29 / 63
2章 本を出る
2章 本を出るー16
しおりを挟む
「もう俺は教科書を投げる二年生じゃない。彼は俺だったけど、もう違う人間みたいに思える。それでいて、俺は二年生に会いたかった。だから出て来たのかもしれない。渉は俺に似てるけど、もっとうまくやって来た俺で、いつも渉ならどういうだろうかと考えてた。だからお前たちが、渉を連れて来た時、俺の頭の中にしかいないはずの渉そのものだったからびっくりした。渉は俺がそうなりたい理想だから、渉が過去を欲しいと、そうするべきだと思うなら、それが正しいと俺は思っているんだろう」
別所さんは振り返って、「元の世界に帰れるのか?」と尋ねた。
元の世界に帰って、私は戸成さんにしこたま怒られた。「悪い人かもしれないのに能力を明かすなんて」ということである。
別所さんが元のように小説を直すと言うと、渉さんたちはすぐ、原稿に飛び込んで行った。目の前で人が消えるところというのは初めて見た。自分はいつも消える側だからである。別所さんも驚いていたが、私もなかなかに驚いた。冷静だったのは戸成さんだけだ。
別所さんはその後、書き直したものを送る先を探してきて、夏休みの間に出すからと私に添削を押し付けた。今私は必死で電子辞書片手に調べているところである。何しろ別所さんの作品は言葉が偉く小難しく、正しい用法なのか私は判別できないのだった。
別所さんは私に添削させる代わりに私の作品も見るからと、ファンタジー研究会に入会してしまった。毎週いつ活動するのかとやかましい。
戸成さんは、人が増えたのがあまり快く思っていないようだったが、別所さんが悪い人では無さそうなのを見て、一応認めたようだった。
「本中さんは小説別所さんに見せてないみたいですけど、いいんですか」
「うーん、なんかうまく書けないんだよね」
と、言いつつも、私は最近、高校生から抜け出せなくなっていたスランプから、ようやく抜け出せそうにある。
「実はね、今小説を書いてるんだけど、出来たら戸成さん読んでくれる?」
「面白いなら読みますよ」
そう言われると自信が無い。
「どんな話ですか?」
「戸成さんが殺される話よ」
私はからかって戸成さんの嫌がりそうな嘘をついた。
「えっ痛いのは嫌ですよ」
「嘘に決まってるでしょ、でもきっと戸成さんは面白く読んでくれる気がする。戸成さんは少なくとも」
「私は面白い……ホットケーキの話ですか?」
「戸成さん、そんなにホットケーキ好きだったの? 私知らなかったんだけど」
「本中さんのお母さんが一度作ってくれたやつ、美味しかったからレシピ知りたいんですよね」
意外と人間、知らないことは多いものだ。
別所さんは振り返って、「元の世界に帰れるのか?」と尋ねた。
元の世界に帰って、私は戸成さんにしこたま怒られた。「悪い人かもしれないのに能力を明かすなんて」ということである。
別所さんが元のように小説を直すと言うと、渉さんたちはすぐ、原稿に飛び込んで行った。目の前で人が消えるところというのは初めて見た。自分はいつも消える側だからである。別所さんも驚いていたが、私もなかなかに驚いた。冷静だったのは戸成さんだけだ。
別所さんはその後、書き直したものを送る先を探してきて、夏休みの間に出すからと私に添削を押し付けた。今私は必死で電子辞書片手に調べているところである。何しろ別所さんの作品は言葉が偉く小難しく、正しい用法なのか私は判別できないのだった。
別所さんは私に添削させる代わりに私の作品も見るからと、ファンタジー研究会に入会してしまった。毎週いつ活動するのかとやかましい。
戸成さんは、人が増えたのがあまり快く思っていないようだったが、別所さんが悪い人では無さそうなのを見て、一応認めたようだった。
「本中さんは小説別所さんに見せてないみたいですけど、いいんですか」
「うーん、なんかうまく書けないんだよね」
と、言いつつも、私は最近、高校生から抜け出せなくなっていたスランプから、ようやく抜け出せそうにある。
「実はね、今小説を書いてるんだけど、出来たら戸成さん読んでくれる?」
「面白いなら読みますよ」
そう言われると自信が無い。
「どんな話ですか?」
「戸成さんが殺される話よ」
私はからかって戸成さんの嫌がりそうな嘘をついた。
「えっ痛いのは嫌ですよ」
「嘘に決まってるでしょ、でもきっと戸成さんは面白く読んでくれる気がする。戸成さんは少なくとも」
「私は面白い……ホットケーキの話ですか?」
「戸成さん、そんなにホットケーキ好きだったの? 私知らなかったんだけど」
「本中さんのお母さんが一度作ってくれたやつ、美味しかったからレシピ知りたいんですよね」
意外と人間、知らないことは多いものだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記
スィグトーネ
ファンタジー
ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。
そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。
まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。
全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。
間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。
※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています
※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる