交通量調査物語

がしげげ

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19、初夏の長袖

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高速道路を快調に走ることに、これほどストレスを感じたことはない。
そして、これほどまでに心の底から渋滞を欲したことはない(笑)
そのぐらい幸せな一時だ。
僕の肩には相変わらず彼女の、篠田さんの頭が寄り掛かっていた。
一方で、道路の継ぎ目の度に車が少し揺れ、一瞬肩から頭が離れてしまうことがヒヤッとさせる。

「和歌山県に入りました。」

カーナビがそう発した。
残念ながら、やはり快調に調査現場に向かっているようだ。

「ガタン!」

段差が大きい道路の継ぎ目があったようだ。



あれ?
肩の重みが戻って来ない…
まさか…

「ごめん。完全に寝てた…。もたれ掛かってたみたいで…。」

僕のフィーバータイムは終わりを迎えた。

「全然いいよ。むしろ彼女が出来たみたいで幸せやったかも(笑)」

ショックと焦りの中、咄嗟に出た言葉にしてはなかなか評価出来る返しだと思った。
冗談を交えつつも、ウェルカムをアピール。
実は本音である点など、95点は付けてもいい気がする。

「まだ眠たい…。じゃあもう少し彼氏になってもらってもいい?」

なんと…!

「ぜ、全然いいよっ…」

さすがに焦りがMAXの中では95点というわけにはいかず、驚きが隠せない15点の返しになってしまった。

だが、幸せな一時はまさかの継続となった。

神様、感謝致します。

正式に合意があったためか、先程よりもしっかり寄り掛かってきた。
道路の継ぎ目でも、肩から頭が離れることはない。

そのためか、ふと気づいたときには男の本能との闘いになっていた。
股間の奥が熱い…。
油断したらすぐにでも膨らんできそうだ。

なんとか耐えろ
なんとか…

僕は必死で別のことを考えることにした。


バイクがガス欠して大変だった思い出、携帯をトイレに落として泣きそうになった思い出、友達の変顔が面白すぎた思い出…

次々と「萎えること」を思い出し、必死で股間の膨らみを抑えにかかったのである。

そして「抑え」が優勢に転じたためか、そっと篠田さんの顔を覗き込んだ。

天使だ…。

これが失敗だった…。

ムクムクムク。

リミッターが外れたように股間が膨らんでいく。
今、篠田さんに目を開けられたら確実にアウト。
誰が見ても異変が起きていた。

さらに最悪なことに、高速道路の夜間灯がやけに明るいゾーンに差し掛かった。

この眩しさで目を開けられたら即効でバレてしまうだろう。

「ガタン!」

出ました、段差の大きい道路の継ぎ目。

これはさすがに終わった…。

そう確信したときだ。

篠田さんの着ている柔らかな服の袖がシートベルトに引っ掛かり、片腕が肘の関節ぐらいまで露になった。

高速道路のやけに明るい夜間灯が照らし出したのは、傷だらけの白く細い腕だった。

いつの間にか股間の奥の熱さも、膨らみも収まっていた。

篠田さんは、間違いなくリストカットをしていたのである。
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