本を歩け!

悠行

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4章 本を探す

4章 本を探す 14

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 私は原稿を握りしめて言った。もしかしたらさっきの一人さんのように、戸成さんが小説の世界から出たくないと思ったのかもしれないと思った。でも私は戸成さんがそう思ったとしても、引っ張り出さなくてはならない。なぜなら昔、戸成さんがそうしてくれたから、そして私自身が、戸成さんに会いたいからだ。
「さっき言ってたけど、どうするんだ?」
「戸成さんも、さっきの重垣の漫画に行けたみたいに、本と本を移っていけると思うんだ。本の世界どうしはつながってる。書かれていない、世界の端っこに行けば本から本に移れる。」
「それは分かるけど、恐らく戸成はさっきの本中みたいに出れないんだろ?」
「多分だけど、私の小説の中なら、戸成さんと私は会える」
「どういうことだ?」
「戸成さんが登場人物として出てくるの」
「お前俺の漫画のこと馬鹿にしたくせに」
 そう言われると痛い。
「私の小説の戸成さんは戸成さんそのものだもん……たぶんね。理想の戸成さんじゃない」
「お、俺だってなあ……」
 と、喧嘩している場合ではない、と一旦落ちついた。
「とにかく、その世界にいる時は、誰が読んでも戸成さんはそこにいるんだから、私が小説の世界に入って、戸成さんを連れ出すことが出来る。多分」
 一人さんには明子さんの本の中で会うことが出来た。きっと、会える気がするのだ。
「多分て。でもどうやってその小説まで、戸成を誘導するんだ?」
「そこが問題なんだよね」
「戸成はお前の小説を読んだことがあるのか?」
「無いの。困ったよね。そう、それだと戸成さんが本の世界同士を繋げれるのか分からないし、戸成さんにそれを伝える術が……」
「それは出来るんじゃないか? お前、ここに何か書き込みしてるじゃないか」
 重垣は私が明子さんの原稿に書き殴った「戸成さん、出て来て」という書き込みを差し出しました。
「ここにこう書いたってことは、こうしたら戸成に伝わると思って書いたんじゃないのか?」
「そうだった」
 そう、荒唐無稽でも、戸成さんが昔やったように、原稿に書き込めば物語に反映されるのだ。
 大分慌てている。一旦落ちつかなくては。
「例えば、この原稿の続きにその話を書けば戸成はそこに行けるんじゃないか?」
「そうかも、でも今、データはスマホにあるけど続きを全部かくのは無理だし」
「帰るか、じゃあ。印刷してその原稿の続きにドッキングすればいいんじゃないか?」
「そんなもんかなあ」
「やってみるしかないだろ」
 重垣は早速荷物をまとめようとしていた。私は考える。
「うーん、ちょっと待って、たとえばこの続きに私を無理やり書いたら私はそこに行けるんじゃない?」
「ああ、確かに」
 私は原稿に書き加える。
『そこに本中がやって来て、戸成さん帰ろうと言いました』
「よし、入ってみる」
「漫画より展開が速くていいな」
 私は入りたい、と呟いた。
 本の中に入ったが、そこに戸成さんはいなかった。
「あら、また来たの?」
 もう何度目の訪問か分からない。しかし明子さんは呆れたようでは無かった。いたずらっぽく笑うだけだ。
「さっきいきなり話の続きが出来たの。あなたが書き加えたのね」
「ええ、そうです。でも戸成さんはいないんですか」
 周りを見渡したが、戸成さんの姿はない。
「ええ、いないわね」
「ああ、だめだ。分からない」
「ずっとあの、友達を探してるの?」
 明子さんは優し気に聞く。
「はい。多分、戸成さんがいる話の世界に、私が入れれば戸成さんに会えるんじゃないかと思ったんですが」

「分からないけど、いないわね」
 私はあきらめて一旦外に出た。出ると、重垣が
「一人で出て来たということは会えなかったんだな」
 とため息をついた。
「書き加えてもやっぱり明子さんつくった世界だから駄目なのかな」
「うーん。今の感じじゃ本中の書いた文章は落書き扱いで、見れても実際の世界じゃないって感じなのかな。俺、漫画に入った時、普通漫画って端に作者のコメントとか宣伝が雑誌だとあるけど、それが世界に反映しては見えない。なんか路上の広告みたいに入って来る。あんな感じなんじゃないか」
「なるほど。昔戸成さんが書き加えた時はちゃんと物語に反映されたのに」
「なんでだろうなあ。分からん。それかやはり話として繋がってないんじゃないか?」
「それはあるかもしれない。やっぱり1から戸成さんが出てくる話じゃないとだめなのかな」
「やっぱり帰るしかないか」
 私もそうするしかないかと思って、荷物をまとめかけた。しかし、ふと思った。広告のようにでも、戸成さんに話しかけられるなら。
「知らなくても戸成さんが認識できれば物語はつながるかも。それに戸成さんは私の書いてる小説の世界は知ってるはず」
「どういうことだ?」
 私はペンを握った。

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