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第3章、夏休み
川での時間
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「……」
騒がしい向こうと比べて、俺達の方はかなり静かだ。
それでも、何故か誰かと何か同じ事をしていると感じるのは
何だか…気分が良い物だと思った。
「っと」
はい、2匹目。俺の方はもうすでに2匹釣った。
しかし、ここは随分と鮎が釣れるな。
まぁ、釣ってるのは俺だけで後輩の子は1匹も釣れていないが。
「せ、先輩…凄いですね」
「釣りは好きだからな、落ち着けるし」
静かとはほど遠いこの環境ではあるが
それでも、川の音や風の音、木の葉がすれる音に
鳥の鳴き声、それらをかき消さんと言わんばかりに騒がしいセミの声。
これぞ夏の川釣りって感じだ。
自然の音は好きだ、ありのままって感じで大好きだ。
俺は意外と、ありのままに憧れているのかもしれない。
「っと…なぁ、お前はさ」
「は、はい!」
「……ときめき部入って…楽しい?」
「え?」
先輩達は全員楽しそうだ。だから、聞くまでも無い。
だが、この子はあまり良く分からないんだ。
楽しんでるように思えるし、そうでも無いように思える。
少し驚いた表情でこっちを見ている彼女を見ても
果たして、今、この状況を楽しんでいるかどうかは分からない。
人の顔色をうかがうことはそれなりにしてきたが
彼女の顔色は分からない。無表情では無いにせよ
常に似たような表情で…まるで、自分を見ている様だった。
だからなのかな…俺は彼女をあまり好きにはなれていない。
自分を見ている様で……だから、この質問は…
彼女を、俺の鏡として見たいから聞いた質問だった。
彼女が俺と似ているのなら…きっと彼女の答えは俺の答えに近いだろう。
「…大変な事も沢山あって、昨日だって凄く疲れて…
香苗先輩に振り回されて、今日も暑い中で釣りに来て。
家でゴロゴロとしたかったはずなのに無理矢理連れ回されて。
こんな所まで連れてこられて……でも…楽しいですよ」
「…何で?」
「いえ…誰かと一緒に何かをするって言うのも…楽しいなって思っただけです。
でもきっと…このメンバーで一緒に何かをしてるから…でしょうけどね。
だから、私は楽しくて……初めて、ここなら変われるかもって思ったんです」
「……」
変われるのかも…か、それはきっと今の自分が嫌いだからそう思うんだろう。
勿論…俺だって、今の自分は嫌いだ。大っ嫌いだ。
誰かの好意をひねくれた感じにしか取れないで、話をするのも交流をするのも
何か、新しい事をするのも…全て面倒だと言って切り捨ててきた。
だから嫌いだ…でも、変りたいとは思わなかった。
俺がこのときめき部に入った理由も仕方なくだ。
っは、俺はなんて馬鹿で間抜けなんだろう。
俺と彼女が似てるだって? 馬鹿言っちゃいけねぇ、全然似てねぇよ。
彼女の…恋の方がよっぽど上等じゃねぇか。
変ろうと努力することが出来てる…彼女の方が。
「…ごめん」
「え? 何で謝るんですか?」
「いや…ちょっとな」
我慢できなくなった俺の口から、ついつい謝罪の言葉が出てしまった。
素直に悪いと思ったからだ。
彼女と自分を同等と考えてしまった事に。
全然違う。成長を目指している彼女と目指そうとしてない俺。
でも、結局俺も少しは変ってきている気がする。
正確には変ってきたでは無く、変えられてきた…だろうけどな。
「うりゃ! うりゃ!」
「ちょっと! 私に掛けないで!」
「小菜、一緒に香苗を撃破しよう」
「OK! 瑠衣ちゃん!」
「むむ! に、2対1とは卑怯者-!」
あんなに楽しそうに毎日を過ごしてる先輩達と一緒にいたら
そりゃあ…いやでも変ってくよ。
俺が今までやってたのはただの意地でしかなかった事も分かる。
あの人達を見てると、今まで本当に無駄な意地を張ってたんだなと思っちまう。
楽しい事を素直に楽しめない。楽しい事を楽しもうともしない。
何処にでもある楽しい事を探そうともしないで、ただ淡々と毎日を過ごして
それなのにつまらないだとか、退屈だとか…暇だとか、くだらないだとか…
そんな馬鹿な事を言ってたんだ…楽しもうとしなかったのは自分なのに。
それなのに、俺はそれを自分以外のせいにしていた…本当、馬鹿だよな。
「なぁ、恋」
「は、はい…」
「ときめき…見付かったか?」
「……はい、もう毎日…なんて事無いことにも最近は少しときめく様になりました」
「そうか…俺もだよ…っと、へ、3匹目」
「わ、私だって釣りますからね! 先輩には負けません!」
「この遅れを取り戻せると思うか?」
「まだ時間はたっぷりありますからね!」
そのまま俺達2人は競い合い、何匹も魚を釣った。
1人で釣りをしてる時は、魚が釣れてもそこまで喜ばなかった。
当たり前で、そんなに嬉しいことではなかったからな。
だが、2人で釣るとまた違った味わいを体験できる。
魚が掛った瞬間に胸が躍るし、緊張する。
魚を釣り上げたときの喜びも格段と大きくなった。
競い合っているからか? いや違うね。
競ってるだけが理由なら、恋が魚を釣ったときに少し嬉しい気分にはならない。
今、この時間が楽しい理由は…一緒に、同じ事をしているからだ。
同じ事をしている仲間がいるから…釣りでそんな事に気付くのも妙だがな。
だがま、今まで無気力だった俺が…短期間でここまで変わった。
ときめきとやらを探すのも、案外楽しいもんだな。
「っしゃ! 15匹目!」
「負けませんよ! 先輩!」
今日ほどに魚釣りを楽しめる時間は、今までに無かったぜ。
釣りって、思ってた以上に楽しいもんだな。
騒がしい向こうと比べて、俺達の方はかなり静かだ。
それでも、何故か誰かと何か同じ事をしていると感じるのは
何だか…気分が良い物だと思った。
「っと」
はい、2匹目。俺の方はもうすでに2匹釣った。
しかし、ここは随分と鮎が釣れるな。
まぁ、釣ってるのは俺だけで後輩の子は1匹も釣れていないが。
「せ、先輩…凄いですね」
「釣りは好きだからな、落ち着けるし」
静かとはほど遠いこの環境ではあるが
それでも、川の音や風の音、木の葉がすれる音に
鳥の鳴き声、それらをかき消さんと言わんばかりに騒がしいセミの声。
これぞ夏の川釣りって感じだ。
自然の音は好きだ、ありのままって感じで大好きだ。
俺は意外と、ありのままに憧れているのかもしれない。
「っと…なぁ、お前はさ」
「は、はい!」
「……ときめき部入って…楽しい?」
「え?」
先輩達は全員楽しそうだ。だから、聞くまでも無い。
だが、この子はあまり良く分からないんだ。
楽しんでるように思えるし、そうでも無いように思える。
少し驚いた表情でこっちを見ている彼女を見ても
果たして、今、この状況を楽しんでいるかどうかは分からない。
人の顔色をうかがうことはそれなりにしてきたが
彼女の顔色は分からない。無表情では無いにせよ
常に似たような表情で…まるで、自分を見ている様だった。
だからなのかな…俺は彼女をあまり好きにはなれていない。
自分を見ている様で……だから、この質問は…
彼女を、俺の鏡として見たいから聞いた質問だった。
彼女が俺と似ているのなら…きっと彼女の答えは俺の答えに近いだろう。
「…大変な事も沢山あって、昨日だって凄く疲れて…
香苗先輩に振り回されて、今日も暑い中で釣りに来て。
家でゴロゴロとしたかったはずなのに無理矢理連れ回されて。
こんな所まで連れてこられて……でも…楽しいですよ」
「…何で?」
「いえ…誰かと一緒に何かをするって言うのも…楽しいなって思っただけです。
でもきっと…このメンバーで一緒に何かをしてるから…でしょうけどね。
だから、私は楽しくて……初めて、ここなら変われるかもって思ったんです」
「……」
変われるのかも…か、それはきっと今の自分が嫌いだからそう思うんだろう。
勿論…俺だって、今の自分は嫌いだ。大っ嫌いだ。
誰かの好意をひねくれた感じにしか取れないで、話をするのも交流をするのも
何か、新しい事をするのも…全て面倒だと言って切り捨ててきた。
だから嫌いだ…でも、変りたいとは思わなかった。
俺がこのときめき部に入った理由も仕方なくだ。
っは、俺はなんて馬鹿で間抜けなんだろう。
俺と彼女が似てるだって? 馬鹿言っちゃいけねぇ、全然似てねぇよ。
彼女の…恋の方がよっぽど上等じゃねぇか。
変ろうと努力することが出来てる…彼女の方が。
「…ごめん」
「え? 何で謝るんですか?」
「いや…ちょっとな」
我慢できなくなった俺の口から、ついつい謝罪の言葉が出てしまった。
素直に悪いと思ったからだ。
彼女と自分を同等と考えてしまった事に。
全然違う。成長を目指している彼女と目指そうとしてない俺。
でも、結局俺も少しは変ってきている気がする。
正確には変ってきたでは無く、変えられてきた…だろうけどな。
「うりゃ! うりゃ!」
「ちょっと! 私に掛けないで!」
「小菜、一緒に香苗を撃破しよう」
「OK! 瑠衣ちゃん!」
「むむ! に、2対1とは卑怯者-!」
あんなに楽しそうに毎日を過ごしてる先輩達と一緒にいたら
そりゃあ…いやでも変ってくよ。
俺が今までやってたのはただの意地でしかなかった事も分かる。
あの人達を見てると、今まで本当に無駄な意地を張ってたんだなと思っちまう。
楽しい事を素直に楽しめない。楽しい事を楽しもうともしない。
何処にでもある楽しい事を探そうともしないで、ただ淡々と毎日を過ごして
それなのにつまらないだとか、退屈だとか…暇だとか、くだらないだとか…
そんな馬鹿な事を言ってたんだ…楽しもうとしなかったのは自分なのに。
それなのに、俺はそれを自分以外のせいにしていた…本当、馬鹿だよな。
「なぁ、恋」
「は、はい…」
「ときめき…見付かったか?」
「……はい、もう毎日…なんて事無いことにも最近は少しときめく様になりました」
「そうか…俺もだよ…っと、へ、3匹目」
「わ、私だって釣りますからね! 先輩には負けません!」
「この遅れを取り戻せると思うか?」
「まだ時間はたっぷりありますからね!」
そのまま俺達2人は競い合い、何匹も魚を釣った。
1人で釣りをしてる時は、魚が釣れてもそこまで喜ばなかった。
当たり前で、そんなに嬉しいことではなかったからな。
だが、2人で釣るとまた違った味わいを体験できる。
魚が掛った瞬間に胸が躍るし、緊張する。
魚を釣り上げたときの喜びも格段と大きくなった。
競い合っているからか? いや違うね。
競ってるだけが理由なら、恋が魚を釣ったときに少し嬉しい気分にはならない。
今、この時間が楽しい理由は…一緒に、同じ事をしているからだ。
同じ事をしている仲間がいるから…釣りでそんな事に気付くのも妙だがな。
だがま、今まで無気力だった俺が…短期間でここまで変わった。
ときめきとやらを探すのも、案外楽しいもんだな。
「っしゃ! 15匹目!」
「負けませんよ! 先輩!」
今日ほどに魚釣りを楽しめる時間は、今までに無かったぜ。
釣りって、思ってた以上に楽しいもんだな。
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