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第六話(最終話) 共に
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出産してしばらくして、俺はミズカミやクモツと別れ、現世へ戻った。
兄貴も神主夫妻もすごくホッとした表情をし、喜んでくれた。そんな彼らを見て、俺はちくりと胸が痛んだ。
病院へ言って検査をすると、異物がきれいになくなっていることに驚かれた。出来ていた袋もきれいに塞がっているとのこと。どのように治療したのか、尻から何が出てきたのか、しつこく聞かれたが、曖昧にはぐらかしておいた。
「あまりこちらを酷使しすぎないように」と、諦めた医者に軟膏を処方され、苦笑いで受け取る。
卵が孵化する頃、俺はまた常世へ行く。
休職中だった仕事は正式にやめた。東京のアパートも引き払った。
兄貴にお願いして、実家だけは俺の名義にしてもらった。他の相続財産は全部兄貴に渡した。実家の土地は広いだけで、建物も古く、不動産価値はそれほど高くない。俺が実家の不動産のみで、自分がばかりがこんなに受け取るのは申し訳ない、と兄貴は一端は断ったが、俺の意思は固かった。
そして、俺になにかあったら、その土地は白蛇神社に寄贈するように遺言書もつくった。
忙しい日々を終えてちょっと一息ついた日の夜、ミズカミが迎えに来た。
慌てて行くと、一つの卵に亀裂が走っていた。間に合った。まだ出てきていない。
徐々にその亀裂が大きくなって、殻が割れ、小さな赤目の蛇がちょろっと顔を出した。だが、びっくりして殻の中に戻るということを何度か繰り返した後に、殻から出てきた。
なんてかわいいんだ。
他の3つの卵も同じように、口で殻をつついて誕生する。
感動している俺の肩をミズカミがギュッと抱き寄せた。
「一つだけ出てこないな」
最後に産んだ一回り大きな卵。他の4匹が出ているのに、この卵だけ出てこない。俺は不安げにつぶやく。
「こいつは産まれるときものんびりしていたからな。ゆっくり待てばいいさ」
「ちょっと、殻をつついてみましょうか?」
クモツが言った。そんなことして大丈夫なのだろうか?中の子がびっくりしないだろうか?
アイスピックのようなものでコツコツとクモツが軽くつつくと、返事をするかのように殻の中からコツコツと小さな音が聞こえ、小さな亀裂が出来た。
「返事したっ!!」俺は嬉しくなって、大声で叫んだ。
徐々に亀裂が大きくなってゆく。そしてちらりと顔を出し、他の子達と同じようにびっくりして何度か中に戻った。そして兄弟たちの姿をみて、そろそろと殻からでてくる。その蛇の瞳は黒だった。
「龍乃丞に一番似てるな」
ミズカミが微笑んだ。俺も笑顔を返す。
「水神様、番様、おめでとうございます」
クモツがうやうやしくお祝いの言葉を述べた。
「さぁ、龍乃丞。これでお別れだ」
ミズカミが清々しい表情で、あっさりと別れを告げる。あんなに俺に執着したくせに。
「お前はこれからどうするんだ?」
「さぁな。蛇に親は必要ないが、それでも時々子供たちの様子でも見ながら、だらだらと暮らすさ。お前に料理も教わったし、温泉の楽しさも知ったからな。白蛇だったときも、ミズカミになってからも、ずっと一人で過ごしてきたんだ。まぁなんとかなるだろう。それに、神とは言え、ちゃんと寿命はあるからな。そうこうしているうちにぽっくりいくだろう」
「本当に?」
俺が何かを言いたげなのを察したのか、ミズカミが軽い口調をやめてじっと俺を見つめた。
「じゃぁこれはなんだ?」
俺は、一つの手紙を取り出した。
丁寧に折りたたまれたその紙の表には『上奏』と書かれていた。ミズカミが書いたのであろうその手紙を俺は出産した直後、屋敷の仕事部屋、ミズカミの机の上で見つけていた。
自ら死ぬことも出来ず、俺がミズカミの過去を誰にも話さなかった場合、ミズカミが寿命を待たずして死ねる方法は唯一つ。ミズカミの上の神に真実を述べることのみ。
日本には八百万の神々がいて、ミズカミもその一人。
本来であれば資格を持たない者が神になったのだ。世の中の理を正す必要がある。だが、神の子として産まれた子供たちだけは助けてほしいとその手紙には書かれていた。
「はぁ…クモツかと思っていたが、龍乃丞だったのか…気づかないふりをしてくれればいいのに…。
世の中の理を曲げてでも、俺は龍乃丞と一緒にいたいと願った。知らなければ平気だったのに、お前の温もりを知ってしまった後で、また一人に戻るなんて出来ると思うのか?
本当は縛り付けてでも、その足を食い千切ってでも龍乃丞を俺のものにしたい気持ちを必死に堪えてるんだ。生きて帰りたいのなら、もう放っておいてほしい」
紫色の瞳を赤くしながら、悲しそうにうつむいた。きらりとなにかが光りながらこぼれ落ちた。
「俺が、お前と一緒に生きてやると言ったら?」
はっと顔を上げた顔が涙で濡れていた。信じられない言葉を聞いたとでも言うように、驚きに目を見開いている。
「でも龍乃丞の人生が…」
「お前のせいでもう散々狂わされてるよ。誘拐されて、見たことのないすごいちんこでさんざん犯されて、挙句の果てに卵まで産まされたんだ。今更だろ?」
我ながら異常な判断だったと思う。でも、どこか吹っ切れていたりもして。母は強しというけど、これは強いというより無謀かもな、なんて思う反面、ミズカミとなら自分らしい家族を作れそうな、そんな気がした。
「龍乃丞…」
「それにまぁ、神様っていうのもなかなか人間臭くて、頼りなくて、放っておけないもんだと思ったよ。それに、怪我したら俺が治療してやんなきゃいけないだろ?」
ミズカミの脇の傷跡を服越しに撫でる。
「うん…うん…ありがとう…龍乃丞……でも俺はもう、神だし、強くて怪我しないから、龍乃丞が怪我したら今度は俺が治療する」
「そうだな、頼むよ」
怪我よりも肛門が持つかが心配なんだけどな、と密かに思いつつ、近づいてきたミズカミの唇を受け止めた。
===
その後、白蛇神社は金運アップ・商売繁盛だけでなく、夫婦円満・子宝のご利益も得られると県外からも大勢の参拝客が訪れる人気の神社となった。
辰巳龍乃丞の消息は誰も知らない。
時折、龍乃丞の実家に明かりが灯るとか、庭で子供が遊んでいるとか、縁側で仲良く並んでお茶を飲む男同士の夫夫が現れるなんて噂もあったが、本当のところは誰にもわからない。
(おしまい)
兄貴も神主夫妻もすごくホッとした表情をし、喜んでくれた。そんな彼らを見て、俺はちくりと胸が痛んだ。
病院へ言って検査をすると、異物がきれいになくなっていることに驚かれた。出来ていた袋もきれいに塞がっているとのこと。どのように治療したのか、尻から何が出てきたのか、しつこく聞かれたが、曖昧にはぐらかしておいた。
「あまりこちらを酷使しすぎないように」と、諦めた医者に軟膏を処方され、苦笑いで受け取る。
卵が孵化する頃、俺はまた常世へ行く。
休職中だった仕事は正式にやめた。東京のアパートも引き払った。
兄貴にお願いして、実家だけは俺の名義にしてもらった。他の相続財産は全部兄貴に渡した。実家の土地は広いだけで、建物も古く、不動産価値はそれほど高くない。俺が実家の不動産のみで、自分がばかりがこんなに受け取るのは申し訳ない、と兄貴は一端は断ったが、俺の意思は固かった。
そして、俺になにかあったら、その土地は白蛇神社に寄贈するように遺言書もつくった。
忙しい日々を終えてちょっと一息ついた日の夜、ミズカミが迎えに来た。
慌てて行くと、一つの卵に亀裂が走っていた。間に合った。まだ出てきていない。
徐々にその亀裂が大きくなって、殻が割れ、小さな赤目の蛇がちょろっと顔を出した。だが、びっくりして殻の中に戻るということを何度か繰り返した後に、殻から出てきた。
なんてかわいいんだ。
他の3つの卵も同じように、口で殻をつついて誕生する。
感動している俺の肩をミズカミがギュッと抱き寄せた。
「一つだけ出てこないな」
最後に産んだ一回り大きな卵。他の4匹が出ているのに、この卵だけ出てこない。俺は不安げにつぶやく。
「こいつは産まれるときものんびりしていたからな。ゆっくり待てばいいさ」
「ちょっと、殻をつついてみましょうか?」
クモツが言った。そんなことして大丈夫なのだろうか?中の子がびっくりしないだろうか?
アイスピックのようなものでコツコツとクモツが軽くつつくと、返事をするかのように殻の中からコツコツと小さな音が聞こえ、小さな亀裂が出来た。
「返事したっ!!」俺は嬉しくなって、大声で叫んだ。
徐々に亀裂が大きくなってゆく。そしてちらりと顔を出し、他の子達と同じようにびっくりして何度か中に戻った。そして兄弟たちの姿をみて、そろそろと殻からでてくる。その蛇の瞳は黒だった。
「龍乃丞に一番似てるな」
ミズカミが微笑んだ。俺も笑顔を返す。
「水神様、番様、おめでとうございます」
クモツがうやうやしくお祝いの言葉を述べた。
「さぁ、龍乃丞。これでお別れだ」
ミズカミが清々しい表情で、あっさりと別れを告げる。あんなに俺に執着したくせに。
「お前はこれからどうするんだ?」
「さぁな。蛇に親は必要ないが、それでも時々子供たちの様子でも見ながら、だらだらと暮らすさ。お前に料理も教わったし、温泉の楽しさも知ったからな。白蛇だったときも、ミズカミになってからも、ずっと一人で過ごしてきたんだ。まぁなんとかなるだろう。それに、神とは言え、ちゃんと寿命はあるからな。そうこうしているうちにぽっくりいくだろう」
「本当に?」
俺が何かを言いたげなのを察したのか、ミズカミが軽い口調をやめてじっと俺を見つめた。
「じゃぁこれはなんだ?」
俺は、一つの手紙を取り出した。
丁寧に折りたたまれたその紙の表には『上奏』と書かれていた。ミズカミが書いたのであろうその手紙を俺は出産した直後、屋敷の仕事部屋、ミズカミの机の上で見つけていた。
自ら死ぬことも出来ず、俺がミズカミの過去を誰にも話さなかった場合、ミズカミが寿命を待たずして死ねる方法は唯一つ。ミズカミの上の神に真実を述べることのみ。
日本には八百万の神々がいて、ミズカミもその一人。
本来であれば資格を持たない者が神になったのだ。世の中の理を正す必要がある。だが、神の子として産まれた子供たちだけは助けてほしいとその手紙には書かれていた。
「はぁ…クモツかと思っていたが、龍乃丞だったのか…気づかないふりをしてくれればいいのに…。
世の中の理を曲げてでも、俺は龍乃丞と一緒にいたいと願った。知らなければ平気だったのに、お前の温もりを知ってしまった後で、また一人に戻るなんて出来ると思うのか?
本当は縛り付けてでも、その足を食い千切ってでも龍乃丞を俺のものにしたい気持ちを必死に堪えてるんだ。生きて帰りたいのなら、もう放っておいてほしい」
紫色の瞳を赤くしながら、悲しそうにうつむいた。きらりとなにかが光りながらこぼれ落ちた。
「俺が、お前と一緒に生きてやると言ったら?」
はっと顔を上げた顔が涙で濡れていた。信じられない言葉を聞いたとでも言うように、驚きに目を見開いている。
「でも龍乃丞の人生が…」
「お前のせいでもう散々狂わされてるよ。誘拐されて、見たことのないすごいちんこでさんざん犯されて、挙句の果てに卵まで産まされたんだ。今更だろ?」
我ながら異常な判断だったと思う。でも、どこか吹っ切れていたりもして。母は強しというけど、これは強いというより無謀かもな、なんて思う反面、ミズカミとなら自分らしい家族を作れそうな、そんな気がした。
「龍乃丞…」
「それにまぁ、神様っていうのもなかなか人間臭くて、頼りなくて、放っておけないもんだと思ったよ。それに、怪我したら俺が治療してやんなきゃいけないだろ?」
ミズカミの脇の傷跡を服越しに撫でる。
「うん…うん…ありがとう…龍乃丞……でも俺はもう、神だし、強くて怪我しないから、龍乃丞が怪我したら今度は俺が治療する」
「そうだな、頼むよ」
怪我よりも肛門が持つかが心配なんだけどな、と密かに思いつつ、近づいてきたミズカミの唇を受け止めた。
===
その後、白蛇神社は金運アップ・商売繁盛だけでなく、夫婦円満・子宝のご利益も得られると県外からも大勢の参拝客が訪れる人気の神社となった。
辰巳龍乃丞の消息は誰も知らない。
時折、龍乃丞の実家に明かりが灯るとか、庭で子供が遊んでいるとか、縁側で仲良く並んでお茶を飲む男同士の夫夫が現れるなんて噂もあったが、本当のところは誰にもわからない。
(おしまい)
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