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2章 本を出る
2章 本を出るー16
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「もう俺は教科書を投げる二年生じゃない。彼は俺だったけど、もう違う人間みたいに思える。それでいて、俺は二年生に会いたかった。だから出て来たのかもしれない。渉は俺に似てるけど、もっとうまくやって来た俺で、いつも渉ならどういうだろうかと考えてた。だからお前たちが、渉を連れて来た時、俺の頭の中にしかいないはずの渉そのものだったからびっくりした。渉は俺がそうなりたい理想だから、渉が過去を欲しいと、そうするべきだと思うなら、それが正しいと俺は思っているんだろう」
別所さんは振り返って、「元の世界に帰れるのか?」と尋ねた。
元の世界に帰って、私は戸成さんにしこたま怒られた。「悪い人かもしれないのに能力を明かすなんて」ということである。
別所さんが元のように小説を直すと言うと、渉さんたちはすぐ、原稿に飛び込んで行った。目の前で人が消えるところというのは初めて見た。自分はいつも消える側だからである。別所さんも驚いていたが、私もなかなかに驚いた。冷静だったのは戸成さんだけだ。
別所さんはその後、書き直したものを送る先を探してきて、夏休みの間に出すからと私に添削を押し付けた。今私は必死で電子辞書片手に調べているところである。何しろ別所さんの作品は言葉が偉く小難しく、正しい用法なのか私は判別できないのだった。
別所さんは私に添削させる代わりに私の作品も見るからと、ファンタジー研究会に入会してしまった。毎週いつ活動するのかとやかましい。
戸成さんは、人が増えたのがあまり快く思っていないようだったが、別所さんが悪い人では無さそうなのを見て、一応認めたようだった。
「本中さんは小説別所さんに見せてないみたいですけど、いいんですか」
「うーん、なんかうまく書けないんだよね」
と、言いつつも、私は最近、高校生から抜け出せなくなっていたスランプから、ようやく抜け出せそうにある。
「実はね、今小説を書いてるんだけど、出来たら戸成さん読んでくれる?」
「面白いなら読みますよ」
そう言われると自信が無い。
「どんな話ですか?」
「戸成さんが殺される話よ」
私はからかって戸成さんの嫌がりそうな嘘をついた。
「えっ痛いのは嫌ですよ」
「嘘に決まってるでしょ、でもきっと戸成さんは面白く読んでくれる気がする。戸成さんは少なくとも」
「私は面白い……ホットケーキの話ですか?」
「戸成さん、そんなにホットケーキ好きだったの? 私知らなかったんだけど」
「本中さんのお母さんが一度作ってくれたやつ、美味しかったからレシピ知りたいんですよね」
意外と人間、知らないことは多いものだ。
別所さんは振り返って、「元の世界に帰れるのか?」と尋ねた。
元の世界に帰って、私は戸成さんにしこたま怒られた。「悪い人かもしれないのに能力を明かすなんて」ということである。
別所さんが元のように小説を直すと言うと、渉さんたちはすぐ、原稿に飛び込んで行った。目の前で人が消えるところというのは初めて見た。自分はいつも消える側だからである。別所さんも驚いていたが、私もなかなかに驚いた。冷静だったのは戸成さんだけだ。
別所さんはその後、書き直したものを送る先を探してきて、夏休みの間に出すからと私に添削を押し付けた。今私は必死で電子辞書片手に調べているところである。何しろ別所さんの作品は言葉が偉く小難しく、正しい用法なのか私は判別できないのだった。
別所さんは私に添削させる代わりに私の作品も見るからと、ファンタジー研究会に入会してしまった。毎週いつ活動するのかとやかましい。
戸成さんは、人が増えたのがあまり快く思っていないようだったが、別所さんが悪い人では無さそうなのを見て、一応認めたようだった。
「本中さんは小説別所さんに見せてないみたいですけど、いいんですか」
「うーん、なんかうまく書けないんだよね」
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「えっ痛いのは嫌ですよ」
「嘘に決まってるでしょ、でもきっと戸成さんは面白く読んでくれる気がする。戸成さんは少なくとも」
「私は面白い……ホットケーキの話ですか?」
「戸成さん、そんなにホットケーキ好きだったの? 私知らなかったんだけど」
「本中さんのお母さんが一度作ってくれたやつ、美味しかったからレシピ知りたいんですよね」
意外と人間、知らないことは多いものだ。
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