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20、日常風景

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「ん、美味い」

 子狐シェフの手料理に舌鼓を打つ。今日のディナーは兎のシチューと森のキノコサラダだ。

「このキノコ、香りがいいな。食感もシャキシャキしていて。なんて名前なんだ?」

「さあ?」

 レナロッテの問いに、ノノが首を捻る。

「お師様が食べても平気っていうから料理した」

 適当な発言の子供に、フォリウムが補足する。

「植物図鑑には載っていない種類のキノコなのですが、一般的な薬物検査には引っかからなかったので一応安全かと。まあ、まだ存在の確認されていない人体に有害な毒素が含まれていたらアウトなのですが」

「……夕飯で人体実験しないでくれ」

 一見、良識の塊のようなこの魔法使いは、ノノの生みの親だけあって、なかなかマッドな一面がある。
 三人の食卓も見慣れた光景になってきた。
 寄生魔物に蝕まれていた時期から、レナロッテはかれこれ二ヶ月近くこの小屋でお世話になっている。まだただれの酷い箇所はあるが、ほぼ日常生活に支障はない。

「もう少しで、街に戻れそうですね」

「ああ」

 レナロッテはフォリウムに力強く頷く。やっとここまで来れたのだ。

「みんな、元気にしてるかな? 心配していないかな?」

 懐かしい人々の顔を思い出す彼女に、

「それなら、手紙を書いたらどうですか?」

 魔法使いは何気なく提案する。

「行方不明のあなたの安否が知れれば、皆さん安心するでしょう」

「手紙か……」

 最近まで手が紫の触手だったから考えつかなかったが、今はペンを握れる指がある。しかし……。

「ブルーノは外遊中のはずだから、送っても手元に届かないだろうな」

 国際郵便は届くまでに何ヶ月もかかるし、届く保証もない。今出しても、一ヶ月後に帰国する彼とは行き違いになること必至だ。

「ご実家かペルグラン邸は? ノノに直接届けさせられますが」

「うーん」

 レナロッテは難しい顔をする。

「実家は私に興味がないし、ペルグラン家も今は使用人しかいなから手紙を読んでくれるかどうか。それに、送っても私本人からの手紙だと信じてもらえるか……」

 自分が姿を見せるのが一番なのだが、実はまだ、レナロッテの左頬にはえぐれたような痕が残っている。皮膚が完治するまでは、他人とは会いたくない。

「でも、花嫁の消息が掴めないんじゃ、結婚式の準備も進まないじゃん」

 もっともな意見にノノに、彼女はため息をつく。

「そこが問題なのだけど……。でも、ドレスの仮縫いは済んでいるし、元々ブルーノの帰国後最終準備だったから問題ないだろう」

 なんだかんだで楽観的だった。

「へぇ、仮縫いは終わってるんだ」

 いたずら狐は金目を光らせて、女騎士のシチュー皿をサッと取り上げた。

「じゃあ、体型変わっちゃダメだよね。今日からご飯は少なめにしなくちゃ!」
 言われた彼女は涙目だ。

「だ、大丈夫だ! 今は傷を治すのに栄養がいるし、リハビリに体力使っているから、しっかり食べないと!」

 どちらかというと色気より食い気なレナロッテが切実に訴える。
 騒がしい声が森中に響く。

 この時はまだ……。
 誰一人、レナロッテの回復を疑う者はいなかった。
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