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100、ノルヴェスト砦(1)
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寒風吹きすさぶ荒野。……に、
「ひっろーーーい!」
突如現れる山のようにそびえ立つ壁。空から見ると、まるで外壁に囲まれた街だ。
私達王国騎士団魔物討伐隊第七隊は本日、王都から北西の軍事基地、『ノルヴェスト砦』に着任した。
魔物を生み出す暗晦の森は目視できる距離に位置し、砦の先には人の住む土地はない。つまり、この基地はパルティトラの国家防衛の最前線だ。当然駐留する兵士の数も多く、軍事と生活の利便性を兼ね備えた結果、ノルヴェスト砦は頑丈な建物の林立する要塞都市となっていた。
空の騎獣組が門の前に降り立ち、地上部隊と合流して揃って分厚い鉄扉を潜る。砦に入ると、常駐軍が並んで私達を出迎えてくれる。その中心から進み出たのは、四十半ばと思しき男性。勲章の多い軍服を着た彼は、フィルアートの前に来ると恭しく騎士の敬礼をした。
「よくお越しくださいました。フィルアート殿下、第七隊の方々」
それから顔を上げ、眩しげに相好を崩した。
「ご立派になられましたな、若」
「若はやめてくれ、グレイソン」
彼の言葉に、フィルアートは照れくさそうに苦笑を返す。
「まずは官舎に荷物を置いて、それから砦の案内を。若には勝手知ったるかと思いますが」
「俺も久しぶりだからな。色々と設備が変わっただろうから確認したい」
談笑しながら建物内に歩き出す二人に、私達隊員はついていく。
「副長、あの人誰ですか?」
こそっと前を行くゴードンに訊いてみると、彼は振り向きもせず答える。
「グレイソン・ワイス総督。ノルヴェスト砦の最高司令官です」
「フィルアート殿下と仲よさげですね」
「ノルヴェスト砦を含む北西地域は王家の直轄領で、殿下はこの土地で子ども時代を過ごしたそうです」
だから総督と知り合いなのか。ってことは、以前話していた叔父の荘園ってこの辺りのことなのね。
あれ? そういえばフィルアートと初めてデートした荒野もこの近くだよね? 私はあの時の王子との会話を思い出す。
彼は、『ここで初めて騎士が魔物を倒す姿を見た』と言っていたけど……?
「みゅ?」
物思いにふける私の顔を、肩に乗った小さな窮奇が覗き込んでくる。
「君と会ったのも、この近くだったね」
指先で顎を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす。あのデートで一番の収穫はセリニに会えたことだ。
詳しいことは分からないけど、どうやら北西地域はフィルアートに馴染み深い土地らしい。
なんとなくぼんやり背の高い黒髪の後頭部を見ながら歩いていると……ふと、隣のグレイソン総督が振り返った。
やばっ、視線に気づかれたかな。
慌てて目を逸らす私に、白髪交じりの彼は驚いたように眉を跳ね上げ、咄嗟に薄い唇を開いたが……声を発さぬまま閉じると、すぐに正面に向き直った。
……何、今の?
「感じ悪い」
私は口の中で呟く。
あの総督のリアクション。まるで……幽霊でも見たような顔だった。
――――――
100話目です。
いつもお読み頂きありがとうございます!
更新遅くて申し訳ありません。
「ひっろーーーい!」
突如現れる山のようにそびえ立つ壁。空から見ると、まるで外壁に囲まれた街だ。
私達王国騎士団魔物討伐隊第七隊は本日、王都から北西の軍事基地、『ノルヴェスト砦』に着任した。
魔物を生み出す暗晦の森は目視できる距離に位置し、砦の先には人の住む土地はない。つまり、この基地はパルティトラの国家防衛の最前線だ。当然駐留する兵士の数も多く、軍事と生活の利便性を兼ね備えた結果、ノルヴェスト砦は頑丈な建物の林立する要塞都市となっていた。
空の騎獣組が門の前に降り立ち、地上部隊と合流して揃って分厚い鉄扉を潜る。砦に入ると、常駐軍が並んで私達を出迎えてくれる。その中心から進み出たのは、四十半ばと思しき男性。勲章の多い軍服を着た彼は、フィルアートの前に来ると恭しく騎士の敬礼をした。
「よくお越しくださいました。フィルアート殿下、第七隊の方々」
それから顔を上げ、眩しげに相好を崩した。
「ご立派になられましたな、若」
「若はやめてくれ、グレイソン」
彼の言葉に、フィルアートは照れくさそうに苦笑を返す。
「まずは官舎に荷物を置いて、それから砦の案内を。若には勝手知ったるかと思いますが」
「俺も久しぶりだからな。色々と設備が変わっただろうから確認したい」
談笑しながら建物内に歩き出す二人に、私達隊員はついていく。
「副長、あの人誰ですか?」
こそっと前を行くゴードンに訊いてみると、彼は振り向きもせず答える。
「グレイソン・ワイス総督。ノルヴェスト砦の最高司令官です」
「フィルアート殿下と仲よさげですね」
「ノルヴェスト砦を含む北西地域は王家の直轄領で、殿下はこの土地で子ども時代を過ごしたそうです」
だから総督と知り合いなのか。ってことは、以前話していた叔父の荘園ってこの辺りのことなのね。
あれ? そういえばフィルアートと初めてデートした荒野もこの近くだよね? 私はあの時の王子との会話を思い出す。
彼は、『ここで初めて騎士が魔物を倒す姿を見た』と言っていたけど……?
「みゅ?」
物思いにふける私の顔を、肩に乗った小さな窮奇が覗き込んでくる。
「君と会ったのも、この近くだったね」
指先で顎を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす。あのデートで一番の収穫はセリニに会えたことだ。
詳しいことは分からないけど、どうやら北西地域はフィルアートに馴染み深い土地らしい。
なんとなくぼんやり背の高い黒髪の後頭部を見ながら歩いていると……ふと、隣のグレイソン総督が振り返った。
やばっ、視線に気づかれたかな。
慌てて目を逸らす私に、白髪交じりの彼は驚いたように眉を跳ね上げ、咄嗟に薄い唇を開いたが……声を発さぬまま閉じると、すぐに正面に向き直った。
……何、今の?
「感じ悪い」
私は口の中で呟く。
あの総督のリアクション。まるで……幽霊でも見たような顔だった。
――――――
100話目です。
いつもお読み頂きありがとうございます!
更新遅くて申し訳ありません。
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