かれていた悔しさ。
今の今まで気づくことができなかった己の不甲斐なさ。
だが、一番俺の胸を掻き毟ったのは、雅次たちが俺に隠れて何をしているのかということ。
――夢を見せてくださいます。醜く汚らしいこの世に、ありえぬほど美しい夢を。
作左はよく、俺に対してそういうことを言う。
雅次もそう。
俺の言葉や見据える世界は、自分には綺麗過ぎて信じられない。見えないと言う。
俺には二人の言っていることがよく分からないが……もし、ごみ溜めの中に突如、この上なく美しいものが出現した場合、人はどうしようと思うか。そして。
――申し訳ありません。兄上は十年も頑張ったのに、いまだに兄上の全てを信じ切ることができなくて。でも……兄上とまた、こうしてともにいられて、それだけで俺は嬉しい。幸せなのです。それでは、駄目ですか?
泣きながらそう言ってきた雅次を、俺は「いいよ」と受け入れた。
血を分けた兄弟とはいえ、俺も雅次もそれぞれ別の人間だ。
考え方が違うのは当然のこと。
それに、腹を割って話し合い、違いを認め合えば信頼関係だって築ける。
俺は雅次のことが好きだし、雅次だって俺のことをこんなに慕ってくれている。きっとできるはずだ。
そう思って、その考えを実践し……正しいのだと実感した。
雅次は、それまでとは目に見えて変わった。
家臣たちの前では相変わらずの澄まし顔で、必要以上に関わろうとしなかったが、俺や俺の家族の前では、いつも引き締めている表情に柔らかな笑みを浮かべ、明朗な声を上げて笑う。
「雅次はもう大人です!」と突っぱねていたのが嘘のように、俺に屈託なく甘えてくるようにもなった。
そして、一番変わったのは、
――はああ。なにゆえ龍王丸はかように可愛いのか!
赤ん坊の世話だ。
雅次は仕事帰り、必ず龍王丸に会いに来て、せっせと世話を焼いた。
抱っこして、龍王丸が「あー」だの「うー」だの言うたび、
――そうなのかあ。それはすごいなあ。
と、しきりに褒め称え、お風呂に入れてやれば、
――龍王丸の尻は桃のように可愛いなあ。
と、褒め称え、龍王丸のおしめを開くと、便まみれになっていても、
――立派なのをしたな、龍王丸。偉いぞお。
と、やっぱり褒め称え――。
本当に、すごい変わりようだ。
琴の時は……抱っこしたら一々、怪我をさせたらどうしよう! と、戦々恐々。
琴が子ども特有の取り留めもない会話を仕掛けてくるたび、真面目に受け取り、理解不能過ぎて頭が痛くなってくると具合を悪くし、琴が便をしようものなら青ざめて、何をどうしても便に触れることができなかった。それなのに。
――ううう……まーぐ、きやい!
雅次が大好きな琴がすっかり拗ねてしまうほどの変わりようだった。
一体、何が原因か。
好いた女と添うことができたから?
その女との間に我が子を設けることができたから?
とにかく、喜ばしいことだ。
龍王丸は大の雅次っ子になったし、雅次もとても幸せそうだったから。
雅次曰く、我が子・虎千代も可愛くてしかたないのだとか。それと。
――ねえ兄上。俺は出世など望みません。兄上とそのご家族。それから、我が妻子さえいれば他に何もいらない。
そうも、言っていた。
だから、俺は雅次が望むままに、地味な裏方の職に就け続けた。
俺としては重要な仕事をどんどん任せて、ゆくゆくは俺の右腕として辣腕を奮ってほしいと思っていたが、雅次が出世ではなく愛する家族と仲良く慎ましく生きることを望むと言うのなら、好きにさせてやりたいと思った。
雅次はこれまでたくさん我慢して辛い目に遭ってきたのだから、これからの人生は一つでも多くの喜びを感じて生きていってほしい。
雅次が幸せなら俺も幸せだと。
けれど、その結果がこれ。
さらには――。
「父上!」
愛らしい呼び声に我に返る。
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