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5章 本を歩け!
5章 本を歩け 2
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私は図書委員の仕事をしなくては、と思いつつ、本中さんに話しかけました。
「もとなかさん?」
本中さんは振り返り、がたっと立ち上がって
「戸成さん!」
と叫びました。
「ねえ、戸成さんは本物の戸成さん? それともこの世界の戸成さん?」
そう尋ねてくる不安そうな本中さんを見て、ああ、これは本物の本中さんだ、と思い安堵が広がっていくのが分かりました。
「いつも一緒にいた、現実の戸成です」
本中さんの顔がパッと明るくなりました。そしてがっと私の腕を掴むと、
「出たい」
と叫んで、いつものように、私は本中さんと共に、本の世界から出ることが出来ました。
部屋を出ると元の一人さんの家ではなくホテルでした。本中さんが書き加えたのであろう明子さんの原稿と、私が出て来た本中さんのスマホが散らばっています。重垣さんは私たちが出来たのを見てほっとした表情でした。
「戸成! 出てこれたんだな」
「ええ、良かったです」
「いや、自分の小説の中で待ってたけどあれほど緊張したことも無かった。大学入試より緊張したわ」
息を吐きながら本中さんが言います。
「いや本当、大変だったんだ、戸成がいなくなったら、本中が『私のことが嫌で出て来てくれないのかも』とか弱音吐くしよう」
「ちょっと、そんなこと本人に言わないでよ」
本中さんがそんなことを考えていたとは驚きました。
「そんなことないに決まってるじゃないですか。嫌だったら嫌って言いますよ、弱虫の本中さんみたいに小説の中に引きこもるなんてこと、しません」
「ああ、俺も思ってたんだけど、その本中の引きこもった話ってなんだ?」
「言いませんでした? 本中さん、高校の時……」
「戸成さん、説明しなくていいから」
私は意気揚々と説明しようとしたのですが、本中さんに口をふさがれてしまいました。
「うーん、この最初の章とか、本中さんの目線じゃなくて私の目線から書いた方が面白いんじゃないですか?」
「えっそうかな」
私は本中さんの書いた小説を添削していました。電話で画面共有しながら話します。
「いきなり本中さんが出て来て驚く感じが書けるじゃないですか」
「なるほどね」
本中さんは、メモに「戸成さん目線で書き直してみる」と書き加えました。しかしメモを書き終わるや否や、
「ああ、でもそれだと戸成さんの感情がよく分からなくて書けないかも」
「聞いてくれたら全部話しますよ。例えば初対面のこのシーン、私は本中さんが同じ班だったなんて覚えてないですから」
「えっそうだったの」
本中さんはそこに赤線で「戸成さんは覚えてない」と書き込みつつ、
「まあそう書き加えるか。その方が戸成さんの性格が出ていいかもね」
「締め切りいつなんですか?」
「ないよ。明子さんの小説が上がってたサイトに私もだしてみるだけ」
「じゃあいつまでも書いていられてしまうわけですね」
「だからなかなか完結しなくてね」
本中さんはこの小説をなにかサイトに出すらしいのです。「たくさん読んでもらえたらいいな」と言っていました。かなり添削してあげたのですから、そうなってほしいですが、世の中はたくさんの小説サイトがあるので難しいのではないでしょうか。
「まあ、読んでもらえるといいですね、『本を歩け』」
「もとなかさん?」
本中さんは振り返り、がたっと立ち上がって
「戸成さん!」
と叫びました。
「ねえ、戸成さんは本物の戸成さん? それともこの世界の戸成さん?」
そう尋ねてくる不安そうな本中さんを見て、ああ、これは本物の本中さんだ、と思い安堵が広がっていくのが分かりました。
「いつも一緒にいた、現実の戸成です」
本中さんの顔がパッと明るくなりました。そしてがっと私の腕を掴むと、
「出たい」
と叫んで、いつものように、私は本中さんと共に、本の世界から出ることが出来ました。
部屋を出ると元の一人さんの家ではなくホテルでした。本中さんが書き加えたのであろう明子さんの原稿と、私が出て来た本中さんのスマホが散らばっています。重垣さんは私たちが出来たのを見てほっとした表情でした。
「戸成! 出てこれたんだな」
「ええ、良かったです」
「いや、自分の小説の中で待ってたけどあれほど緊張したことも無かった。大学入試より緊張したわ」
息を吐きながら本中さんが言います。
「いや本当、大変だったんだ、戸成がいなくなったら、本中が『私のことが嫌で出て来てくれないのかも』とか弱音吐くしよう」
「ちょっと、そんなこと本人に言わないでよ」
本中さんがそんなことを考えていたとは驚きました。
「そんなことないに決まってるじゃないですか。嫌だったら嫌って言いますよ、弱虫の本中さんみたいに小説の中に引きこもるなんてこと、しません」
「ああ、俺も思ってたんだけど、その本中の引きこもった話ってなんだ?」
「言いませんでした? 本中さん、高校の時……」
「戸成さん、説明しなくていいから」
私は意気揚々と説明しようとしたのですが、本中さんに口をふさがれてしまいました。
「うーん、この最初の章とか、本中さんの目線じゃなくて私の目線から書いた方が面白いんじゃないですか?」
「えっそうかな」
私は本中さんの書いた小説を添削していました。電話で画面共有しながら話します。
「いきなり本中さんが出て来て驚く感じが書けるじゃないですか」
「なるほどね」
本中さんは、メモに「戸成さん目線で書き直してみる」と書き加えました。しかしメモを書き終わるや否や、
「ああ、でもそれだと戸成さんの感情がよく分からなくて書けないかも」
「聞いてくれたら全部話しますよ。例えば初対面のこのシーン、私は本中さんが同じ班だったなんて覚えてないですから」
「えっそうだったの」
本中さんはそこに赤線で「戸成さんは覚えてない」と書き込みつつ、
「まあそう書き加えるか。その方が戸成さんの性格が出ていいかもね」
「締め切りいつなんですか?」
「ないよ。明子さんの小説が上がってたサイトに私もだしてみるだけ」
「じゃあいつまでも書いていられてしまうわけですね」
「だからなかなか完結しなくてね」
本中さんはこの小説をなにかサイトに出すらしいのです。「たくさん読んでもらえたらいいな」と言っていました。かなり添削してあげたのですから、そうなってほしいですが、世の中はたくさんの小説サイトがあるので難しいのではないでしょうか。
「まあ、読んでもらえるといいですね、『本を歩け』」
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