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34、リル、霊薬を作る(2)

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 乳鉢に清夏糖草の茶葉と豪炎竜の鱗を入れる。鱗は他の材料より著しく効果が高いというので、ほんの二粒だけ。それでも、

(この量で、アトリ亭の日当の何十日分になるんだろう……?)

 庶民のリルには冷や汗ものだ。

「混ぜる時のコツってありますか?」

 乳棒を持ったリルがアドバイスを求めると、スイウは無表情で答える。

「祈る」

「祈る?」

「『良い薬が出来ますように』と」

「……」

 一瞬怪訝な顔になったリルは、たまらずプハッと噴き出した。

「スイウさんも冗談言うんですね」

 ケラケラ笑う街の少女とは反対に、森の魔法使いは至って真面目だった。

「冗談ではない。本気で言っている」

「え?」

 表情を変えないスイウの真っ直ぐな瞳に、リルも笑いを治めて耳を傾ける。

「魔法の源は精神力だ。成したいと想う気持ちが万物に影響を与え、奇跡を手繰り寄せる。里の人間も自分の成功や他人の幸せ、豊穣や安寧のために祈り、努力するだろう? 魔法もそれと同じ原理で、それより少し明確な効果が得られる技だ」

「想いが奇跡を手繰り寄せる……」

 全部は理解出来ないが、ほんのちょっと分かった気がする。

(あの柳を大きく育てたい。クレーネさんが泣かずにすむように。どうか、良い薬ができますように)

 心で祈りながら、材料をすり潰す。乳鉢から甘い蜜の香りが湧き出し、清夏糖草の花畑にいるようだ。豪炎竜の鱗と混ざると透き通ったオレンジ色に変化し、まばゆい光を放つ。

「ふぁ!? まぶしっ」

 今まで何度も茶葉をブレンドしてきたが、湯を差していない状態でこれほど反応するなんて初めてだ。
 熱くはない。むしろ心地の好い光に包まれながら、リルは心を込めて二種類の材料をすり続ける。やがて光が収まる頃には、ムラのないオレンジの粉末が出来ていた。
 リルは水揚げしていた挿し穂を手に取ると、切り口に粉末をまぶした。そして、

「どうか、根が出ますように!」

 願い事を声に出して唱えると、泉の底から取ってきた砂にそっと挿し穂を植えた。……途端。

 ニョキッ!!

 と新芽が伸びて、若葉が五枚飛び出した。

「ふひゃあ!?」

 リルは素っ頓狂な声を上げて飛び上がる。

「スイウさん、葉っぱが出ましたよ、葉っぱが!」

 ローブを引っ張って訴える少女に、スイウは若干面倒くさそうに頷く。

「出たな。きっと根も生えてきているだろう」

「うそ、見たい! でも、すぐに引っこ抜くと枯れちゃいそうだから我慢する!」

「懸命だな」

 一人で大騒ぎなリルに、スイウは冷静に同意する。

「でも、よかったぁ~~~」

 一気に力が抜けたリルは、へなへなとその場に膝をつく。思った以上に気を張っていたみたいだ。

「たった一本しかないから、失敗したらどうしようかと怖かった」

 大きく息をついてから、スイウを見上げる。

「奇跡が起きましたよ、スイウさん。やっぱり魔法ってすごいですね!」

 一瞬で発根させたのは、人知を超えた力だ。安堵で浮かれ気味のリルに、スイウは大きく頷いた。

「ああ、すごいな。君が使った魔法、君が起こした奇跡だ」

 その言葉に、リルは緑の瞳を零れるくらい大きく見開いて――

「私が使った……魔法?」

 ――こてん、と首を傾げた。
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