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15、万能狐

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 生成りの反物を持って返ってきたノノは、一番広いダイニングの床に広げた。
 そして、寸法も測らず型紙も当てず、サクサク裁ち鋏で切っていく。

「何も測ってないが、大丈夫なのか?」

 迷いのない鋏の動きにレナロッテが思わず訊いてみると、

「ボクは最初から頭の中に色々便利機能が搭載されてるから」

 ノノは手を止めずに嘯く。言動は意味不明だが、この子狐はなかなかにして万能だ。
 師匠は奥の作業台で薬を調合している。彼女は弟子の仕事を見守ることにした。

「フォリウムの服は、みんなノノが作っているのか?」

「全部じゃないけど。でも、既製品じゃお師様の美しさに負けちゃうからね。色々飾りをつけてるよ」

 弟子は師匠が大好きすぎだ。
 前身頃と後ろ身頃を縫い合わせ、袖を付けたら簡素なガウンの完成だ。

「すごいな」

 たった一時間ほどでちゃんと着られる服を作ってしまった子供に、女騎士は惜しみない称賛を贈る。膝下丈で腰を帯で留めるタイプのガウンは、まだ上手く身体が動かせないレナロッテでも一人で着られる。

「この布って、どこにあったんだ?」

 真新しい服を羽織りながら、尋ねてみる。

「納屋だよ、小屋の裏にあるんだ。色々と資材がおいてある」

「薬の材料とか?」

「も、だけど。日用品の備蓄ストックとか、布とか角材とか。頻繁に街に行けないから、ある程度揃えてあるんだ」

「角材……」

 レナロッテはふと思いつく。

「その角材で、新しいベッドを作るのか?」

「そうだよ。さすがに家具は街で買ってここまで持ってこれないしね」

「では、その作業を私にやらせてもらえないだろうか?」

「へ?」

 彼女の提案に、ノノはキョトンと聞き返す。

「なんで?」

「ここに来てから今まで、お世話になるばかりで私は何もしていない。だから、私のために空けてくれるという部屋の片付けと、ベッド作りは私にさせて欲しい」

 それがこの状況でレナロッテにできる精一杯の恩返しだ。
 弟子は自分では答えず、奥にいる師匠に顔を向ける。

「……だそうですよ? お師様」

 フォリウムは長い髪を揺らして振り返って、

「身体を動かすことは、リハビリにもなっていいでしょう。ただし、疲れるほどがんばらないように。ノノ、レナロッテさんを手伝ってあげてください」

「……だって」

 伝言ゲームのように、ノノは今度はレナロッテに向き直る。

「ありがとう。では、片付けを始めよう!」

 重い蛭の皮を脱いだ女騎士は、やる気満々だ。
 自分に宛てがわれた部屋の荷物を搬出し始めるレナロッテに、ノノが獣の軽さでススッと近づいていく。
 そして、狐耳を伏せて、背伸びをして彼女に囁いた。

「でも、ベッドは早く作っちゃダメだからね。せっかくの僕の『お師様の抱き枕期間』を邪魔しないでよ」

「……」

 本当に、この弟子は師匠が大好きすぎだ。
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