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69、執事エリック(3)

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「お父様、お話があります!」

 フルールが応接室のドアを開けた時、室内には父と母が居た。

「どうしてエリックをよそのおうちに連れて行くの? このままうちに居てもらってもいいでしょ?」

 子供らしい主張をするフルールの後ろで、エリックはビクビクと親子の対話を見守っている。父アルフォンスは娘に苦笑を返した。

「大人には大人の事情がある。エリックの両親はよくブランジェ家に仕えてくれた。このまま彼を我が家に置くことはやぶさかではない。しかし、肉親が引き取りたいというのであれば、他人は手を引くべきであろう」

 フルールは憮然として、

「それが、エリックの意思に反することでもですか?」

「エリックは未成年で適切な保護者が必要だ。誰かに養ってもらわねばならない内は、大人の意見が優先されて然るべきだろう」

 父の言葉は、これ以上ないほど正論だ。
 しかし、幼いブランジェ公爵令嬢も負けてはいなかった。

「では、こうしましょう」

 彼女は腰に手を当てて堂々と宣言する。

「わたくしが、エリックを執事として雇いますわ!」

 子供の戯言に、思わず父母は吹き出しかけたが、

「わたくしの三歳のお誕生日に頂いたボワ地区の土地を売ります。それなら、エリックが成人するまでの向こう九年間の使用人としてのお給金と学費を余裕で賄えますわよね?」

 個人資産から、具体的かつ現実的な数字を提示してきた!

 学力優秀なエリックが彼の父の意向で学費の高い王立学園に通っていて、遠縁に引き取られた後もブランジェ公爵家が学費の支援を約束していることを、令嬢は把握していた。

「わたくしと雇用契約すれば、エリックは自分を自分で養えます。ブランジェ公爵令嬢わたくしの執事なら、使用人宿舎この家で暮らせますわよね?」

 強引な娘の理論に呆気に取られた両親を置いて、フルールはエリックを振り返る。

「どうする、エリック。わたくしと契約する?」

「……はい!」

 少年は首がもげるほど頷いた。

「僕、フルールお嬢様の執事になります。命の限り、フルール様にお仕えします!」

 それは、世界で一番神聖な誓い。
 エリックの人生を決めた言葉だ。

……その後、娘のプレゼン能力に根負けしたブランジェ夫妻がエリックの引き渡しを撤回し、彼を屋敷で扶養し学費の援助を継続すると決めたこと。そして、実は遠縁の狙いがエリック父の遺産とブランジェ家からの援助だと判明して大揉めしたことは……、また別の話。

◆ ◇ ◆ ◇

「……そんなこと、あったかしら?」

「ありましたとも」

 首を傾げるフルールに、エリックは宝物を包むように胸に手を当てる。

「あの日から、フルール様は私にとって唯一絶対の存在なのです」
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