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第一章

二十三話 賭けと勝負

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 気が付けば俺は教室から出て廊下を歩いていた。
 最初にする行為、ズバリそれはあてを探すこと。 

 すかさず俺は携帯を取り出し親友に電話をかける。 

「んぁ樹、お前か。そっちから掛けてくるなんて珍しいこともあるもんだ」 
「ああ、今月に入って二度目だな。それはそうと、ちょっと確認したいことがあるんだ」  

 俺は通話を開きながら、学校の外に抜けた。 
   まず手を出すのはあて探し。中谷に電話するのは一言で言って賭けだった。既にクラスにムードメーカー的存在に上り詰めてる人間が篠崎さんの居場所を知らないのであれば俺が探したところで見つかる可能性はぐんと下がる、そういう予測が成り立つためだ。
 
「任せろ。頼れる兄貴、中谷蓮斗になんでも聞きたまえ」 
「はは、お前が知りうるかで決まってくるんだ。そう砕けた口調で言われては色々と心配になる」 
「へえ、樹がそんな念押しするほどなのか?」 
 
 推し計るように俺に関心を寄せる。その現象にそういえばと過去が過ぎった。 

―――基本的に相談事の相手は大抵中谷だが、篠崎さんについては意地を張って教えてなかったな。ここにきてそれが裏目に出るとは。  
 
 これでは俺が篠崎さんの居場所を聞いたところで、こいつは何故俺がその質問に執着してるか理解できず、詳しく聞いてくるかもしれない。 俺はすぐさまその面倒臭さを思いついて苦虫をすり潰したかの如く顔をしたが、己に構わず中谷に尋ねた。こいつの協力なしじゃ何もできない、そう感じたからだ。
 
「中谷、単刀直入に聞く。篠崎さんの居場所は分かるか?」 
「ん、急にどした?」 
「いいから。もう時間がないんだ」 
 
 やはり食いついてくる。けれども、俺の必死な態度に何かを察したのか「あー、」という声ののち、喋ってくれた。 

「すまん、今いる場所はわかんない。彼女の家の最寄りの駅ぐらいしか」 

―――それじゃ駄目なんだ。もっと有益な情報が、、 
 
 心の声を客観視させ中谷に伝える。だが所詮生徒、クラスの情報通であっても限界があるのかもしれない。悔しさを呑み込みながら校庭の隣を走り去る俺の足は、正門に追いつこうとしていた。その時、ぽろっと中谷の口から気になる音信が流れた。 

「関係ないかもだけど、三分前ぐらいに前まで友達と歩いてたんだよ」 
「うん」 
「今は駅で分かれて一人なんだけどさ、そこでめっちゃレアなもん見えてな」 
「レア?」 
「那覇士さん。彼女しょっちゅう自習するのに、歩いていたら一人で走ってるのが見えてたんだよ」 

―――ふぅん……っておい、待て!! あの人が⁉︎  これは受け流していい報告じゃない。 
 
 中谷にとって発言はただの気まぐれ。普段なら俺も幾らか不思議そうにするだけだが、今回ばかりは見逃しちゃいけない! 
 
 中谷の調べによれば、彼女は根っからの真面目気質で一年の頃から教室の鍵を借りて単独で自習を行うことが多い。水泳部は活動日が特殊で彼女が勉強をしてる時は大抵他の部活は活動中なので、放課後誰かといることはまず無い。この調べ通りであれば彼女が放課後、単独行動をするなどありえないはずだ。気が変わったのかも、外せない用事ができたかも、など理由は何通りでもつけられる。が、素直に言って俺の脳内警告マシンが赤く灯って鳴り止まない。根拠のない勘だが確実にここにヒントがある、そう推察した。 

「中谷! その那覇士さんはどこに行ったんだ?」 
「おおう、変わったとこに食いつくな。……えっと、確かいつも通る交差点なんだけど、あの位置は……東通りかな」 
 
 周囲一帯で一番建物が多いのが東通り付近だ。 
   俺は中谷の音声を聞いた途端、ネットに検索をかける。東通り付近の建造物。狙いはそれだった。

ーーー橋、公園、スーパー、違う。もっとこうなんつーか、追い込まれてる人間が入りそうな…… 
 
 携帯で検索をかける、かける、かけ続ける。両目を素早く動かし、表示される画面とひたすらに見つめ合いながらタッチパネルを触れていく。 
    
 時間にして約七分。そうして…………俺の闘いは手と同時に、ピタッと止まった。 
 
 確証はない。普通に考えれば居る可能性の方が低いだろう。それくらい有り得なさそうな場所に俺は狙いを定めた。 
 静寂が訪れる。気分を落ち着かせる俺に中谷がズバッと核を突いてきた。 

「で、樹。結局何が起きてんだ」 
「……逆にどう思う?」 
「俺には言えない大切な事情を抱えて戦地に向かう、主人公みたいな?」 
「……戦地じゃないなら当たってたかもな」 
 
 間を溜めてそう言うと、中谷は少し笑いながら忠告をしてきた。 

「関係ないが、もしナガッチに会う機会があれば、そん時は頑張れよ」 
「ん」 
「それと、後で詳しく聞かせろ。こっちからも話したいことがある」 
「了解」 
 
 深入りせず追及してこないこいつがこの時、すごくかっこよく見えた。そうして俺たちは通話を切り、自身はある方向を見据える。もうすぐで例の交差点に近づく。それ以後は東通りに行けばいい。 

 予想が当たっていると信じて。 

 
***** 


〈長山〉 

「西岡、まだか~」 

 鼻歌を歌いながら上機嫌に佇む女子生徒の名前は、長山陽葵。体育倉庫で一人の人間を待つ長山は、普段の学校とは違い単独で、薄暗い個室に重なられた体育マットの上に座り込んでいる。 

―――おっそいなあ、何してんやろ。 
 
 時間にしておよそ二十分。換気の為に設備された窓ガラスには夕刻が差し込む。わくわくとドキドキが彼女の心の中で攻め仰いでいたが、待たされる時間が長いのかいい加減萎えてきそうになっている。 
 
 一度、連絡を掛けるべきか……そう判断したところに待ちかねた音が飛び込む。 

「コンコン」  

 体育倉庫を叩く音。それを聞いた長山は、脳内が色んな意味で慌てだす前に急いで声を上げる。 

「入ってええよ」 
 
 一瞬、裏声を催しかけたがすぐに切り替え入ってくる人物を招き入れた。 
 ドアが開かれる。テンションが倍増、けれど即座にうち砕かれる。 と言うのも、彼女の期待した人間ではなくむしろ嫌な類いの生徒だったからだ。 

「何の用で来た、雲斎」 
 
 お前じゃないとばかりの不機嫌そうな態度、だが雲斎は全く動じずに冷静に話しかける。 

「目的の人じゃなくてごめんなさいね」 
「質問に答えろ!」 
 
 雲斎の茶化す言い方に腹が立ったのかすごい剣幕で噛み付く彼女。その様子に内心複雑に思いながらも、雲斎はゆっくりと伝える。 

「西岡なら来ないわ。彼にはとても大切な用事ができたから」 
「嘘や」 
「嘘じゃない」 
「嘘に決まっとる!!」 
「うるさい!!」 

  大声を出す彼女に雲斎もまた、負けじと反撃をする。 
    そうして雲斎は息を吸い、決断を下した。 

「今から話すこと。それはアタシという人間と、貴方が二年になって犯した痛恨のミスについて」 
「……あーしが…ミス?」 
「ええ。耳をかっぽじってよく聞きなさい、元親友風情」 
 
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