上 下
46 / 101

46、ただいま入院中(4)

しおりを挟む
「え? 私が怒る? なんで?」

 今度は私がキョトンとする番だ。

「僕のせいで怪我したから。副長にもこてんこてんに絞られた」

 あぁ……、ゴードンは絞りそう。

「そうね。副長からの叱責が隊の方針なら責任の所在に異論はないけど。私個人としては、スノーに怒ってないよ」

 私の言葉に、スノーは驚いたように顔を跳ね上げた。

「どうして? 僕を庇って死にかけたのに」

 ……やっぱ私、死にかけたのか。

「あれは私が勝手にやったことだから。役立たずの新人より、魔導師が無事な方が戦力になるでしょ?」

 おどける私に、少年は白い頬を膨らます。

「僕はエレノアがいなくなる方がイヤ」

 自称この国一の魔法使いは、拗ねると年齢よりも幼く見える。

「だったらもっと周りをよく見て行動して。あんなうっかりミスで死んだら、私もスノーも浮かばれないよ」

「……ん」

 コクンと首を振る彼に、私も目で頷く。それから、

「あとさ。私、今、別のことであなたに怒ってんだけど」

「え? 何?」

 見当もつかないという顔のスノーに、私はうんざり吐き出す。

「なんで勝手に病室入ってんの? 私が人と会える状態じゃないって、見れば分かるでしょ?」

 上半身裸で俯せになった状態でベッドに寝かされている私。
 スノーは病室の天井と私の背中を交互に見て、

「僕は気にしないけど?」

「してよ!」

 どいつもこいつもデリカシーのないっ!

「だってほら、今のエレノアは『裸』っていうより『中身』って感じじゃん? 恥ずかしがることないよ」

「言い方!」

 余計屈辱だよっ!
 憤慨する私にケラケラ笑ったあと、スノーは神妙に眉を下げた。

「エレノア、痛い?」

 生皮が剥がれている(本人は未確認)背中に、しょんぼり零す。

「ううん。ミカさんが麻痺の魔法を掛けてくれてるから、大丈夫」

 痛覚を感じないようにと、無意識に寝返りを打って患部がシーツに擦れないようにだ。

「明日には退院できるって聞いたから、それまでセレニを預かってくれる?」

「いいけど……」

 スノーは怪訝そうに眉間にシワを寄せて、

「この怪我を明日までに治せるほど、魔力強かったっけ? あのおっさん」

 不審そうに呟いてから、私の顔の横で丸まっていた窮奇をひょいと抱え上げた。

「じゃあ、僕は戻るね。エレノア、お大事に」

「うん、ありがと」

 スノーは仕切りカーテンを開いて、それから半分だけ振り返って、

「……ごめんなさい」

 私が何か言葉を返す前に、彼の姿は消えていた。
 再び戻った静寂の中、私は大きく息をつく。
 ……とにかく、セリニの無事が確認できて良かった。
 私は重くなった瞼を閉じかけて……。
 不意に耳に蘇った言葉に、ハッと目を見開いた。

「スノー……、ミカさんのことを『』って呼んでなかった?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

処理中です...