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46、ただいま入院中(4)
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「え? 私が怒る? なんで?」
今度は私がキョトンとする番だ。
「僕のせいで怪我したから。副長にもこてんこてんに絞られた」
あぁ……、ゴードンは絞りそう。
「そうね。副長からの叱責が隊の方針なら責任の所在に異論はないけど。私個人としては、スノーに怒ってないよ」
私の言葉に、スノーは驚いたように顔を跳ね上げた。
「どうして? 僕を庇って死にかけたのに」
……やっぱ私、死にかけたのか。
「あれは私が勝手にやったことだから。役立たずの新人より、魔導師が無事な方が戦力になるでしょ?」
おどける私に、少年は白い頬を膨らます。
「僕はエレノアがいなくなる方がイヤ」
自称この国一の魔法使いは、拗ねると年齢よりも幼く見える。
「だったらもっと周りをよく見て行動して。あんなうっかりミスで死んだら、私もスノーも浮かばれないよ」
「……ん」
コクンと首を振る彼に、私も目で頷く。それから、
「あとさ。私、今、別のことであなたに怒ってんだけど」
「え? 何?」
見当もつかないという顔のスノーに、私はうんざり吐き出す。
「なんで勝手に病室入ってんの? 私が人と会える状態じゃないって、見れば分かるでしょ?」
上半身裸で俯せになった状態でベッドに寝かされている私。
スノーは病室の天井と私の背中を交互に見て、
「僕は気にしないけど?」
「してよ!」
どいつもこいつもデリカシーのないっ!
「だってほら、今のエレノアは『裸』っていうより『中身』って感じじゃん? 恥ずかしがることないよ」
「言い方!」
余計屈辱だよっ!
憤慨する私にケラケラ笑ったあと、スノーは神妙に眉を下げた。
「エレノア、痛い?」
生皮が剥がれている(本人は未確認)背中に、しょんぼり零す。
「ううん。ミカさんが麻痺の魔法を掛けてくれてるから、大丈夫」
痛覚を感じないようにと、無意識に寝返りを打って患部がシーツに擦れないようにだ。
「明日には退院できるって聞いたから、それまでセレニを預かってくれる?」
「いいけど……」
スノーは怪訝そうに眉間にシワを寄せて、
「この怪我を明日までに治せるほど、魔力強かったっけ? あのおっさん」
不審そうに呟いてから、私の顔の横で丸まっていた窮奇をひょいと抱え上げた。
「じゃあ、僕は戻るね。エレノア、お大事に」
「うん、ありがと」
スノーは仕切りカーテンを開いて、それから半分だけ振り返って、
「……ごめんなさい」
私が何か言葉を返す前に、彼の姿は消えていた。
再び戻った静寂の中、私は大きく息をつく。
……とにかく、セリニの無事が確認できて良かった。
私は重くなった瞼を閉じかけて……。
不意に耳に蘇った言葉に、ハッと目を見開いた。
「スノー……、ミカさんのことを『おっさん』って呼んでなかった?」
今度は私がキョトンとする番だ。
「僕のせいで怪我したから。副長にもこてんこてんに絞られた」
あぁ……、ゴードンは絞りそう。
「そうね。副長からの叱責が隊の方針なら責任の所在に異論はないけど。私個人としては、スノーに怒ってないよ」
私の言葉に、スノーは驚いたように顔を跳ね上げた。
「どうして? 僕を庇って死にかけたのに」
……やっぱ私、死にかけたのか。
「あれは私が勝手にやったことだから。役立たずの新人より、魔導師が無事な方が戦力になるでしょ?」
おどける私に、少年は白い頬を膨らます。
「僕はエレノアがいなくなる方がイヤ」
自称この国一の魔法使いは、拗ねると年齢よりも幼く見える。
「だったらもっと周りをよく見て行動して。あんなうっかりミスで死んだら、私もスノーも浮かばれないよ」
「……ん」
コクンと首を振る彼に、私も目で頷く。それから、
「あとさ。私、今、別のことであなたに怒ってんだけど」
「え? 何?」
見当もつかないという顔のスノーに、私はうんざり吐き出す。
「なんで勝手に病室入ってんの? 私が人と会える状態じゃないって、見れば分かるでしょ?」
上半身裸で俯せになった状態でベッドに寝かされている私。
スノーは病室の天井と私の背中を交互に見て、
「僕は気にしないけど?」
「してよ!」
どいつもこいつもデリカシーのないっ!
「だってほら、今のエレノアは『裸』っていうより『中身』って感じじゃん? 恥ずかしがることないよ」
「言い方!」
余計屈辱だよっ!
憤慨する私にケラケラ笑ったあと、スノーは神妙に眉を下げた。
「エレノア、痛い?」
生皮が剥がれている(本人は未確認)背中に、しょんぼり零す。
「ううん。ミカさんが麻痺の魔法を掛けてくれてるから、大丈夫」
痛覚を感じないようにと、無意識に寝返りを打って患部がシーツに擦れないようにだ。
「明日には退院できるって聞いたから、それまでセレニを預かってくれる?」
「いいけど……」
スノーは怪訝そうに眉間にシワを寄せて、
「この怪我を明日までに治せるほど、魔力強かったっけ? あのおっさん」
不審そうに呟いてから、私の顔の横で丸まっていた窮奇をひょいと抱え上げた。
「じゃあ、僕は戻るね。エレノア、お大事に」
「うん、ありがと」
スノーは仕切りカーテンを開いて、それから半分だけ振り返って、
「……ごめんなさい」
私が何か言葉を返す前に、彼の姿は消えていた。
再び戻った静寂の中、私は大きく息をつく。
……とにかく、セリニの無事が確認できて良かった。
私は重くなった瞼を閉じかけて……。
不意に耳に蘇った言葉に、ハッと目を見開いた。
「スノー……、ミカさんのことを『おっさん』って呼んでなかった?」
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