本を歩け!

悠行

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1章 本に潜る

1章 本に潜るー9

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 春休みが終わり学校に行くと、私と本中さんは理系と文系でクラスが分かれてしまいました。
「ホントに理系なんですね」
 と言うと、そろそろ覚えて欲しい、と言われました。しかし、理系だから数学などが出来るのかと言うとそうでもなく、いつも文系になりたいと言っているのでした。
 クラスが違うとはいえ、たまたま近いクラスだったので本中さんを見かけることはありました。トイレの前などでクラスメイトと話して笑ったりしていました。私が通り過ぎようとすると、本中さんは私に気が付いて「戸成さん! おはよ!」と呼ぶのでした。
 受験生になったので、本の中に入るのは回数を少なくしよう、という話をしたのは四月に入ってすぐでした。本中さんは模試で「春休み勉強したおかげで化学は上がったが英語がやばい」とのことでした。
「でも入ってなくてこの能力失われたりしたら嫌だな」
「そうですね。それは惜しいですね」
 本中さんは家でもすぐ本の世界に入ろうとしてしまうので、最近は夜まで塾の自習室に行くようにしていると言っていました。私と本中さんは二人とも塾の無い日を確認し、金曜日に本の中へ入ることに決めました。
 最近受験が近いから面倒なことが多い、と本中さんがぼやきます。
「今日息抜きに教室で本ちょっと読んでただけなのに、来週模試なのに余裕だね、とか言うんだよ」
「あ、その模試予備校で受けるやつですか。私も受けますよ」
「それそれ。ほんと面倒くさい」
 金曜日は毎週会うはずで、二三週はそうしていたのですが、詩集の中で昼ご飯を食べる、という試みに成功し、野原の上でお弁当を食べていた時、本中さんが「金曜日も都合が悪くなった」と言ってきました。
「どうしたんですか」
「塾増やされた。あと清掃委員になっちゃって金曜日ゴミ捨て場とかのチェックになった」
「そうですか……保健委員じゃなくなったんですか」
「委員決めの日にいなくて、勝手に清掃委員になってた。なんか伝えられてなくて先週の仕事に行かなかったから昨日聞いた」
 本中さんはあきらめたように「仕方ないね」と笑いました。
 本中さんは自宅で本の中に入れるのでいいですが、私は入れなくなりつまらない生活になりました。たまの土曜日に約束して本の中に入るくらいでした。
 五月に入り、本中さんがゴミ捨て場のある裏口に向かうのが見えたので追いかけてみると、クラスの書かれた袋をそれぞれ口を閉め直していました。
「何してるんですか」
 本中さんは振り向き、私の顔を見て驚きました。
「なんで戸成さんこんなところにいるの。掃除当番?」
「いや、どういう仕事をしているのかと思って」
「あー。ぜんぜん楽しくない仕事だよ」
 ゴミ袋の口が開いていれば閉め、クラスの管轄でない廊下などの掃除用具ロッカーの確認をし、始末が悪いクラスをメモして伝えるのだと言います。
「面倒ですね」
「ホントね」
 本中さんがチェックを終え、その日は一緒に帰りました。
「なんか今日は疲れたなぁ」
 本中さんはしきりにそう漏らしていました。本中さんの塾の時間まで、本屋に少し寄りました。新刊の確認や、最近本中さんが読んだという本について聞きました。私はミステリーが好きなのですが、本中さんはSFが好きで、若くして死んだSF作家の作品を、古本屋で買うか一般書店で買うか迷う、と言う話をされました。
「なんていうか生きてたら作家のためにも一般書店で買うか、と思うんだけどもう死んでるしなって」
 本の裏側を見て高いなぁ、と悩んでいました。本中さんはお小遣い制ではなく、必要なものがあればその分の代金を請求するのだと言います。だから本などの趣味にはお金をかけることが難しいのだそうです。結局買わず、本屋の前で塾いやだとごねる本中さんと別れました。いつも通りの、「じゃあまた来週」という別れ方だったと思います。
 しかし、それからすぐ、本中さんと会えなくなってしまったのです。
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