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23、救いの手
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瞬きもせず自分の腕を凝視する。
腕から……触手が生えている。それも一本ではなく、五本も!
グルル、と背後で威嚇音がする。呆気に取られて硬直しているレナロッテのすぐ近くまで狼が忍び寄っていたのだ。
獣は黄色い牙を剥き出しにして、彼女の脛に噛みつこうとしたが……。
ドスッ!
槍のように先端の尖った触手に背骨ごと胴を貫かれ絶命する。
「な、な……!?」
レナロッテが狼狽えている間にも、五本の触手はバラバラに動き回り、狼を殲滅していく。一本の触手は鞭のようにしなり、彼女を取り囲んでいた狼の群れを根こそぎ薙ぎ払い、また一本の触手はハンマーのような球形の先端を打ち落として狼を潰していく。
「ぐわっ! エグっ! キモっ! レナ、それどうしたの!?」
次々と森の獣を肉片に変えていく触手に、ノノは総毛立つ。
「い、いや、私にも……」
なにがなんだか解らない。ただ……ほんの数十秒の間に、彼女の命を脅かす敵は全滅してしまった。
レナロッテとノノ以外に動くものがいなくなっても、触手はまだ長く鎌首をもたげ、ゆらゆら蠢いている。
どうしよう……と思った、その時。
不意に旋風が吹いた。
風は木の葉を巻き上げ二人の前で停止する。舞い散る木の葉の中から現れたのは、フォリウムだ。
「どうしました? ノノの狐火が……」
言いかけた、瞬間!
触手の一本が尖った先端を向けてフォリウムに襲いかかった。
「フォ……」
「お師……」
レナロッテとノノが真っ青になって叫ぶが、当のフォリウムは触手の方を見もせず、頬に刺さる寸でのところで紫の凶器を掴んだ。
「これは……?」
怪訝な表情でレナロッテの触手を見る。紫のブヨブヨは、間違いなく寄生魔物だ。
魔法使いは魔物を燃やしてしまおうと口の中で呪文を唱える。握った手から炎が溢れ、触手を炙った……刹那。
「あっつぅ!」
レナロッテが上腕を押さえて叫んだ。
「痛覚があるんですか!?」
これには普段冷静なフォリウムも仰天だ。
手を離すと、触手はするすると縮んで彼女の腕に戻っていく。
「フォリウム、これ……。私……?」
レナロッテは紫に脈打つ腕をそのままに震え上がっている。ノノも彼女の足にしがみついたまま固まっている。
フォリウムは辺りを見回し眉を顰めた。
「とりあえず、家に戻りましょう。血の匂いで他の獣が寄ってきます」
粉砕された狼の残骸からは、すでに臭気が漂っている。
「歩けますか?」
膝に力が入らずよろけるレナロッテに、フォリウムが手を差し出す。彼女は少し躊躇ったが……、自分の左手を重ねた。
「お師様、ボクも疲れたー!」
ノノがフォリウムの背中に飛び乗り、首に抱きつく。
魔法使いは、弟子を背負って客人の手を引き、小屋までの道を急いだ。
腕から……触手が生えている。それも一本ではなく、五本も!
グルル、と背後で威嚇音がする。呆気に取られて硬直しているレナロッテのすぐ近くまで狼が忍び寄っていたのだ。
獣は黄色い牙を剥き出しにして、彼女の脛に噛みつこうとしたが……。
ドスッ!
槍のように先端の尖った触手に背骨ごと胴を貫かれ絶命する。
「な、な……!?」
レナロッテが狼狽えている間にも、五本の触手はバラバラに動き回り、狼を殲滅していく。一本の触手は鞭のようにしなり、彼女を取り囲んでいた狼の群れを根こそぎ薙ぎ払い、また一本の触手はハンマーのような球形の先端を打ち落として狼を潰していく。
「ぐわっ! エグっ! キモっ! レナ、それどうしたの!?」
次々と森の獣を肉片に変えていく触手に、ノノは総毛立つ。
「い、いや、私にも……」
なにがなんだか解らない。ただ……ほんの数十秒の間に、彼女の命を脅かす敵は全滅してしまった。
レナロッテとノノ以外に動くものがいなくなっても、触手はまだ長く鎌首をもたげ、ゆらゆら蠢いている。
どうしよう……と思った、その時。
不意に旋風が吹いた。
風は木の葉を巻き上げ二人の前で停止する。舞い散る木の葉の中から現れたのは、フォリウムだ。
「どうしました? ノノの狐火が……」
言いかけた、瞬間!
触手の一本が尖った先端を向けてフォリウムに襲いかかった。
「フォ……」
「お師……」
レナロッテとノノが真っ青になって叫ぶが、当のフォリウムは触手の方を見もせず、頬に刺さる寸でのところで紫の凶器を掴んだ。
「これは……?」
怪訝な表情でレナロッテの触手を見る。紫のブヨブヨは、間違いなく寄生魔物だ。
魔法使いは魔物を燃やしてしまおうと口の中で呪文を唱える。握った手から炎が溢れ、触手を炙った……刹那。
「あっつぅ!」
レナロッテが上腕を押さえて叫んだ。
「痛覚があるんですか!?」
これには普段冷静なフォリウムも仰天だ。
手を離すと、触手はするすると縮んで彼女の腕に戻っていく。
「フォリウム、これ……。私……?」
レナロッテは紫に脈打つ腕をそのままに震え上がっている。ノノも彼女の足にしがみついたまま固まっている。
フォリウムは辺りを見回し眉を顰めた。
「とりあえず、家に戻りましょう。血の匂いで他の獣が寄ってきます」
粉砕された狼の残骸からは、すでに臭気が漂っている。
「歩けますか?」
膝に力が入らずよろけるレナロッテに、フォリウムが手を差し出す。彼女は少し躊躇ったが……、自分の左手を重ねた。
「お師様、ボクも疲れたー!」
ノノがフォリウムの背中に飛び乗り、首に抱きつく。
魔法使いは、弟子を背負って客人の手を引き、小屋までの道を急いだ。
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