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2章 本を出る
2章 本を出るー12
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「しばらく経ってから話してみるしかないんじゃないですかね」
私は他田さんの相談に対し、当たり障りのないことを言った。「あなたがどうしたいかによりますけど」
「そうだね。ありがとう。ごめんねいきなりこんなことを話して」
他田さんはインタビュー頑張って、と去って行った。優しい人だ。取り残された私と戸成さんは、彼の後姿を見ながら話し合う。
「もしかして、あの話が、別所さんの書いた小説の筋なんじゃないかな」
「私もそう思う」
「それなら別所さんのあの反応が何となくわかる気がする」
私は悪かったね、と呟いた。
「もしかしたら、まだ別所さんはこれを人に見せたくなかったのかもしれないのに」
「そうですね」
「渉さんをはやく小説の中に戻そう。これ以上別所さんが傷つく前に」
戸成さんもうなずく。私は「出たい」と呟いた。
元の部屋に戻った。開かれた部誌は反動で閉じた。
「さぁ、これからどうしますか」
「うーん……」
そしてふと時間を見て、私は今日の夕方も授業であったことを思い出した。
「まずい」
「えっどうしましたか」
「私今日これから一コマ授業あるんだった」
「えっそうだったんですか」
「ほら、戸成さんも取ろうとして抽選落ちたやつ」
「あれですか」
お互いよく会っているとはいえ、時間割までは把握していない。私は慌てて荷物をまとめる。この授業は小テストをするのだが、私は時間が開いているせいで面倒くさくてもう3回もさぼっている。少し危ない。
「やっぱり楽単なんですか」
楽に単位が取れる授業なんですか、ということだ。そういう情報が出回っていたので、戸成さんも取ろうとしていたのだ。
「このままだと私は落単だけどね。とりあえず私は授業出る。戸成さんは少し探してみて」
「分かりました」
私は急いで大学に戻った。そういえば昼ご飯を食べていない。本の中で食べたものは、出ると無くなってしまうようで、お腹が空いていた。しかしそうも言っていられない。
なんとか教室に滑り込んだ。空いている席を探す。
すると、向こうから
「本中さん、こっちこっち」
と呼ぶ声がした。私にも同じ学科の友達などがいるが、この授業には知り合いはいないはずである。誰だ、と探すと、そこにいたのは渉さんだった。
「わ、渉さん」
私はびっくりする。確かに大学の授業は勝手に教室にもぐりこんでしまえば、誰でも聞くことが出来る。しかしなぜここに?
私は動揺しつつ渉さんの隣に向かった。普通の教室が満杯になっているので、すみませんすみませんと謝りながら人をかき分けて渉さんの隣に座る。
「どうしてこんなところに?」
「この授業が聞きたかったんだ」
「私がいるからここにいるわけではないんですか」
「いや、本中さんがこの授業を取っているとは知らなかったよ」
たまたまということだろうか。教授が教室に入って来る。平気そうな顔で、ノートもペンも出さず渉さんは鷹揚にほほ笑んだ。まぁペンも何も持っていないのであるが。
「なんでこの授業を?」
私はひそひそ声で聞く。教授がプリントを配り始めた。この授業は「文学と恋愛」というテーマで、文学部の教授が交代でやって来る。時代ごと、文化圏ごとの文学作品について、恋愛観について考察される。なかなかに面白い授業で、人気である。
「面白そうだし。それに、僕はこの教授が好きなんだ」
私は今日の授業の教授を確認した。誰だったか、私は理系学生なので文学部の先生はほとんど見たことが無いはずなのに、見覚えがある。私ははっとした。別所さんの研究室で見た教授である。
教授はじゃあプリントを見て、と話し始めた。渉さんは興味深そうに聞いている。私にペンを貸してくれと頼むので貸してあげた。配られたプリントにいろいろと書き込んでいる。好きというのが、どういうことなのかよく分からないが、この教授が男であるとはいえ、そういう好きではないような気がした。
「キリスト教では男色、女色というものは認められませんからね。そういった背景の描写になりますね」
先生は画面に映し出された作品の一部を読みながら言う。私はなぜ渉さんがここに、ということを考えていたので全く話が分からない。私は分からないなぁと思いながらこっそり戸成さんに連絡をした。
授業が終わり、私は小テストを渉さんに教えてもらいながら書き、提出して教室を出た。
教室を出ると、戸成さんが幼い男の子を連れて待っていた。学生が子供を連れていたら目立つ。教室を出るほかの学生が、「弟?」「なんで大学に」などとささやいているのが聞こえた。私は慌てて少し離れた場所に誘導した。
「その男の子は」
まさか、と思いながら尋ねる。戸成さんはこくりと頷く。
「多分、この子も別所さんの作品の子だと思います」
私は他田さんの相談に対し、当たり障りのないことを言った。「あなたがどうしたいかによりますけど」
「そうだね。ありがとう。ごめんねいきなりこんなことを話して」
他田さんはインタビュー頑張って、と去って行った。優しい人だ。取り残された私と戸成さんは、彼の後姿を見ながら話し合う。
「もしかして、あの話が、別所さんの書いた小説の筋なんじゃないかな」
「私もそう思う」
「それなら別所さんのあの反応が何となくわかる気がする」
私は悪かったね、と呟いた。
「もしかしたら、まだ別所さんはこれを人に見せたくなかったのかもしれないのに」
「そうですね」
「渉さんをはやく小説の中に戻そう。これ以上別所さんが傷つく前に」
戸成さんもうなずく。私は「出たい」と呟いた。
元の部屋に戻った。開かれた部誌は反動で閉じた。
「さぁ、これからどうしますか」
「うーん……」
そしてふと時間を見て、私は今日の夕方も授業であったことを思い出した。
「まずい」
「えっどうしましたか」
「私今日これから一コマ授業あるんだった」
「えっそうだったんですか」
「ほら、戸成さんも取ろうとして抽選落ちたやつ」
「あれですか」
お互いよく会っているとはいえ、時間割までは把握していない。私は慌てて荷物をまとめる。この授業は小テストをするのだが、私は時間が開いているせいで面倒くさくてもう3回もさぼっている。少し危ない。
「やっぱり楽単なんですか」
楽に単位が取れる授業なんですか、ということだ。そういう情報が出回っていたので、戸成さんも取ろうとしていたのだ。
「このままだと私は落単だけどね。とりあえず私は授業出る。戸成さんは少し探してみて」
「分かりました」
私は急いで大学に戻った。そういえば昼ご飯を食べていない。本の中で食べたものは、出ると無くなってしまうようで、お腹が空いていた。しかしそうも言っていられない。
なんとか教室に滑り込んだ。空いている席を探す。
すると、向こうから
「本中さん、こっちこっち」
と呼ぶ声がした。私にも同じ学科の友達などがいるが、この授業には知り合いはいないはずである。誰だ、と探すと、そこにいたのは渉さんだった。
「わ、渉さん」
私はびっくりする。確かに大学の授業は勝手に教室にもぐりこんでしまえば、誰でも聞くことが出来る。しかしなぜここに?
私は動揺しつつ渉さんの隣に向かった。普通の教室が満杯になっているので、すみませんすみませんと謝りながら人をかき分けて渉さんの隣に座る。
「どうしてこんなところに?」
「この授業が聞きたかったんだ」
「私がいるからここにいるわけではないんですか」
「いや、本中さんがこの授業を取っているとは知らなかったよ」
たまたまということだろうか。教授が教室に入って来る。平気そうな顔で、ノートもペンも出さず渉さんは鷹揚にほほ笑んだ。まぁペンも何も持っていないのであるが。
「なんでこの授業を?」
私はひそひそ声で聞く。教授がプリントを配り始めた。この授業は「文学と恋愛」というテーマで、文学部の教授が交代でやって来る。時代ごと、文化圏ごとの文学作品について、恋愛観について考察される。なかなかに面白い授業で、人気である。
「面白そうだし。それに、僕はこの教授が好きなんだ」
私は今日の授業の教授を確認した。誰だったか、私は理系学生なので文学部の先生はほとんど見たことが無いはずなのに、見覚えがある。私ははっとした。別所さんの研究室で見た教授である。
教授はじゃあプリントを見て、と話し始めた。渉さんは興味深そうに聞いている。私にペンを貸してくれと頼むので貸してあげた。配られたプリントにいろいろと書き込んでいる。好きというのが、どういうことなのかよく分からないが、この教授が男であるとはいえ、そういう好きではないような気がした。
「キリスト教では男色、女色というものは認められませんからね。そういった背景の描写になりますね」
先生は画面に映し出された作品の一部を読みながら言う。私はなぜ渉さんがここに、ということを考えていたので全く話が分からない。私は分からないなぁと思いながらこっそり戸成さんに連絡をした。
授業が終わり、私は小テストを渉さんに教えてもらいながら書き、提出して教室を出た。
教室を出ると、戸成さんが幼い男の子を連れて待っていた。学生が子供を連れていたら目立つ。教室を出るほかの学生が、「弟?」「なんで大学に」などとささやいているのが聞こえた。私は慌てて少し離れた場所に誘導した。
「その男の子は」
まさか、と思いながら尋ねる。戸成さんはこくりと頷く。
「多分、この子も別所さんの作品の子だと思います」
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