上 下
73 / 101

73、二回目のデート、のはず(13)

しおりを挟む
「なんで出られないの?」

 首を傾げる私に、スノーはペシッと壁の模様に手を当てた。

「見て。これは魔力制御の結界。この魔法陣の中では魔法の効果が削がれる。僕もこの程度の広さの部屋全体を照らすのに、光球を二つも三つも作ることになった」

 いつもはもっと太陽みたいに明るいんだよ! と力説する。

「それから、マンティコアそいつの檻の結界」

 次に一際大きな魔獣の檻を指差す。

「これはかなり強力。中に入ったら最後、内側から壊すのは困難だ。鉄格子にも魔除けの紋が刻まれてるから、魔物には触れないしね。本来の力を封じられたそいつが辛うじてできたのは、人間とその魂を操るだけ」

 なるほど。でも、

「だったら、操った人間に檻を開けてもらえばいいじゃない」

 実際、私も操られかけたのだし。檻から出ちゃえば、わざわざ幽霊に生者エサを連れてきてもらわなくても済むのに。

「それはできなかったようだな」

 檻を観察していたフィルアートが疑問を解決する。

「檻が開かないよう、鍵穴が潰されている。きっと密売業者が身の危険を感じ、殺される前に策を講じたのだろう」

 魔物を扱う業者なら、扱いにも慣れている。結局は食われてしまったが、商品の保管には相応の注意を払っていたはずだ。

「そういえば、私がこいつの幻覚に掛かったのは、地下室ここに下りてからよね? 地上階では影響はなかった。なのに幽霊は操られたまま二階三階に出没してたのは、どうして?」

「『殺す』という行為は『魂を奪う』ということ。魔物にとって、殺した人間の魂を意のままに動かすことは、生きた人間を操るより容易いんだよ」

 意味深に微笑むスノーに、鳥肌が立つ。殺された上に死んでからも道具にされるなんて、たまったもんじゃない。

「でも、幽霊って魔物の扱いなんでしょ? マンティコアの魔力で悪霊になった幽霊も、マンティコア同様地下室から出られなくならないの?」

「普通なら、そうなるかもね。でも、今回使われている結界は強力過ぎるんだ。強大な魔物マンティコアを閉じ込める為に太い縄で網を編んだら、網目が広くて小物がすり抜けちゃった的な」

 あ、それ対魔物講座で習った。
 ふむ。とりあえず、知りたい情報は大体把握したかな。
 私は「お嬢さん、お嬢さん」と猫なで声で呼び続けるマンティコアを無視して、二人の連れに向き直った。

「フィルアート殿下、スノー。ここは私が見張ってますので、二人は司令部に戻り援軍を連れてきてください」

 マンティコアはこの場から動けないから、逃亡の心配はない。かといって、討伐するには一度結界を解除する必要があるから、三人きりで戦うのは分が悪い。ならば大人数で包囲して仕留めるのが確実だし、街への被害も最小限に抑えられる。

「こいつには一度操られましたが、もう二度と惑わされません。名誉挽回の為にも、私に警備を任せてください」

 役立たずの汚名返上だ。踵を揃えて訴える私に、フィルアートは神妙に頷く。

「援軍を呼ぶのは的確な判断だ。自分だけ残るという提案は容認できんが、王族の俺と上級職のスノーを先に危険から遠ざけようとした気持ちは理解する」

「では、スノーを伝令に」

 私一人を残せないというのなら、魔力が弱体化しているスノーを外に出した方がいいのでは、と思ったのだけど。

「んー。ちょっと遅かったかも」

 光球の漂う天井を見上げながら、スノーがため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

処理中です...