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73、二回目のデート、のはず(13)
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「なんで出られないの?」
首を傾げる私に、スノーはペシッと壁の模様に手を当てた。
「見て。これは魔力制御の結界。この魔法陣の中では魔法の効果が削がれる。僕もこの程度の広さの部屋全体を照らすのに、光球を二つも三つも作ることになった」
いつもはもっと太陽みたいに明るいんだよ! と力説する。
「それから、マンティコアの檻の結界」
次に一際大きな魔獣の檻を指差す。
「これはかなり強力。中に入ったら最後、内側から壊すのは困難だ。鉄格子にも魔除けの紋が刻まれてるから、魔物には触れないしね。本来の力を封じられたそいつが辛うじてできたのは、人間とその魂を操るだけ」
なるほど。でも、
「だったら、操った人間に檻を開けてもらえばいいじゃない」
実際、私も操られかけたのだし。檻から出ちゃえば、わざわざ幽霊に生者を連れてきてもらわなくても済むのに。
「それはできなかったようだな」
檻を観察していたフィルアートが疑問を解決する。
「檻が開かないよう、鍵穴が潰されている。きっと密売業者が身の危険を感じ、殺される前に策を講じたのだろう」
魔物を扱う業者なら、扱いにも慣れている。結局は食われてしまったが、商品の保管には相応の注意を払っていたはずだ。
「そういえば、私がこいつの幻覚に掛かったのは、地下室に下りてからよね? 地上階では影響はなかった。なのに幽霊は操られたまま二階三階に出没してたのは、どうして?」
「『殺す』という行為は『魂を奪う』ということ。魔物にとって、殺した人間の魂を意のままに動かすことは、生きた人間を操るより容易いんだよ」
意味深に微笑むスノーに、鳥肌が立つ。殺された上に死んでからも道具にされるなんて、たまったもんじゃない。
「でも、幽霊って魔物の扱いなんでしょ? マンティコアの魔力で悪霊になった幽霊も、マンティコア同様地下室から出られなくならないの?」
「普通なら、そうなるかもね。でも、今回使われている結界は強力過ぎるんだ。強大な魔物を閉じ込める為に太い縄で網を編んだら、網目が広くて小物がすり抜けちゃった的な」
あ、それ対魔物講座で習った。
ふむ。とりあえず、知りたい情報は大体把握したかな。
私は「お嬢さん、お嬢さん」と猫なで声で呼び続けるマンティコアを無視して、二人の連れに向き直った。
「フィルアート殿下、スノー。ここは私が見張ってますので、二人は司令部に戻り援軍を連れてきてください」
マンティコアはこの場から動けないから、逃亡の心配はない。かといって、討伐するには一度結界を解除する必要があるから、三人きりで戦うのは分が悪い。ならば大人数で包囲して仕留めるのが確実だし、街への被害も最小限に抑えられる。
「こいつには一度操られましたが、もう二度と惑わされません。名誉挽回の為にも、私に警備を任せてください」
役立たずの汚名返上だ。踵を揃えて訴える私に、フィルアートは神妙に頷く。
「援軍を呼ぶのは的確な判断だ。自分だけ残るという提案は容認できんが、王族の俺と上級職のスノーを先に危険から遠ざけようとした気持ちは理解する」
「では、スノーを伝令に」
私一人を残せないというのなら、魔力が弱体化しているスノーを外に出した方がいいのでは、と思ったのだけど。
「んー。ちょっと遅かったかも」
光球の漂う天井を見上げながら、スノーがため息をついた。
首を傾げる私に、スノーはペシッと壁の模様に手を当てた。
「見て。これは魔力制御の結界。この魔法陣の中では魔法の効果が削がれる。僕もこの程度の広さの部屋全体を照らすのに、光球を二つも三つも作ることになった」
いつもはもっと太陽みたいに明るいんだよ! と力説する。
「それから、マンティコアの檻の結界」
次に一際大きな魔獣の檻を指差す。
「これはかなり強力。中に入ったら最後、内側から壊すのは困難だ。鉄格子にも魔除けの紋が刻まれてるから、魔物には触れないしね。本来の力を封じられたそいつが辛うじてできたのは、人間とその魂を操るだけ」
なるほど。でも、
「だったら、操った人間に檻を開けてもらえばいいじゃない」
実際、私も操られかけたのだし。檻から出ちゃえば、わざわざ幽霊に生者を連れてきてもらわなくても済むのに。
「それはできなかったようだな」
檻を観察していたフィルアートが疑問を解決する。
「檻が開かないよう、鍵穴が潰されている。きっと密売業者が身の危険を感じ、殺される前に策を講じたのだろう」
魔物を扱う業者なら、扱いにも慣れている。結局は食われてしまったが、商品の保管には相応の注意を払っていたはずだ。
「そういえば、私がこいつの幻覚に掛かったのは、地下室に下りてからよね? 地上階では影響はなかった。なのに幽霊は操られたまま二階三階に出没してたのは、どうして?」
「『殺す』という行為は『魂を奪う』ということ。魔物にとって、殺した人間の魂を意のままに動かすことは、生きた人間を操るより容易いんだよ」
意味深に微笑むスノーに、鳥肌が立つ。殺された上に死んでからも道具にされるなんて、たまったもんじゃない。
「でも、幽霊って魔物の扱いなんでしょ? マンティコアの魔力で悪霊になった幽霊も、マンティコア同様地下室から出られなくならないの?」
「普通なら、そうなるかもね。でも、今回使われている結界は強力過ぎるんだ。強大な魔物を閉じ込める為に太い縄で網を編んだら、網目が広くて小物がすり抜けちゃった的な」
あ、それ対魔物講座で習った。
ふむ。とりあえず、知りたい情報は大体把握したかな。
私は「お嬢さん、お嬢さん」と猫なで声で呼び続けるマンティコアを無視して、二人の連れに向き直った。
「フィルアート殿下、スノー。ここは私が見張ってますので、二人は司令部に戻り援軍を連れてきてください」
マンティコアはこの場から動けないから、逃亡の心配はない。かといって、討伐するには一度結界を解除する必要があるから、三人きりで戦うのは分が悪い。ならば大人数で包囲して仕留めるのが確実だし、街への被害も最小限に抑えられる。
「こいつには一度操られましたが、もう二度と惑わされません。名誉挽回の為にも、私に警備を任せてください」
役立たずの汚名返上だ。踵を揃えて訴える私に、フィルアートは神妙に頷く。
「援軍を呼ぶのは的確な判断だ。自分だけ残るという提案は容認できんが、王族の俺と上級職のスノーを先に危険から遠ざけようとした気持ちは理解する」
「では、スノーを伝令に」
私一人を残せないというのなら、魔力が弱体化しているスノーを外に出した方がいいのでは、と思ったのだけど。
「んー。ちょっと遅かったかも」
光球の漂う天井を見上げながら、スノーがため息をついた。
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