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35、リル、霊薬を作る(3)

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「魔法……、私が使ったんですか? この魔法を?」

 目の前の事象が信じられす、リルが確認すると、

「間違いなく、君の魔法だ」

 スイウはあっさり肯定した。

「君が自分で考え薬を作り、自分で術を施しただろう?」

「術って……私はただ、成功を祈っただけです」

 リルは困惑するばかりだが、

「祈りが奇跡を呼んだなら、それは『呪文』であり『魔法』を行使したということになる」

 スイウは持論を曲げない。

「……ということは、私は魔法使いってことですか?」

 一応、確認すると、

「それを名乗るには早すぎる」

 すぱっと否定された。

「……ですよねー」

 ちょっと調子に乗りすぎたようだ。

「それに、今回は文字通り奇跡を起こす『土壌』があったのも幸運だった」

「土壌?」

 鸚鵡返しするリルに、スイウは挿し穂の埋められた砂を指差す。

「これには柳の再生を一番望む者の想いが込められているだろう?」

「ああ、そっか」

 すんなり納得する。

「挿し木に使うなら綺麗な土が良いと思って持ってきただけだけど……。クレーネさんの想いが詰まってるなら、成功して当たり前だったのか」

 自分だけの手柄じゃなかったと判っても、嫌な気分じゃない。むしろ嬉しい。

「素材選びも良かった。しっかり茶葉の特性を理解していて感心した」

 手放しに褒められて、リルは照れ隠しに「それが私の仕事ですから」と嘯いてみる。

「ちなみに、スイウさんだったらどの材料を使いましたか?」

 訊いてみると、現役魔法使いは迷いなく答える。

「私も清夏糖草を使用しただろう。似たような特性の素材なら火吠花という選択肢もあったが、水に縁のある木なら水属性の清夏糖草の方がより相性が良い。ただ、豪炎竜の鱗は使わないな」

「どうして?」

「経験上、魔法で潜在値を引き上げれば清夏糖草だけで十分な成果を得られると判断したことと、豪炎竜の鱗を使うリスクを回避したかったからだ」

「リスク? 豪炎竜の鱗は二角翼獅子の角以外には禁忌がないって言ってましたよね?」

「言った。だが、飲む者の体調体質にも因るとも言った。竜の鱗は他の素材の効果を高める。例えば健康な挿し穂、あるいは瀕死の挿し穂に、突然溺れるほど過剰な養分を与えたらどうなると思う?」

 リルは自分の口に無理矢理食べ物を流し込まれる光景を思い浮かべて身震いする。健康ならば体調を崩すだろうし、瀕死なら衝撃で力尽きるかもしれない。薬は使い方次第で毒にもなるのだ。

「今回の対象物は偶然にも程よく弱った挿し穂だったので、竜の鱗で増幅された養分を受け留めきれた。つまり、君の判断は正しかったということだ。見事だ」

 もう一度褒められても、もう素直に喜べない。

「ちょっ。だったらあの時、なんで私が竜の鱗を使うの止めてくれなかったんですか? 一歩間違えれば挿し穂がダメになっちゃうとこだったんですよ!?」

 少女の猛抗議に、魔法使いは飄々と、

「成功したのだから不満を持つ必要はない。それに、間違いからしか得られない知識もある」

「そういう博打はやり直しが利く状況でやらせてください! 挿し穂はたった一本だったんですよ? 予備なんかなかったのに!」

「何度やっても失敗する時はする。今は成功を誇ればいい」

「結果論じゃなくて、次善策とか善後策が欲しいんですよ、私は!」

「では、手数を増やせるよう、もっと知識に磨きをかけることだ」

 がなるリルを置いて、スイウは深緑のローブを翻し去っていく。
 独り倉庫に残されたリルは――

「あ゛~っ! あの人、わけわかんない!」

 ――赤髪頭を掻きむしった。
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