本を歩け!

悠行

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3章 本を旅する

3章 本を旅するー1

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 本中さんが夏休みはぱーっと旅行でも行こう、と言いだしたのはテスト期間でした。私と本中さんの第二外国語は違うのですが、第二外国語の大きな試験のためにあまり会っていなかったテスト前日、久々に同じ授業を取っているために会ったらもう本中さんは疲れ切った顔をしていました。曰く、
「なんで女性名詞だとか男性名詞があるの。なんでπ結合とか出てくるの」
 とのことで、化学のテストと本中さんの第二外国語のドイツ語の試験が連続してあるそうで混乱しているのでした。
「旅行ってどこに行くんですか」
 と聞くと、
「考えといて」
 と、絶対行こうと念を押すわりに適当な返事でした。しかし夏休みの旅行の計画を夏休みに入ってから立てて、予約など間に合うのでしょうか。
 そんなことを考えていたのですが杞憂でした。夏休みに入ると、本中さんは私のバイトが入っていない数日を狙って私を呼び出しました。
「どこかに行くの」
「スーパマーケットに行く」
 本中さんは最寄りのスーパーで買いこみをします。お菓子やジュース、お弁当など。寮に戻ると実家から持って来たのでしょう、見覚えのある水筒にお茶を詰めます。遠足にでも行くのかと思っていると、本中さんは数冊の本を取り出しました。
「それぞれ、これが京都が舞台の小説で、こっちは旅行記で世界色々、こっちはアムステルダム、どれがいい」
 と言います。どうやら、食べ物を持ち込んで数日本の世界を探検するつもりであるようなのです。
「聞いてないよ」
「えっ言ったよ」
 本中さんはテスト期間だったのでテスト以外の記憶がかなり適当でした。本中さんは一点集中型の人です。大学受験の時もそうでした。
「まぁいいですよ。行きましょう」
 私も本中さんに言われて持ってきていたリュックサックに、買った食べ物を詰め込みました。驚いたのは、本中さんが寝袋を持っていたことです。しかも二つ。寮の仲間からもらったしいのですが、用意周到で驚きました。
「戸成さんは今までで一番影響受けた本は何?」
 本の中の京都でアイスを食べながら本中さんが聞きました。アイスは溶けてしまうので早く食べようと言ってろくに見ても無いのに河原に座って食べ始めながら、唐突に聞かれたのでした。
 私はしばらく考えてみましたが、あまり思いつきませんでした。そもそも、私は本に影響を受けたことなどあったでしょうか。
「特に思い当たる節は無いなあ」
「そんなに本を読んでいるのに?」
 本中さんはアイスをぼとぼととこぼしました。私は慌てて拭くものを探します。そもそも本中さんはアイスを食べるのが下手で、高校時代も帰り道、アイスを一緒に買うたびにこぼすので、棒付きのタイプは特にやめておけというのに、本中さんはいつも棒付きのものを買うのです。本中さんはアイスを拭きながら絶対そんなのは嘘だ、と言います。
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