本を歩け!

悠行

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3章 本を旅する

3章 本を旅するー10

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「どうだった、中は」
 まんじりともせず、重垣さんは待っていました。
「成果あり。メモメモ」
 私たちは確認しながら住所を書きだし、ふうと息を吐きました。
「で、なんだこの住所は」
「この作者の住所。中の人が言ってた」
「まじかよ。そんなことが出来るのかよ。すげえな」
 重垣は感激して、メモを両手に持ちじっくり読んでみます。
「で、ここに行くのか」
「そうなりますね」
「ファンタジー研合宿だな」
 重垣さんは喜んでいます。本中さんはそんな重垣を見ながら眉間にしわを寄せて「眠い」と言いながらメモを奪い取りました。眠いからか不機嫌です。
私たちはあまり眠れてもおらず、むしろ朝に近づいていたので、
「帰って寝るわ」
 と重垣さんの部屋を出ました。これぞ昼夜逆転、大学生というものです。
「ねぇ、戸成さんなんか元気じゃない?」
「実のところ、私いつも半分実家のようなところで、しかも祖母によって実家よりもなんなら規則正しい生活を送らされているので、今こんな深夜まで起きれて嬉しいんです」
「つまりさっきからの活発さは深夜テンションだったってことね」
 ちなみに、朝方に部屋から女子が二人も出てきたということで、重垣さんは寮仲間に冷やかされたそうです。

 それから、一眠りした私たちは、予定通り他の小説内も旅行しました。また変な所から出ないように気を付けましたが、今までそのようなことが無かったのと同じように、特に問題は起こりませんでした。
「でも、もしかしたら、私の小説を読む傾向と重なってるのかも」
「何か傾向とかあるんですか」
「昨日、小説世界がつながってるんじゃないかって話したじゃない」
「しましたね」
「でも私、あんまり同じ作者の小説とか読まないんだよ、あの本は作者が気に入って何冊か読んだけど、話題になった本とかおすすめされた本とか、バラバラに読むんだよね」
「確かに言われてみればそうかもしれませんね」
 思い返せば、本中さんというのはかなり読書について雑食な人で、薦めれば何でも読むのですが、私のように「作家買い」をしているところをあまり見たことはありません。新刊が出るから本屋に行きたい、などと言い始めるのは私の方です。
「今までさ、私本に入ってたのは、なんというか、作者の世界に入ってると思ってたけど、もしかしたら違うのかも」
「でも、本中さんの知らない情報も、本の世界の中にはあったりしたじゃないですか」
 私は別所さんの件の時の、他田さんのことを思い出しました。他田さん(とほぼ同じ人物である主人公)は、本中さんの知らないことを語ったのです。
「うーん、そうなんだよね、でもそれじゃあ今まで違う本の世界に行かなかったのは、不思議じゃない?」
 よく分からなくなってきました。そもそも、法則などあるのでしょうか。
「解明しようって言いだしたの戸成さんじゃん」
 本中さんは呆れたように言いました。私が本中さんに呆れられるのは珍しいことです。
「でも確かに法則があるかも怪しいかもね。全てに法則があると思ってるのは科学だけだし」
 本中さんは理系学生らしいことを言い始めます。
「後不思議と言えば、別所さんの作品のキャラたちが出て来たこと」
「本中さんのキャラは出てこないんですか」
「出てきてないと思うけど……よく考えたらあれ不気味だね」
「別所さんがなかなか理解できなかったのも頷けますよね」
「あーでも、出て来てるのかも」
「何がですか」
「私の作品の登場人物」
「えっ」
 どういうことかと思いました。さっきは出て来てないと言いましたし、それを感じたこともありません。
「私の小説って恥ずかしながら、大体の小説の主人公が私だから」
「は、そうなんですか?」
「そうだよ、ヨーロッパ風の世界の書店で働いてたのも、中学生の時書いてた作品で氷の国で妹をなくしたのも、みんな私だよ」
 それはそれですごいです。作家というものはいつもどうやって着想しているのだろうかと思っていたのですが、皆そうなのでしょうか?
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