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35、運命の夜会(4)
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ふわふわの薄茶色の巻毛の愛らしい少年が、子犬のようにフルールに駆け寄ってくる。
クワント王国第二王子セドリックだ。
「もー、一歩踏み出す度にいろんな人に囲まれてなかなか進めなかったよ!」
白い頬をぷくっと膨らませて憤慨する王子は、年よりも幼く見える。
「仕方がないではありませんか。今日のセドリック殿下は、出席できなかった国王陛下の名代。挨拶回りが仕事ですよ」
背の低いセドリックの背後に控えていた秘書官マティアスが肩越しに状況説明してくれる。
「もうおっさんたちのおべっか聞くのは飽きたよ。ね、フルール、踊ろう!」
公爵令嬢の手を引っ張って椅子から立たせようとするセドリックに、マティアスは無表情で、
「まだ国外からの賓客への挨拶が済んでおりません。そちらを先にお願いします」
「一曲踊るくらいの間で、お客は逃げないでしょ。どうしてもっていうなら、マティアスが代わりに挨拶しといてよ」
「私では殿下の代わりは務まりません」
唇を尖らせる王子に秘書官は淡々と返してから、思いついたように手を打った。
「ならば、こうしましょう。私がセドリック殿下の代わりにフルール様と踊りますから、殿下はその間に挨拶回りを……」
「いやだよ! 僕に得が一個もないじゃん! 何の罰ゲームだよ!」
キャンキャン吠え立てるセドリックに、マティアスは両手で耳を塞ぐ。
そんな二人のやり取りに、フルールは思わず笑ってしまう。
「よろしいですわよ、セディ様。踊りましょう。でも一曲終わったら、お仕事に戻ってくださいまし」
「うん!」
セドリックにエスコートされ、フルールはボールルームへ向かう。マティアスも、つかず離れず第二王子の後を追う。
手を振る親友を見送って、ベルタは飾り切りされたカットフルーツを口に入れた。
「モテる女って大変ね」
ちょっと羨ましい気もするが……、
「ベルタ!」
不意に呼ばれて振り返ると、傍らにはヨゼフが立っていた。
「間に合って良かった。踊ろう」
差し出された手に首を捻る。
「間に合ったって?」
「これ、君が好きな曲だろう?」
会場に流れる音楽に、ベルタははっとする。そういえば、彼とそんな話をしたことがあったっけ。
わざわざ駆けつけてきてくれた婚約者に、くすぐったい気持ちになる。
ヨゼフは親の決めた婚約者だったが、最初からウマがあった。せっかちなベルタとおおらかなヨゼフは相性が良かったのだろう。
出会いはどうあれ、彼が彼女を大切にしてくれていることは十分伝わっている。
「わたくしって、幸せ者よね」
ベルタは婚約者の手に自分のそれを重ね、仲良くボールルームへと向かった。
クワント王国第二王子セドリックだ。
「もー、一歩踏み出す度にいろんな人に囲まれてなかなか進めなかったよ!」
白い頬をぷくっと膨らませて憤慨する王子は、年よりも幼く見える。
「仕方がないではありませんか。今日のセドリック殿下は、出席できなかった国王陛下の名代。挨拶回りが仕事ですよ」
背の低いセドリックの背後に控えていた秘書官マティアスが肩越しに状況説明してくれる。
「もうおっさんたちのおべっか聞くのは飽きたよ。ね、フルール、踊ろう!」
公爵令嬢の手を引っ張って椅子から立たせようとするセドリックに、マティアスは無表情で、
「まだ国外からの賓客への挨拶が済んでおりません。そちらを先にお願いします」
「一曲踊るくらいの間で、お客は逃げないでしょ。どうしてもっていうなら、マティアスが代わりに挨拶しといてよ」
「私では殿下の代わりは務まりません」
唇を尖らせる王子に秘書官は淡々と返してから、思いついたように手を打った。
「ならば、こうしましょう。私がセドリック殿下の代わりにフルール様と踊りますから、殿下はその間に挨拶回りを……」
「いやだよ! 僕に得が一個もないじゃん! 何の罰ゲームだよ!」
キャンキャン吠え立てるセドリックに、マティアスは両手で耳を塞ぐ。
そんな二人のやり取りに、フルールは思わず笑ってしまう。
「よろしいですわよ、セディ様。踊りましょう。でも一曲終わったら、お仕事に戻ってくださいまし」
「うん!」
セドリックにエスコートされ、フルールはボールルームへ向かう。マティアスも、つかず離れず第二王子の後を追う。
手を振る親友を見送って、ベルタは飾り切りされたカットフルーツを口に入れた。
「モテる女って大変ね」
ちょっと羨ましい気もするが……、
「ベルタ!」
不意に呼ばれて振り返ると、傍らにはヨゼフが立っていた。
「間に合って良かった。踊ろう」
差し出された手に首を捻る。
「間に合ったって?」
「これ、君が好きな曲だろう?」
会場に流れる音楽に、ベルタははっとする。そういえば、彼とそんな話をしたことがあったっけ。
わざわざ駆けつけてきてくれた婚約者に、くすぐったい気持ちになる。
ヨゼフは親の決めた婚約者だったが、最初からウマがあった。せっかちなベルタとおおらかなヨゼフは相性が良かったのだろう。
出会いはどうあれ、彼が彼女を大切にしてくれていることは十分伝わっている。
「わたくしって、幸せ者よね」
ベルタは婚約者の手に自分のそれを重ね、仲良くボールルームへと向かった。
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