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3章 本を旅する
3章 本を旅するー5
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「急に読みたくなってね」
「今度返そうと思ってたんだよ」
重垣さんはいぶかしんでいるようでした。そして「まだ最後まで読んでない」と言います。見るとどうやら積まれていた本の塔が崩れたようでした。私たちが出てきたのであろう本が崩れた山の上の方に乗っています。
「あれ? てか鍵開いてた?」
「開いてた」
重垣さんはドアの方を見て鍵の回転を確認し、不思議そうに
「閉まってるけど」
と言い、本中さんは
「閉めた」
とけろりと言いました。
「来週ファンタジー研やるんだろ。その時でいいかなと思って、返すのは。そう連絡しただろ」
「急に読みたくなったからさ」
そうなのです。この人、重垣さんは、夏休み前、別所さんが入って来たのを知って、「じゃあ俺も」と入ってしまったのです。本中さんは「まぁ、私も個室もらえたしいいんじゃない」と言います。個室というのは本中さんの寮の部屋のことです。本中さんは元々三人部屋だったのですが、入寮して三か月経ち、一時的に入ってすぐ出てしまった人がいたので寮の個室が開き、見事じゃんけんでその座を勝ち取ったというのです。だからこそ、ファンタジー研の元の存在理由はなくなっていました。
結局ファンタジー研は、集まって別所さんの小説の添削をしたり、ファンタジー映画を観たり、好きな小説を紹介するという本当のサークルのようになっていました。なかなかに居心地は良いのですが、押しの強い重垣さんは苦手です。
「てかさ、なんで本の山崩れてんの」
「ごめん蹴った」
私は本が雑に扱われているのは気に食わないので、勝手に直します。会話を聞きながら、この二人は意外にも本の貸し借りをしたりするほど仲が良かったんだな、と思いました。理系と文系でほとんど授業も被らないはずなのに、いつの間にか会っていて、会話も親しげなのです。
「まぁじゃあ、今度返してくれたらいいや」
と本中さんが言い、部屋を退散しようと思ったのですが、「待て」と言います。
「何」
「音は聞こえなかったけど、お前ら本の中から出て来ただろ」
どうやら見られていて、今まで鎌をかけられていたようです。まずいことになった、と思いました。
「んなわけないじゃん」
「いや、見たぞ、その本が開いて、お前らが出て来た。ドアは開かなかった」
重垣さんが真剣に言うので、誤魔化せなくなってきました。
「マジックだよ」
「どういうマジックだ?」
確かにマジックなら、タネを教えて欲しい所です。
「それは秘密だよ、マジックなんだから」
本中さんは当たり前のように落ち着いて言いました。
じゃあね、と部屋を出て、本中さんは
「まぁこういうことも起こるよね」
と呟きました。
「いつかこう、誰かにばれるんじゃないかと思ってた。だって誰にでも見えるしこの現象」
「まぁそうですね」
「むしろ重垣だし良かったんじゃない、馬鹿だし」
そう話していた間は良かったのですが、我々はすぐ困ったことになりました。重垣さんのいる寮は増設を繰り返し、迷路のようになっているのです。かなり奥まった所にいるのか、出ていける所がどこなのか分かりません。
階段を降りたり上ったりしてもよく分からず、結局私たちがたどり着いたのは元の重垣さんの部屋の前でした。ノックして出てきた重垣さんは、
「なんだよ」
と不思議そうに言うので、正直に本中さんは「迷った」と言いました。
「今度返そうと思ってたんだよ」
重垣さんはいぶかしんでいるようでした。そして「まだ最後まで読んでない」と言います。見るとどうやら積まれていた本の塔が崩れたようでした。私たちが出てきたのであろう本が崩れた山の上の方に乗っています。
「あれ? てか鍵開いてた?」
「開いてた」
重垣さんはドアの方を見て鍵の回転を確認し、不思議そうに
「閉まってるけど」
と言い、本中さんは
「閉めた」
とけろりと言いました。
「来週ファンタジー研やるんだろ。その時でいいかなと思って、返すのは。そう連絡しただろ」
「急に読みたくなったからさ」
そうなのです。この人、重垣さんは、夏休み前、別所さんが入って来たのを知って、「じゃあ俺も」と入ってしまったのです。本中さんは「まぁ、私も個室もらえたしいいんじゃない」と言います。個室というのは本中さんの寮の部屋のことです。本中さんは元々三人部屋だったのですが、入寮して三か月経ち、一時的に入ってすぐ出てしまった人がいたので寮の個室が開き、見事じゃんけんでその座を勝ち取ったというのです。だからこそ、ファンタジー研の元の存在理由はなくなっていました。
結局ファンタジー研は、集まって別所さんの小説の添削をしたり、ファンタジー映画を観たり、好きな小説を紹介するという本当のサークルのようになっていました。なかなかに居心地は良いのですが、押しの強い重垣さんは苦手です。
「てかさ、なんで本の山崩れてんの」
「ごめん蹴った」
私は本が雑に扱われているのは気に食わないので、勝手に直します。会話を聞きながら、この二人は意外にも本の貸し借りをしたりするほど仲が良かったんだな、と思いました。理系と文系でほとんど授業も被らないはずなのに、いつの間にか会っていて、会話も親しげなのです。
「まぁじゃあ、今度返してくれたらいいや」
と本中さんが言い、部屋を退散しようと思ったのですが、「待て」と言います。
「何」
「音は聞こえなかったけど、お前ら本の中から出て来ただろ」
どうやら見られていて、今まで鎌をかけられていたようです。まずいことになった、と思いました。
「んなわけないじゃん」
「いや、見たぞ、その本が開いて、お前らが出て来た。ドアは開かなかった」
重垣さんが真剣に言うので、誤魔化せなくなってきました。
「マジックだよ」
「どういうマジックだ?」
確かにマジックなら、タネを教えて欲しい所です。
「それは秘密だよ、マジックなんだから」
本中さんは当たり前のように落ち着いて言いました。
じゃあね、と部屋を出て、本中さんは
「まぁこういうことも起こるよね」
と呟きました。
「いつかこう、誰かにばれるんじゃないかと思ってた。だって誰にでも見えるしこの現象」
「まぁそうですね」
「むしろ重垣だし良かったんじゃない、馬鹿だし」
そう話していた間は良かったのですが、我々はすぐ困ったことになりました。重垣さんのいる寮は増設を繰り返し、迷路のようになっているのです。かなり奥まった所にいるのか、出ていける所がどこなのか分かりません。
階段を降りたり上ったりしてもよく分からず、結局私たちがたどり着いたのは元の重垣さんの部屋の前でした。ノックして出てきた重垣さんは、
「なんだよ」
と不思議そうに言うので、正直に本中さんは「迷った」と言いました。
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