55 / 63
4章 本を探す
4章 本を探すー8
しおりを挟む
ふと遠くを見ると、なにか建物のような物が見えた。しかし作中ではそんなところに建物はないはずだった。まだ公開されていない設定なのだろうか。霧の向こうに見えるようで、それはだんだん薄れて、見えなくなってしまった。重垣がいない今、物語は動かないはずなのに、なんだか妙だと思った。不気味ですらある。
その方向をぼんやり眺めていると、ぽんと背中を叩かれた。驚いて振り返るとそれは私の好きな登場人物で、
「見張りありがとう。はい、これ食料」
と漫画の中で見た食べ物を渡される。食べてみるとカロリーメイトみたいな味がした。好きなキャラだが、昔街中でオフの芸能人を見た時のような気やすさを感じた。
「あっちにあるのはなんですか」
「あっち? 何もないよ。疲れているのかい? 休んだ方がいい」
建物が見えたような気がした方を指さすと、不思議そうな顔をされる。食料にお礼を言うと、仲間の方へ去って行ってしまった。
カロリーメイトのような味のものをもそもそ食べていると、風が吹いた気がした。そして、気づけば先ほどの戦いは再開していて、重垣が現れた。
「おう、どうだ」
「重垣がいないと私は出れないみたいだった」
「そうか、じゃあ戸成も出れなくなっている可能性が高いってことか」
「そうなるね、それに、物語が止まってた」
「どういうことだ」
「うーん、役者たちが休憩してるみたいな感じ」
「真っ暗とかではなかったのか。ところで何を食べてるんだ?」
「なんかもらった。そんなにおいしくもない。まずくもないけど」
と、話しながら向こうを見れば、先ほど見えた建物がまた見えるようになっていた。
「あ、重垣、あれ」
周りから爆風が吹く。そうだ、重垣が来たから戦闘が始まってしまっている。ここから動く手段は思いつかないが、あの建物に行かねばならないと思った。
「なんだ? 見えないけど」
「あっちに建物があるんだ。重垣がいる時だけ見える。私はあそこに行きたい」
「行くって、どうやって?」
私はしばし考える。ふと、昔初めて本の中に入った時、海の中の世界にいたことを思い出した。そうだ、ここは本の中なのだから、順応するはずだと考えた。
「行ける。重垣、ここから飛んで」
「はぁ? 飛ぶって、相当高さがあるぞ」
確かに、バンジージャンプかと思うほどの高さだ。しかし私は大丈夫だと思った。私は慌てる重垣の腕を無理やりつかみ、飛び降りた。
重垣が悲痛に叫ぶ。私は
「飛べると思って、着地して!」
と言い、漫画やアニメをイメージして、出来るだけかっこよく降りた。衝撃はさほど感じずに、降り立った。
「すげえ、漫画みたい」
「漫画でしょ」
見上げるとなかなかに高い所から落ちて来ていた。しかし感動する間もなく、私たちは建物が見えた方向に移動する。
「建物が見えて、それで何だって言うんだ?」
「だって不思議じゃん。戸成さんが本に入れたのも謎だし、謎は解明しておいた方がいい」
「まぁそうか。で、俺がいないと無かったって? どういうことだ」
「重垣が消えてしばらくすると見えなくなって、また見えた。物語の進行と関係があるのか、重垣が関係しているのかは分からない」
かなり遠くに見えていたのに、漫画の世界だからだろうか、すぐに近くに見えるようになった。近づいて、重垣があっと叫んだ。
「あれ、俺の漫画の背景だ」
「重垣の?」
その方向をぼんやり眺めていると、ぽんと背中を叩かれた。驚いて振り返るとそれは私の好きな登場人物で、
「見張りありがとう。はい、これ食料」
と漫画の中で見た食べ物を渡される。食べてみるとカロリーメイトみたいな味がした。好きなキャラだが、昔街中でオフの芸能人を見た時のような気やすさを感じた。
「あっちにあるのはなんですか」
「あっち? 何もないよ。疲れているのかい? 休んだ方がいい」
建物が見えたような気がした方を指さすと、不思議そうな顔をされる。食料にお礼を言うと、仲間の方へ去って行ってしまった。
カロリーメイトのような味のものをもそもそ食べていると、風が吹いた気がした。そして、気づけば先ほどの戦いは再開していて、重垣が現れた。
「おう、どうだ」
「重垣がいないと私は出れないみたいだった」
「そうか、じゃあ戸成も出れなくなっている可能性が高いってことか」
「そうなるね、それに、物語が止まってた」
「どういうことだ」
「うーん、役者たちが休憩してるみたいな感じ」
「真っ暗とかではなかったのか。ところで何を食べてるんだ?」
「なんかもらった。そんなにおいしくもない。まずくもないけど」
と、話しながら向こうを見れば、先ほど見えた建物がまた見えるようになっていた。
「あ、重垣、あれ」
周りから爆風が吹く。そうだ、重垣が来たから戦闘が始まってしまっている。ここから動く手段は思いつかないが、あの建物に行かねばならないと思った。
「なんだ? 見えないけど」
「あっちに建物があるんだ。重垣がいる時だけ見える。私はあそこに行きたい」
「行くって、どうやって?」
私はしばし考える。ふと、昔初めて本の中に入った時、海の中の世界にいたことを思い出した。そうだ、ここは本の中なのだから、順応するはずだと考えた。
「行ける。重垣、ここから飛んで」
「はぁ? 飛ぶって、相当高さがあるぞ」
確かに、バンジージャンプかと思うほどの高さだ。しかし私は大丈夫だと思った。私は慌てる重垣の腕を無理やりつかみ、飛び降りた。
重垣が悲痛に叫ぶ。私は
「飛べると思って、着地して!」
と言い、漫画やアニメをイメージして、出来るだけかっこよく降りた。衝撃はさほど感じずに、降り立った。
「すげえ、漫画みたい」
「漫画でしょ」
見上げるとなかなかに高い所から落ちて来ていた。しかし感動する間もなく、私たちは建物が見えた方向に移動する。
「建物が見えて、それで何だって言うんだ?」
「だって不思議じゃん。戸成さんが本に入れたのも謎だし、謎は解明しておいた方がいい」
「まぁそうか。で、俺がいないと無かったって? どういうことだ」
「重垣が消えてしばらくすると見えなくなって、また見えた。物語の進行と関係があるのか、重垣が関係しているのかは分からない」
かなり遠くに見えていたのに、漫画の世界だからだろうか、すぐに近くに見えるようになった。近づいて、重垣があっと叫んだ。
「あれ、俺の漫画の背景だ」
「重垣の?」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
プレアデスの伝説 姫たちの建国物語
のらしろ
ファンタジー
主人公の守は海上警備庁に奉職すぐに組織ぐるみの不正に巻き込まれて、表敬航海中にアメリカで降ろされる。
守の友人である米国海兵隊員の紹介で民間軍事会社にとりあえず就職するが、これまた航海中に大波に攫われて異世界に転生させられる。
転生直前に、カミサマと思しき人から転生先の世界に平和をと頼まれ、自身が乗っていた船と一緒に異世界に送り込まれる。
カミサマからの説明はとにかく長く要領を得ずに分からなかったが転生直後にこれまた別の神様が夢に現れて説明してくれた。
とにかく、チート能力は渡せないが、現代社会から船を送るからそれを使って戦乱続く異世界に平和を求められる。
訳も分からずたった一人大海原に送り込まれて途方に暮れたが、ひょんなことから女性を助け、その女性からいろいろと聞かされる。
なんでもこの世界の神話ではプレアデスの姫と呼ばれる6人もの女性が神より遣わされる男性の下に嫁ぎ国を興すすとき神より大いなる祝福を受けるとあり、初めに助けた女性を皮切りに巡視艇を使って襲われている人たちを助けて、助けていく人たちの中にいるプレアデスの姫と呼ばれる女性たちと一緒に国を興す物語になっております。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる