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第一章

三十四話 納得できない

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 愕然とする事実。思わず、篠崎さんに目を向ける。 

「篠崎さんが能力者………だと」 
「あり得ないはずがない。ここにきて比率がバグっておるが、前例なら既に証明済みじゃが。都合がよすぎる気がするが」 
「都合がいいだあ?」 

 もう、色々とパンクを起こしながらも頑張って食らいつく俺。誰か褒めて欲しかった。爺さんは流しで見つつ説明を続ける。

「お嬢ちゃんの能力は能力者の能力だけ消滅させるという代物。事件の解決策に相応しい完璧な能力じゃから」 
「そんないい能力なのか⁉︎」
 
    どこか得体のしれない何かに絡め取られるくらいドンバチな能力。しかし爺さんの言葉は本当な筈、ということは篠崎さんの能力を使って事態を丸く抑えられるのか。 
    篠崎さんも気付いたらしい。 

「私の能力で長山さんの暴走を止められるの?」
「その通り。妙にきな臭いがやるのみ。だが能力には制限がつく。お嬢ちゃんは消す相手能力者の同意で初めて消失する。お前さんが消すのではなく相手の意思によってだから、なんじゃ。平たく言えば元凶との対話が必要になる。頼む、わしらと協力してほしい」
 
 懇願する爺さんに、体が固まる篠崎さん。

―――だめだ、篠崎さんにやらせちゃいけない。
 
 俺の言葉と心情が一致し、爺さんを説き伏せる。 

「無理だ。ナガッチが能力行使をやめて能力を捨てるなんて、、不可能だぞ。いっそ黒幕を潰すのが早いんじゃないか?」 
  
 黙りこむ篠崎さんの前で新たな案を提示、だが甘かったらしい。 

「お主とわしらでは何の目的で強化してるか分からんじゃろう。素直に頼み込んで強化をやめてくれるとは思えんし、敵の場所も把握できとらんから、ナガッチを捕まえるのを優先する。交通整備までの時間もない、だからこそ頼む」 
 
 つらつら出てくる単語に苛立った。もしその能力を持ったのが俺だったら思いつく可能範囲の実行をする。たとえ上手くいかなくても最善を尽くす。 
 でも篠崎さんだ。彼女はただでさえ、普段の倍以上の深手を負ってる。そして会いに行くのはその元凶、ナガッチ。無理だ、というか俺がやらせたくない。 

「悪い爺さん。篠崎さんには重すぎる。他の作戦をー」 
「待って。西岡くん!」 
 
 意を決したのか、篠崎さんが叫んでいた。 

「私にしか、できないんですね」 

 ぎゅっと、揺れる手を胸元に握りしめ、彼女は毅然と言い放った。 

「いいです。私にやらせてください」 
「…は? お、おい……?」 
 
 俺が焦燥と困惑を露わに彼女は振り返る。 

「教えてください。私は何をすればー」 
「篠崎さん。アンタ、何言って」 

 咄嗟に篠崎さんを止めようとするが………

「ありがとう。お嬢ちゃんの勇気。それ預からせて頂くことに感謝する」  

 本当にうれしそうに対応する爺さんに言葉が詰まった。 

「……う」 
「西岡くん。私いけるよ。心配してくれてありがとう」 
「……………わかった」 

   ずっと考えていた。理由は不明だが、篠崎さんのことになると簡単に判断できなくなる。

 お願いは俺が一人で受けたかった。篠崎さんを助けて俺一人の力で何とかしたかった。彼女に余計なものを背負わせたくなかった。 

―――そうだ、俺は彼女の成長なんて望んでなかった。彼女が傷つくたび自力で解決して手を伸ばす。俺を一方的に頼るこの関係性がちょうどよかったんじゃないか。だから篠崎さんが自ら率先してやりたいと思うこの状況に、 

「俺の出る幕なんてないのか」 
「西岡くん?」 

 と、ここで目をつぶっていた少女が自らの場所を離れ、伝達する。 

「爺じ。話の最中悪いけど、凄いことが起きてる」
「なんじゃ、もしかして、操られた人間が制御結界を破って此処に向かっておったりするのか?」

 心配そうに聞くその態度に少女は首を振る。

「その逆。長山陽葵の制御下が離れたかも。彼女の姿は見えないけど、生徒と教職員が不規則な動きを始めた」
「敵の作戦……ではないか、よし、すぐに動くとするか」

 準備を始める爺さん。それを尻目に、少女は篠崎さんと向き合う。 

「詳しい説明は道中爺じから聞いて」 
「……分かりました」 
「爺じ。お願い」 
「任された」 

 そう断言し、爺さんは篠崎さんと俺の肩に片手ずつ乗せた。 

「時間がない。わしらも動き出すとしよう」 
「ちょっと待て、俺はいらなくないか?」 
 
 ちらっと言えば爺さんはニヤリと笑う。 

「お主には違う仕事がある」 
 
 ぐにゃりと空間が歪みー 七色の光が二度目の再来を果たした。 
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