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3、究極の二択

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 ――店を出ていくリルを見送った男性客は、カウンターの中にいるマリッサに問いかけた。

「店主、彼女は何故店を辞めることに?」

 マリッサは頬に手を当てて憂いげにため息をついた。

「あの子は不憫な子でねぇ。恩のある叔父さんが事業で失敗して夜逃げしちゃって。それで保証人になってたリルちゃんが借金を被ってしまったのさ。待っていた男達は高利貸しの手下だよ。行き着く先は奴隷か娼館か……。残念だよ、ゆくゆくはあの子にあたしの店を継いでもらいたかったのに」

 窓の向こうには人相の悪い男に腕を引かれ、項垂れて歩く少女の姿が見えた。弱々しく揺れるポニーテールが物悲しい。
 男性客はカウンターに小銭を置くと、エプロンの端で涙を拭うマリッサに目もくれず外へ出る。そして躊躇わずに口を開いた。

「待て」 

 突然響いた地を這うような重低音に、リルと男達は振り返る。
 緑色の瞳に映った常連客の青年の姿に、リルは大層驚いた。どうして彼が追いかけてきたのだろう?

「なんだ、テメェは」

 リルの困惑なんかお構いなしに、男達のボス格が常連客に剣呑な唸り声を上げる。しかし、場馴れしたならず者の威嚇にも彼は怯まない。無表情で右手を突き出した。

「彼女の借金はいくらだ? 証文があるだろう。見せてもらえないか」

 淡々とした口調で言われ、ボス格はブハッと噴き出した。

「テメェ、この女と恋仲か? 残念だったな、こいつの借金は庶民がおいそれと払える額じゃ……」

 気分良く嘲笑っている最中にふと気づく。眼の前の青年が広げている羊皮紙は、ボス格が懐に収めていたはずの証文ではないか……!?

「おい、いつの間に!」

 色めき立つ男達を目で制し、青年はぼそりと呟いた。

「この金額なら、手持ちで足りるな」

 自然な動作で腰に下げていた革袋を外し、口紐を解いた。中から現れたのは、明らかに借金よりも多い額の金貨だ。
 青年は右手に証文、左手に金貨の袋を掲げたまま、リルに向き直る。そして、いつものお茶を注文するような素っ気ない口調で言った。

「君自身が選ぶといい。私と彼ら、どちらと共に行くのかを」

 突然眼の前に突きつけられた人生の選択肢に、リルは――……。
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