本を歩け!

悠行

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4章 本を探す

4章 本を探すー8

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 ふと遠くを見ると、なにか建物のような物が見えた。しかし作中ではそんなところに建物はないはずだった。まだ公開されていない設定なのだろうか。霧の向こうに見えるようで、それはだんだん薄れて、見えなくなってしまった。重垣がいない今、物語は動かないはずなのに、なんだか妙だと思った。不気味ですらある。
 その方向をぼんやり眺めていると、ぽんと背中を叩かれた。驚いて振り返るとそれは私の好きな登場人物で、
「見張りありがとう。はい、これ食料」
 と漫画の中で見た食べ物を渡される。食べてみるとカロリーメイトみたいな味がした。好きなキャラだが、昔街中でオフの芸能人を見た時のような気やすさを感じた。
「あっちにあるのはなんですか」
「あっち? 何もないよ。疲れているのかい? 休んだ方がいい」
 建物が見えたような気がした方を指さすと、不思議そうな顔をされる。食料にお礼を言うと、仲間の方へ去って行ってしまった。
 カロリーメイトのような味のものをもそもそ食べていると、風が吹いた気がした。そして、気づけば先ほどの戦いは再開していて、重垣が現れた。
「おう、どうだ」
「重垣がいないと私は出れないみたいだった」
「そうか、じゃあ戸成も出れなくなっている可能性が高いってことか」
「そうなるね、それに、物語が止まってた」
「どういうことだ」
「うーん、役者たちが休憩してるみたいな感じ」
「真っ暗とかではなかったのか。ところで何を食べてるんだ?」
「なんかもらった。そんなにおいしくもない。まずくもないけど」
 と、話しながら向こうを見れば、先ほど見えた建物がまた見えるようになっていた。
「あ、重垣、あれ」
 周りから爆風が吹く。そうだ、重垣が来たから戦闘が始まってしまっている。ここから動く手段は思いつかないが、あの建物に行かねばならないと思った。
「なんだ? 見えないけど」
「あっちに建物があるんだ。重垣がいる時だけ見える。私はあそこに行きたい」
「行くって、どうやって?」
 私はしばし考える。ふと、昔初めて本の中に入った時、海の中の世界にいたことを思い出した。そうだ、ここは本の中なのだから、順応するはずだと考えた。
「行ける。重垣、ここから飛んで」
「はぁ? 飛ぶって、相当高さがあるぞ」
 確かに、バンジージャンプかと思うほどの高さだ。しかし私は大丈夫だと思った。私は慌てる重垣の腕を無理やりつかみ、飛び降りた。
 重垣が悲痛に叫ぶ。私は
「飛べると思って、着地して!」
 と言い、漫画やアニメをイメージして、出来るだけかっこよく降りた。衝撃はさほど感じずに、降り立った。
「すげえ、漫画みたい」
「漫画でしょ」
 見上げるとなかなかに高い所から落ちて来ていた。しかし感動する間もなく、私たちは建物が見えた方向に移動する。
「建物が見えて、それで何だって言うんだ?」
「だって不思議じゃん。戸成さんが本に入れたのも謎だし、謎は解明しておいた方がいい」
「まぁそうか。で、俺がいないと無かったって? どういうことだ」
「重垣が消えてしばらくすると見えなくなって、また見えた。物語の進行と関係があるのか、重垣が関係しているのかは分からない」
 かなり遠くに見えていたのに、漫画の世界だからだろうか、すぐに近くに見えるようになった。近づいて、重垣があっと叫んだ。
「あれ、俺の漫画の背景だ」
「重垣の?」
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