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40、それぞれの思惑(1)

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「てあっ!」

 気合とともにヴィンセントが木剣を振り下ろす。

「むぅっ」

 ギイはそれを自分の木剣で受け止め競り合いながら、力任せに押し戻す。
 一歩飛び退いたヴィンセントは、体勢を立て直すと、切っ先を突きつけるように構えて同僚に突進した。

「わっ、わっ、ひっ!」

 ギイは右に左に打ち出される剣戟を辛うじて躱しながら、ヴィンセントとの間合いを図る。

「ふん!」

 ヴィンセントの鋭い一閃を刃を滑らせていなし、

「うりゃ!」

 今度はギイが金髪の同僚の喉元目掛けて剣を突き出す。
 公爵家の嫡男はそれを仰け反って避けながら、長い足を跳ね上げ、ギイの胴に蹴りを叩き込む。

「げっ! キックは反則!」

「そんなルールあるか!」

 悪態をつきながら、一度距離を取った二人は、また構えて木剣を振るう。
 朝の訓練場に乾いた木々の打ち合う高い音が響く。
 チュニックにズボンというラフな服装の二人は、まだ肌寒い時間だというのに汗だくだ。

「ヴィンセント殿もギイ殿も、さすがだなぁ」

 目にも止まらぬ速さで繰り出される二人の斬撃を、他の騎士達は惚れ惚れと見守っている。

「おい、ヴィンス。そろそろ終わりにしようぜ!」

 早朝鍛錬からこんなハイペースでは、この後の業務に支障が出る。抗議する同僚に、それでもヴィンセントは止まらない。
 ブンッと風を切って袈裟懸けに木剣を振り下ろす。

「わっ!」

 鼻先を掠める剣を顎を引いて避けて、若い騎士は両手で剣を握り直す。

「どうしたんだよ? ヴィンス。昨夜帰ってきてから変だぞ?」

「……うるさい」

 ヴィンセントは下段に構え、ギイを睨みつける。余裕のない彼の表情に、学生時代からの親友は察しがついた。……原因は、彼の溺愛する妹ちゃんのことだろうと。

「まったく。何があったか知らないが、八つ当たりはよくないぜ、

 からかう口調に、ヴィンセントは眉を吊り上げる。
 わざと激昂させてストレス発散に付き合ってやるのだから、ギイ・オドランという男は人がいい。……単にお調子者なだけかもしれないが。
 ヴィンセントの足が地を蹴り、愚者の構えから斜めに掬い上げるように木剣がギイの胴を狙う。ギイも一歩踏み出し、上段から相手の剣戟を撃ち落とそうと振り下ろした……その時。

「ちょっと! ヴィンセント卿!」

 突然、二人の騎士の間に、小さな人影が割って入った。
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