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18、魔王の実力
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私や村人達を庇うように前に立った容姿端麗な魔王に、王国軍は息を呑む。
「な、なによ、なによ!」
火炎魔法を消滅させられてぽかんとしていたマギーは、我に返って次の詠唱を始める。
「氷……」
……だが、準備中の氷結魔法は発動すらしなかった。
「五月蝿い。そなたは黙っておれ」
魔王が一瞥すると、女魔法使いの上唇と下唇は、縫い付けたようにぴったりと閉じて開かなくなってしまったのだ。
むーむー唸るマギーを横目に「くそっ」と悪態をついて、戦斧を構えたモイラが駆け出してくる。
「どりゃああああ!!」
強靭な脚力で大地を蹴り、ジャンプして高い位置から魔王に戦斧を振り下ろす!
……だが。
大木を一振りで切り倒すという女戦士の斧は、魔王の頭をかち割る前に、彼女の手の中でサラサラと砂になり崩れた。
「ひ、ひい!」
空中で重い得物を失い、バランスを崩したモイラは不格好に地面に落下する。そんな彼女に魔王は見向きもしない。
魔王は肩に落ちる髪を背に払い、顎をしゃくった。
「勇者よ、余の配下を開放せよ」
「く……」
魔王の高圧的なお願いに、ジェフリーが答える前に、
「放て!」
後方の、王国軍の弓隊の一斉射撃が始まった!
無数の矢が、魔王と村人達に向かって飛来する。
こんなの、避けようがない!
惨劇を予想して、咄嗟に両手で顔を覆った私が、指の隙間から見たものは――
「……え?」
――魔王の五歩手前で、弾き返されて地面に落ちていく矢の残骸だった。
まるで、見えない壁があるかのように、一定の場所に到達した矢はひしゃげ、失墜する。しかも、どの方向から来てもだ。いつ発動したかも気づかせない、広範囲障壁魔法。
(……すごい)
桁外れだ。これが魔王の実力か!
と感心した私だったが……。
……これはほんの序の口だった。
「まだ力の差が判らぬか」
魔王が面倒くさそうに零すと、彼の右側・左側・頭上に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
詠唱も杖で描く動作もなく、三枚同時に魔法陣を敷くなんて!
驚きに言葉も出ない私の目の前で、魔法陣の中なら、巨大な鉤爪が湧き出した。
右には炎竜、左にはキマイラ、頭上にはグリフォン。
伝説級の巨大魔獣の出現に、王国軍は悲鳴を上げて逃げ惑う。
ちょ、これは……っ。
私も空いた口が塞がらない。
メチャクチャだ。圧倒的すぎる。
……こんなヤツ相手に、歴代の勇者はどうやって勝利してきたの!?
「兵を退け、人の子らよ」
三体の魔獣を従え、魔王が厳かに命令する。
「今、この地を去るのであれば追わずにおこう。しかし抗うならば、そなたらは骨の欠片一つ残らずこの世から消えることとなるだろう」
「あ……わわ……」
王国軍もマギーも戦意消失している。モイラなんて、腰を抜かして失神寸前だ。
もう、勝敗はついている。私は――きっと、魔王だって――敵味方問わず、人々に犠牲が出るのは見たくない。
馬に跨った王国軍の司令官が旗を掲げる。
「全軍、退きゃ……」
「……まだだよ」
馬首を返しかけた王国軍を、彼が引き止めた。
「魔王を前にして、俺が逃げるわけにはいかない」
白銀の剣先を、魔王に向ける。
不敵に笑う、蠱惑的な口元。
「この俺、聖剣の勇者ジェフリーがな!」
「な、なによ、なによ!」
火炎魔法を消滅させられてぽかんとしていたマギーは、我に返って次の詠唱を始める。
「氷……」
……だが、準備中の氷結魔法は発動すらしなかった。
「五月蝿い。そなたは黙っておれ」
魔王が一瞥すると、女魔法使いの上唇と下唇は、縫い付けたようにぴったりと閉じて開かなくなってしまったのだ。
むーむー唸るマギーを横目に「くそっ」と悪態をついて、戦斧を構えたモイラが駆け出してくる。
「どりゃああああ!!」
強靭な脚力で大地を蹴り、ジャンプして高い位置から魔王に戦斧を振り下ろす!
……だが。
大木を一振りで切り倒すという女戦士の斧は、魔王の頭をかち割る前に、彼女の手の中でサラサラと砂になり崩れた。
「ひ、ひい!」
空中で重い得物を失い、バランスを崩したモイラは不格好に地面に落下する。そんな彼女に魔王は見向きもしない。
魔王は肩に落ちる髪を背に払い、顎をしゃくった。
「勇者よ、余の配下を開放せよ」
「く……」
魔王の高圧的なお願いに、ジェフリーが答える前に、
「放て!」
後方の、王国軍の弓隊の一斉射撃が始まった!
無数の矢が、魔王と村人達に向かって飛来する。
こんなの、避けようがない!
惨劇を予想して、咄嗟に両手で顔を覆った私が、指の隙間から見たものは――
「……え?」
――魔王の五歩手前で、弾き返されて地面に落ちていく矢の残骸だった。
まるで、見えない壁があるかのように、一定の場所に到達した矢はひしゃげ、失墜する。しかも、どの方向から来てもだ。いつ発動したかも気づかせない、広範囲障壁魔法。
(……すごい)
桁外れだ。これが魔王の実力か!
と感心した私だったが……。
……これはほんの序の口だった。
「まだ力の差が判らぬか」
魔王が面倒くさそうに零すと、彼の右側・左側・頭上に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
詠唱も杖で描く動作もなく、三枚同時に魔法陣を敷くなんて!
驚きに言葉も出ない私の目の前で、魔法陣の中なら、巨大な鉤爪が湧き出した。
右には炎竜、左にはキマイラ、頭上にはグリフォン。
伝説級の巨大魔獣の出現に、王国軍は悲鳴を上げて逃げ惑う。
ちょ、これは……っ。
私も空いた口が塞がらない。
メチャクチャだ。圧倒的すぎる。
……こんなヤツ相手に、歴代の勇者はどうやって勝利してきたの!?
「兵を退け、人の子らよ」
三体の魔獣を従え、魔王が厳かに命令する。
「今、この地を去るのであれば追わずにおこう。しかし抗うならば、そなたらは骨の欠片一つ残らずこの世から消えることとなるだろう」
「あ……わわ……」
王国軍もマギーも戦意消失している。モイラなんて、腰を抜かして失神寸前だ。
もう、勝敗はついている。私は――きっと、魔王だって――敵味方問わず、人々に犠牲が出るのは見たくない。
馬に跨った王国軍の司令官が旗を掲げる。
「全軍、退きゃ……」
「……まだだよ」
馬首を返しかけた王国軍を、彼が引き止めた。
「魔王を前にして、俺が逃げるわけにはいかない」
白銀の剣先を、魔王に向ける。
不敵に笑う、蠱惑的な口元。
「この俺、聖剣の勇者ジェフリーがな!」
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