本を歩け!

悠行

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1章 本に潜る

1章 本に潜るー13

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 翌日、本中さんは私のクラスまでやってきました。廊下に出て、小さな声で話し始めます。
「なんか昨日はごめん」
 と謝るので、「いえいえ」と言いました。迷惑には思っていませんでした。それに、私は本中さんが小説の世界から出て来てくれてほっとしていました。
「なんで私が小説の中にいるって分かったの」
「そりゃ本中さんの能力ならそうすると思ったからですよ。嘘つかれてましたけど」
 私が言うと、本中さんはまた謝りました。
「だって、なんか言うべきじゃないかなと思って」
「後輩の方が、添削をすごく丁寧にやっていたと言っていたので。本中さんの小説、誤字とか多いからまさか他人の作品にそこまでしないだろうなと思って」
「すごい観察眼だね」
「伊達にミステリー読んでないんですよ」
 私が得意げに言うと、本中さんは少し笑いました。
「なんで小説に入ってたんですか」
「それは……まぁ」
 本中さんは少し考え、
「ストレスかな」
 と簡単に言いました。私はそう言われると、強く追及する気にはなれませんでした。思い出してみれば、本中さんは先週、疲れていたような気がします。
「なかなか出て来てくれないんで、困りましたよ」
 私が文句を言うと、本中さんはあれはすごかった、と言いました。
「平和な世界だったのに、もうあっちこっちで魔物は出てくるわ泥棒は出てくるわで大変だった」
「じゃあなんで出て来てくれなかったんですか」
「多分これ戸成さんの仕業だなと思って。次に何が起こるのか楽しくなっちゃって」
 私はあの時の焦りを思い出し、脱力しました。
「じゃあなんで出て来てくれたんですか」
「戸成さんが現れてさ」
 思いがけないことに私はえっと廊下の隅で叫んでしましました。通り過ぎていく生徒が、私の方を見ました。私は反射的に頭を下げます。
「私がですか?」
「『出て来て下さい』って言うから。出て来た。昨日の夜読んだんだけど、あれ殴り書きで書いただけだったんだね」
「ええ、本中さんのお母さんが玄関に来た音がしたので、慌てて」
「なるほど。でもちゃんと戸成さんだったよ」
「不思議ですね」
「元々私の世界だからさ、いたのかもね、戸成さんは」
 本中さんは軽い調子で言いました。先程まで申し訳なさそうに謝っていたのに、いつもの本中さんに戻っています。
「それなんか気持ち悪いですね」
 素直に思うところを言うと、ひどいなぁ、と本中さんが苦笑します。
「それにさ」
 と本中さんが付け加えました。
「本の世界には、私の知ってる本以外無いんだよ」
「どういうことですか」
「だから、それで出ようかなって」
 本中さんは飄々と背伸びしながら言います。私はよく分からなかったのですが、
「じゃあ今日、帰りに本屋寄りますか?」
 と言ってみました。本中さんは、満面の笑みで頷きました。
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