本を歩け!

悠行

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3章 本を旅する

3章 本を旅するー4

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「えっそうなんですか」
「うん、別の小説だよこれ」
 私は空で行われている大事件を眺めながら、「へぇ」と我ながら間抜けに言いました。
「それってすごいんですか」
「すごくない、だって私はずっと『一冊の本の世界』に入っていると思ってたけど、そうじゃなくて本と本はつながってるってことだよ」
 そう言われてみると驚くべきことのような気もしました。
 いつか、本の世界の端はどうなっているのかと二人で考えたことがあるのですが、もしかしたら別の本に繋がっているのかもしれません。
『もし世界の端っこが壁だったりしたらちょっと怖いよね』
『その向こうになんかいそうですしね』
『いや、逆に何もないとかの方が怖いかも。無が広がっているみたいな』
『現実とかもありそうですね』
 その時の会話を思い出しました。私は常々考えている疑問をまた口にしました。
「一体この世界は何なんでしょう」
「何って、本の中じゃないの」
「まぁそうなんですけど」
「ねぇこれさぁ、今別の本にいるってことじゃない」
「そう言うことになりますね」
「じゃあ今ここから出たら私たちはどこに出るのかな」
「えっどうなるんでしょう」
 嫌な予感がしました。本中さんは思い付きで後先考えず行動するのです。そう考えてる間に、本中さんはがっと私の腕を掴みました。
「出たい」
 そう叫ぶと、いつものように無重力感が私を襲い、吐き出されるようにどこかに出ました。
「あれ?」
 出た場所は本中さんの部屋ではありませんでした。そして、目の前にいたのは。
「え、本中? と、戸成?」
 重垣さんでした。はっきり言って私はこの人が苦手なのです。
 重垣さんも寮生らしいのですが、本中さんとは別の建物だというのは聞いていました。なぜここに私たちは出て来てしまったのでしょう。
「あ、そうか。あの本重垣に貸してたわ」
 入ったのと同じ作者の別の本を、重垣さんに貸していたということです。それにしてもよく分からない仕組みだと思います。
「えっ今入って来た? 俺音楽聞いてたからかな、気づかなかったわ」
 確かに重垣さんはヘッドホンを付けていました。ドアの方に体を向けて、布団を畳んだものを背にして座卓に向かって何かかいていました。
「なんか用?」
「本返してもらおうと思って」
 本中さんは適当に言いました。
「こんな夜に?」
 そう、小説の世界で夜でしたし、私たちの世界でも夜になっていました。私たちの世界とは時間の進み具合が違ったこともありましたが、今回は小説の世界でもかなり長く過ごした分、同じように夜になっていたのです。
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