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3章 本を旅する
3章 本を旅するー17
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何故入れたのか、全く分かりませんでした。しかし、最近では入れないとばかり思っていたので、試したことは無かったのです。
「あ、あれ?」
「あら、こんにちは」
明子さんは、私が読んだことのない作品の、作中の人物とお喋りしていたようでした。さっき読んでいた話もそんな話だったのです。頭のよさそうな、紳士です。
「はぁ、今晩は」
私は混乱していたので、間抜けに挨拶しました。
「あなたは誰かしら」
「えっ先ほどお会いしたと思うんですけれど」
「覚えてないわね」
違う本だからでしょうか? よく考えたら、二回同じ本に訪れてみたらどうなるのかなんて私は知りませんでした。本中さんは入ったことがあるのかもしれませんが、私は本中さんと一緒にしか入れないので、折角だからと毎回違う本に入ることを提案してしまいます。全然状況が把握できません。
「えっと、あなたも小説の世界に入れていた明子さんですか」
「不思議な質問ね、そうよ」
私は自分の状況が理解できなかったので、とりあえず明子さんに説明しました。本中さんのこと、私は入れない筈なこと、先ほどの明子さんと本中さんの会話。
「じゃあ、あなたは今まで自分の力では本の中に入れたことは無かったのね」
「ええ、なのに何故か入れてしまったんです」
「それは不思議ね」
ふむ、と明子さんは考えます。
「あなたは、物を書かないの?」
「レポートか、メールくらいです」
「結局何故この能力が開花するかは分からない訳だ」
先ほど分かったような気がしたことが、すぐに分からなくなってしまいました。
「とりあえず、お茶でも飲んで行ったら」
折角入れたので、堪能しておくことにしました。もしかすると、ゲームのバグのようなもので、もう入れないかもしれない、とも思ったからです。相手はミステリー作家でした。私はミステリーが好きですが、人が死ぬのは嫌いです。この作家は、人が死にそうなタイトルなので避けていた作家でした。
「でもまぁ、この人は私が小説内で再現した登場人物だから、本人のレプリカみたいな感じだけどね」
「ややこしいですね」
「本の世界はややこしいのよ」
しばらく休んでから、私はさすがに長居しすぎた、本中さんも心配しているだろうと思い、出ることにしました。本中さんが本の世界に引きこもった時のことを考えたのです。
しかし、出れません。いつも本中さんがやっていたように、「出たい」と言ってみるのですが、出れないのです。
「おかしいわね」
明子さんも不思議そうな顔をします。
「出れない理由としてはいくつか考えられるわ、一つはこの原稿が、ぴっちりと閉められていたら、出れなくなる」
「どういうことですか」
「昔私もそういう目に合ったんだけど、入っている間に本を一部の隙間もないような本棚に詰め込まれたり、紐で束ねられたり、仕舞われてしまったりすると、出れなくなってしまうの、何故なら、本が開かないから。出る時はページとページの間から出るからね」
私は原稿の置いてあった状態を思い出しました。机の上。机には引き出しがありました。あの中に仕舞われたら、出れなくなるのかもしれません。
「まだあるわ、そもそも、あなたに本を出る能力があるかどうか、よ」
「出る能力?」
「入る能力はあっても、出る能力が無いのかもしれない」
「そんなことありますかね」
「ありえるわ、だってほら、私は元々あちらの人間だったけど、もうここからは出られない」
「でも明子さんは、あちらにいた明子さんとは別じゃないですか」
「同じようで、違っていて、同じなの。確かに少し美人な気がするわ、今の方が。でも元々は同じ。本の中の人間は出れない」
「私は本の中の人間ではありません」
「そうね、そうなの。でも分からないのよ。とりあえず、別の本の世界に行って、試してみたら?」
「そんなことができるんですか」
「ええ、本と本はつながっているもの。例えばこの人物の、本家の作品とか」
見れば、人物の後ろには、今見ている世界がままごとで、向こうがリアルなのでは、というような世界が遠くに見えるのです。
「あと、私の他の作品や、私が昔読んだ本、いろいろね」
私はそれも新たな知見だ、と思いました。しかしそれを確かめるのは今ではない。
「いえ、本中さんなら、私がいないと、きっと本の中に探しに来ます。それを待てばいい」
良い案だと思ったのに、明子さんは暗い顔をしました。
「うーん、多分待ってても本中さんは来ないわ」
「何故ですか」
「あ、あれ?」
「あら、こんにちは」
明子さんは、私が読んだことのない作品の、作中の人物とお喋りしていたようでした。さっき読んでいた話もそんな話だったのです。頭のよさそうな、紳士です。
「はぁ、今晩は」
私は混乱していたので、間抜けに挨拶しました。
「あなたは誰かしら」
「えっ先ほどお会いしたと思うんですけれど」
「覚えてないわね」
違う本だからでしょうか? よく考えたら、二回同じ本に訪れてみたらどうなるのかなんて私は知りませんでした。本中さんは入ったことがあるのかもしれませんが、私は本中さんと一緒にしか入れないので、折角だからと毎回違う本に入ることを提案してしまいます。全然状況が把握できません。
「えっと、あなたも小説の世界に入れていた明子さんですか」
「不思議な質問ね、そうよ」
私は自分の状況が理解できなかったので、とりあえず明子さんに説明しました。本中さんのこと、私は入れない筈なこと、先ほどの明子さんと本中さんの会話。
「じゃあ、あなたは今まで自分の力では本の中に入れたことは無かったのね」
「ええ、なのに何故か入れてしまったんです」
「それは不思議ね」
ふむ、と明子さんは考えます。
「あなたは、物を書かないの?」
「レポートか、メールくらいです」
「結局何故この能力が開花するかは分からない訳だ」
先ほど分かったような気がしたことが、すぐに分からなくなってしまいました。
「とりあえず、お茶でも飲んで行ったら」
折角入れたので、堪能しておくことにしました。もしかすると、ゲームのバグのようなもので、もう入れないかもしれない、とも思ったからです。相手はミステリー作家でした。私はミステリーが好きですが、人が死ぬのは嫌いです。この作家は、人が死にそうなタイトルなので避けていた作家でした。
「でもまぁ、この人は私が小説内で再現した登場人物だから、本人のレプリカみたいな感じだけどね」
「ややこしいですね」
「本の世界はややこしいのよ」
しばらく休んでから、私はさすがに長居しすぎた、本中さんも心配しているだろうと思い、出ることにしました。本中さんが本の世界に引きこもった時のことを考えたのです。
しかし、出れません。いつも本中さんがやっていたように、「出たい」と言ってみるのですが、出れないのです。
「おかしいわね」
明子さんも不思議そうな顔をします。
「出れない理由としてはいくつか考えられるわ、一つはこの原稿が、ぴっちりと閉められていたら、出れなくなる」
「どういうことですか」
「昔私もそういう目に合ったんだけど、入っている間に本を一部の隙間もないような本棚に詰め込まれたり、紐で束ねられたり、仕舞われてしまったりすると、出れなくなってしまうの、何故なら、本が開かないから。出る時はページとページの間から出るからね」
私は原稿の置いてあった状態を思い出しました。机の上。机には引き出しがありました。あの中に仕舞われたら、出れなくなるのかもしれません。
「まだあるわ、そもそも、あなたに本を出る能力があるかどうか、よ」
「出る能力?」
「入る能力はあっても、出る能力が無いのかもしれない」
「そんなことありますかね」
「ありえるわ、だってほら、私は元々あちらの人間だったけど、もうここからは出られない」
「でも明子さんは、あちらにいた明子さんとは別じゃないですか」
「同じようで、違っていて、同じなの。確かに少し美人な気がするわ、今の方が。でも元々は同じ。本の中の人間は出れない」
「私は本の中の人間ではありません」
「そうね、そうなの。でも分からないのよ。とりあえず、別の本の世界に行って、試してみたら?」
「そんなことができるんですか」
「ええ、本と本はつながっているもの。例えばこの人物の、本家の作品とか」
見れば、人物の後ろには、今見ている世界がままごとで、向こうがリアルなのでは、というような世界が遠くに見えるのです。
「あと、私の他の作品や、私が昔読んだ本、いろいろね」
私はそれも新たな知見だ、と思いました。しかしそれを確かめるのは今ではない。
「いえ、本中さんなら、私がいないと、きっと本の中に探しに来ます。それを待てばいい」
良い案だと思ったのに、明子さんは暗い顔をしました。
「うーん、多分待ってても本中さんは来ないわ」
「何故ですか」
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