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3.見たことのない花※
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「錦弥は洋薔薇と言うものを知っているか?」
「洋薔薇……ですか? なんでもとても美しい花だという噂しか……」
錦弥は正直に答えた。野いばらはそこら辺に生えている花だが、洋薔薇は最近話題になっている、西欧が原産とされている珍しい花だ。
「うむ。 幾重にも重ねられた真紅の花びらに、なんともうっとりするような芳香。 でもその枝には棘を持つ。 まるで錦弥のような花なんだが……実は、先日東北のある寺からその洋薔薇が献上されてな。それを育てる大役を私が仰せ遣ったんだ」
「まぁ、すごい!」
「それが成功すれば、もっと取り立ててもらえるし、錦弥のことも身請けできるやもしれぬ……」
「嬉しい……でもご無理はなさらないで下さい……私は時々でもこうして公政様にお会いできればそれで十分なのです……それに私はその花に似ておりません。 私は公政様を傷つけたりはしません……」
おそらく薔薇の棘で傷ついたのであろう引っかき傷だらけの公政の手に、持っていた手拭いを巻き、口づける。
「あぁ、そうだな。 お前は私を傷つけない。 私が勝手に傷ついているだけだ。 愛おしい錦弥にこのような傷がつくことを。 私以外がこの身体を抱くということを……」
公政が、錦弥の痣を切なそうに撫でた。
「公政様……」
◇
無情にも別れの時間はやってくる。束の間の逢瀬を噛みしめる錦弥に「あまり熱を上げないほうが……」と銀次が忠告してきた。
「わかってるよ、そんな事……。 過度な期待は身を滅ぼすだけだって……。でも銀次だって池田様のご指名なら布団だけで済むから楽だろ? この間なんて柱に吊らされたまま一晩中ヤラれてホント大変だったよ。 死ぬかと思った。 縛られた痕も全然消えないし」
そう言って、今なお残る痕に触れれば、「痛そうだ」と言って泣いてくれた公政の顔が思い出される。
「あの時は、その…………いえ、すんませんでした……」
銀次はなにか言いたげな様子だったが、口をつぐんだ。錦弥も八つ当たりだというのはわかってる。どうせ茶屋の主人が銀次を止めたのだろう。そうして錦弥が稼いだ金の殆どは茶屋の主人の懐に入るのだ。
◇
しばらく公政の呼び出しがなかった。
逆に先日の手荒な客の指名が増え、錦弥の身体は縛られた痕が治る間がなかった。縛られ続けた身体は赤から、紫、黒へと変色してゆく。
かつての限界を越えて錦弥の身体を痛めつける。
このままこの男のおもちゃとなって殺されてしまうんではないかと思うこともあった。
その日は3人の男を相手にしていた。
男の魔羅を舐め、うしろには別の男の魔羅を受け入れる。
手足は自由になったが、延々と続く責め苦に疲れ果てていた。
「はは、お前の魔羅が雑魚過ぎて、陰間の魔羅がお休み中だぞ?」
自らのを勃たせる余裕もなく、男達を受け入れていると、余った一人の男が、菊門に入れている男を揶揄り、錦弥の魔羅を一纏めに掴んだ。
「いっ……やめっ……ぐっ……」
思わず口の中の魔羅を吐き出し、引っ張られる力につられれば、後孔を穿っていた男が、錦弥の腰を掴んで引っ張った。引っ張られる痛みに生理的な涙が出てくる。
「いたい……いたいです……お願い……堪忍してください……」
男達は自分の生理的な欲求をぶつけると言うより、錦弥を泣かすことを楽しみ始めた。
髪を鷲掴みにし、全身を叩いたりつねったりを繰り返す。
気を失いかけた頃、やっと銀次が止めに入った。
「もう嫌だ……こんな生活、もう嫌だ……公政様……早く助けに来て……」
普段は客を喜ばせるためにしか泣かない錦弥の本気の涙に、銀次は何も言えず、ただじっと見つめていた。
◇
「お座敷代が上がっている?」
久しぶりに公政の座敷へ上がった。錦弥のあまりの喜び様に戸惑っているのか、なかなか会いにこれない申し訳なさがあるのか、公政の様子がどこかぎこちなかった。
もう会わないと言われたらどうしよう。錦弥は途端に不安になった。
「あ、あぁ。 見受け料も……だから……その、すぐには難しいかも……」
話を聞いて、ぎこちない理由はこれだったのかと、少し胸をなでおろした。嫌われたわけでも、見限られたわけでもなかったのだ。
「錦弥はずっと待っています……公政様と一緒に満開の桜が見られる日を……」
久しぶりの逢瀬は短かった。時間にして一切(約1~2時間)という一番短い時間。座敷代が上がっているから公政の懐も厳しいのかもしれない。
食事を放りだして、二人は抱き合った。
公政がなんども「ごめん……ごめん……」と謝る。
不安な気持ちにさせるその言葉を聞きたくなくて、唇で唇を塞ぎ、公政の魔羅を受け入れる。
痣だらけの身体に同情しているのか、なかなか会いにこれない罪悪感なのだとはじめは思った。
だがずっとこのような仕事をしている錦弥には、うっすらわかった。きっとこれで最後のつもりなのだ。
「もう謝らないでください。 なかなか会えなくても、一言『いつか会いに来る』といってくだされば、錦弥はそれだけを希望に、前を向いて生きていけるのです」
だが、公政はずっと「ごめん……ごめん……」と泣きながら謝り続けるばかりだった。
その日以来、公政から呼ばれることはなかった。
◇
それから何ヶ月も時が過ぎた。
「もう会えない」とわかっていつつ、わずかな希望を胸に生きる日々はとても虚しかった。身体が思うように動かない。重い身体を引きずって客の前にでれば、いたぶられ、帰れば「接客がなっていない」と茶屋の主人に折檻された。
行き帰り、柳の木の下で川を見ながら、何度も死をイメージした。
今日も銀次が錦弥の身体を拘束し梁に吊るす。
痣だらけ、傷だらけの錦弥の裸をみて客の男達が、何をしても良い存在なのだと認識する。
「銀次、どうせなら、この首に巻いてくれ……」
錦弥は感情のない声でつぶやいた。
「洋薔薇……ですか? なんでもとても美しい花だという噂しか……」
錦弥は正直に答えた。野いばらはそこら辺に生えている花だが、洋薔薇は最近話題になっている、西欧が原産とされている珍しい花だ。
「うむ。 幾重にも重ねられた真紅の花びらに、なんともうっとりするような芳香。 でもその枝には棘を持つ。 まるで錦弥のような花なんだが……実は、先日東北のある寺からその洋薔薇が献上されてな。それを育てる大役を私が仰せ遣ったんだ」
「まぁ、すごい!」
「それが成功すれば、もっと取り立ててもらえるし、錦弥のことも身請けできるやもしれぬ……」
「嬉しい……でもご無理はなさらないで下さい……私は時々でもこうして公政様にお会いできればそれで十分なのです……それに私はその花に似ておりません。 私は公政様を傷つけたりはしません……」
おそらく薔薇の棘で傷ついたのであろう引っかき傷だらけの公政の手に、持っていた手拭いを巻き、口づける。
「あぁ、そうだな。 お前は私を傷つけない。 私が勝手に傷ついているだけだ。 愛おしい錦弥にこのような傷がつくことを。 私以外がこの身体を抱くということを……」
公政が、錦弥の痣を切なそうに撫でた。
「公政様……」
◇
無情にも別れの時間はやってくる。束の間の逢瀬を噛みしめる錦弥に「あまり熱を上げないほうが……」と銀次が忠告してきた。
「わかってるよ、そんな事……。 過度な期待は身を滅ぼすだけだって……。でも銀次だって池田様のご指名なら布団だけで済むから楽だろ? この間なんて柱に吊らされたまま一晩中ヤラれてホント大変だったよ。 死ぬかと思った。 縛られた痕も全然消えないし」
そう言って、今なお残る痕に触れれば、「痛そうだ」と言って泣いてくれた公政の顔が思い出される。
「あの時は、その…………いえ、すんませんでした……」
銀次はなにか言いたげな様子だったが、口をつぐんだ。錦弥も八つ当たりだというのはわかってる。どうせ茶屋の主人が銀次を止めたのだろう。そうして錦弥が稼いだ金の殆どは茶屋の主人の懐に入るのだ。
◇
しばらく公政の呼び出しがなかった。
逆に先日の手荒な客の指名が増え、錦弥の身体は縛られた痕が治る間がなかった。縛られ続けた身体は赤から、紫、黒へと変色してゆく。
かつての限界を越えて錦弥の身体を痛めつける。
このままこの男のおもちゃとなって殺されてしまうんではないかと思うこともあった。
その日は3人の男を相手にしていた。
男の魔羅を舐め、うしろには別の男の魔羅を受け入れる。
手足は自由になったが、延々と続く責め苦に疲れ果てていた。
「はは、お前の魔羅が雑魚過ぎて、陰間の魔羅がお休み中だぞ?」
自らのを勃たせる余裕もなく、男達を受け入れていると、余った一人の男が、菊門に入れている男を揶揄り、錦弥の魔羅を一纏めに掴んだ。
「いっ……やめっ……ぐっ……」
思わず口の中の魔羅を吐き出し、引っ張られる力につられれば、後孔を穿っていた男が、錦弥の腰を掴んで引っ張った。引っ張られる痛みに生理的な涙が出てくる。
「いたい……いたいです……お願い……堪忍してください……」
男達は自分の生理的な欲求をぶつけると言うより、錦弥を泣かすことを楽しみ始めた。
髪を鷲掴みにし、全身を叩いたりつねったりを繰り返す。
気を失いかけた頃、やっと銀次が止めに入った。
「もう嫌だ……こんな生活、もう嫌だ……公政様……早く助けに来て……」
普段は客を喜ばせるためにしか泣かない錦弥の本気の涙に、銀次は何も言えず、ただじっと見つめていた。
◇
「お座敷代が上がっている?」
久しぶりに公政の座敷へ上がった。錦弥のあまりの喜び様に戸惑っているのか、なかなか会いにこれない申し訳なさがあるのか、公政の様子がどこかぎこちなかった。
もう会わないと言われたらどうしよう。錦弥は途端に不安になった。
「あ、あぁ。 見受け料も……だから……その、すぐには難しいかも……」
話を聞いて、ぎこちない理由はこれだったのかと、少し胸をなでおろした。嫌われたわけでも、見限られたわけでもなかったのだ。
「錦弥はずっと待っています……公政様と一緒に満開の桜が見られる日を……」
久しぶりの逢瀬は短かった。時間にして一切(約1~2時間)という一番短い時間。座敷代が上がっているから公政の懐も厳しいのかもしれない。
食事を放りだして、二人は抱き合った。
公政がなんども「ごめん……ごめん……」と謝る。
不安な気持ちにさせるその言葉を聞きたくなくて、唇で唇を塞ぎ、公政の魔羅を受け入れる。
痣だらけの身体に同情しているのか、なかなか会いにこれない罪悪感なのだとはじめは思った。
だがずっとこのような仕事をしている錦弥には、うっすらわかった。きっとこれで最後のつもりなのだ。
「もう謝らないでください。 なかなか会えなくても、一言『いつか会いに来る』といってくだされば、錦弥はそれだけを希望に、前を向いて生きていけるのです」
だが、公政はずっと「ごめん……ごめん……」と泣きながら謝り続けるばかりだった。
その日以来、公政から呼ばれることはなかった。
◇
それから何ヶ月も時が過ぎた。
「もう会えない」とわかっていつつ、わずかな希望を胸に生きる日々はとても虚しかった。身体が思うように動かない。重い身体を引きずって客の前にでれば、いたぶられ、帰れば「接客がなっていない」と茶屋の主人に折檻された。
行き帰り、柳の木の下で川を見ながら、何度も死をイメージした。
今日も銀次が錦弥の身体を拘束し梁に吊るす。
痣だらけ、傷だらけの錦弥の裸をみて客の男達が、何をしても良い存在なのだと認識する。
「銀次、どうせなら、この首に巻いてくれ……」
錦弥は感情のない声でつぶやいた。
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