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じゃぱにーずかるちゃーいずくーる8

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 千尋は既に臨戦態勢、いつでも飛び出して行ける。

 対するお相手さんもこちらの剣呑な雰囲気を察してか、体を半身にして身構える。

 武器の類は所持しておらず、拳を前に突き出すようなスタイルからして何かしらの体術を使えるのだろう。

「この私とやる気であるか?」

「このダンジョンが私達の世界に齎す被害はこれ以上は看過出来んからな。悪いが捕まえさせてもらう」

「ほほう……この私を前にしてその態度は中々に蛮勇だと思うがね。君達も生成されたばかりなのだろう?もう少し身の程を弁えた方が良いのではないか?」

「お前もな」

 中々に有意義で楽しかったお喋りは終わり。

 ここからは強い方が正義の闘争の場だ。

「ふっ!」

 誰よりも早く千尋が駆け出した。

 一歩の踏み込みで距離を縮め、拳を構える蒼白君にシンプルな突きを見舞う。

 相手の技量を推し量るような最速の一手、この突きにどのような対応をしてくるかで今後の展開を考えやすく出来る。

 俺達も蒼白君の動きを逃さぬように観察するが、全く動く気配が無い。

 一瞬の時間が数秒にも感じられる中、蒼白君の喉元を狙った突きは蒼白君に対処される事無く寸止めされた。

「……少し、話をしようじゃないか」

「黙れ」

 喉元に切っ先を突き付けられた状態で下手に動けないと悟った蒼白君が交渉を持ちかける。

「……一旦冷静になろう。こんな野蛮な事はやめようじゃないか?君達がわざわざ我がダンジョンに来たのには何か理由があるのだろう?その辺をもう少し話してくれないかい?もしかしたら君達の力になれるかもしれない!だから!武器を収めてくれ!」

 途中から早口で捲し立てるように喋り出した蒼白君だが、ウチのちーちゃんがそんな事で刀を収める訳が無いだろう、阿呆めが。

「まこちゃん!こいつを拘束用の鎖で縛ってくれ!純はいつでも魔法を打てるようにしていてくれ!……動いたら反抗とみなしてその首を切り捨てるからな?大人しくお縄につけ」

「何と野蛮な……!」

「黙れ」

 千尋の圧が凄い。

 俺まで怖くなってきた。

 千尋に言われるままに口を閉ざして大人しくしている蒼白君を拘束用の鎖でグルグル巻きにしていく。

 こいつの実力が如何程のものかは詳しくは分からなかったが、千尋の突きに何も反応できていなかった時点で俺達の脅威には成りえない事だけは分かった。

 もしかしたら体術よりも魔法戦やスキルを使った戦闘の方が得意だったのかもしれないが、ベルお手製の拘束用の鎖を使えばあら不思議、拘束された者の能力を無効化する効果によってたちまち無力化が可能となるのだ。

 俺の怠惰の能力を応用して作られたらしいこの鎖はとても便利で強力だが、俺が怠惰の居城を発動している事が条件なので最悪の場合は只の鎖に成り下がる。

「これで良し!もうお前は何も出来ないからな、大人しくしてろよ?」

 鎖が解けないようにしっかりと施錠して蒼白君を地面に座らせる。

「ふん!言われるまでも無く抵抗などするものか!抵抗すれば殺されるのであろうが!……何が目的だ?何が知りたい?」

 理解が早くて助かる。

「私達がここに来た目的はダンジョンの攻略とこれ以上モンスターがダンジョンから溢れないようにする事だ。ダンジョンコアは何処だ?」

「……攻略してどうなる?我がダンジョンをどうするつもりだ?」

「良いからダンジョンコアの場所を教えろ。このままダンジョンを破壊しながら探しても良いんだぞ?」

「……館の階段に部屋があってその部屋に地下に行く道がある。その先ににダンジョンコアがある」

「案内しろ」

「……分かった」

 蒼白君の案内の元、館に再び戻った。

 館に入って正面の大きな階段を昇るのではなく、階段の右側に回る。

「そこを押し込むと扉が開く」

 蒼白君が顎で階段の横側の壁を指し示す。

「……ここらへんか?」

 言われた場所を軽く押すと、壁の一部がめり込んだ。

「おぉー!これは分からんな!」

 壁の一部がめり込んだと思ったら、人が通れるだけのスペース分だけ中にめり込みそのまま横にスライドして部屋の入り口に変わった。

「……ダンジョンコアはこの先だ」

「お前が先に入れ」

 千尋が鞘で蒼白君の背中を突いて蒼白君を部屋の中に押し込んだ。

「ライト!」

 純が光源用に光の玉を出してくれて部屋の中が見えるようになった。

 部屋の中は何も物が無く、ただの階段下の物置のような場所だったが地下へ続く階段があり恐らくこの先がダンジョンコアに続く道になっているのだろう。

「さっさと進め」

 千尋が急かすように蒼白君の背中を再び突いた。

「分かってる!そう急かすな!全く!これだから野蛮な者共は……!」

 ぶつくさと文句を言いながらも地下へ続く階段を下っていく蒼白君の後を三人で追いかける。

 階段は思ったよりも広く、人が二人並んで歩けるぐらいの広さがあった。

 階段を降りると見慣れた扉が現れた。

 これは俺達の怠惰ダンジョンや他のダンジョンでも共通のダンジョンコアが治められているコアルームの扉と一緒だった。

「……ここだ」

「案内ご苦労。私が最初に入る、次にお前が入ってこい。まこちゃんと純はコイツが何か変な事をしないように見張っていてくれ


「りょーかい」

「りょうかーい!」

 千尋がコアルームの中へと入り、蒼白君がその後に続く、俺達は蒼白君を見張りながら後に続いた。

 千尋が全員中へ入ったのを確認してからダンジョンコアへと触れた、ダンジョンコアは砕けて破片が千尋に吸い込まれるように消えていった。

「これでこのダンジョンは攻略完了だ……後は事後処理とコイツの処遇をどうするかだな」

「ベルに丸投げで良いんじゃない?」

「そだねぇ!ここ以外にも回らないといけないし!」

「それが一番手っ取り早いか……ベルに念話を掛ける」

 千尋がベルに念話をしている間も蒼白君が変な事をしないか念の為用心していたが、何もせずにじっとしていた。

 意外と馬鹿でも無いのかもしれない。

「ベルが直接ここへ来てくれるそうだ、ベルが来たら次の都市へ向かおう……たぶん他にもここと同じようなダンジョンがある筈だ」

 念話を終えた千尋が俺達に次の予定を語ってくれた。

 中国は広い。

 恐らくここと同じように成長したダンジョンが複数あるのは間違いない。

 ここまでの規模のダンジョンとなると、俺達以外では攻略するのはかなり難しい筈だ。

 出来れば街のモンスター討伐は他に任せておきたいが、自由に動ける人間がいないのも事実。

 他国の人間が大々的に顔を晒して動くのは中国では厄介事に繋がるリスクが高いので中国から直接要請が無ければ動くに動けないのが現状だが、今は中国政府が機能していないので要請も出来ていない事が原因でこれから先、更なる被害を生むのは間違いない。

 本当に厄介な国だ。

 もういっその事開き直って怠惰ダンジョンやら暴食ダンジョンから人員を派遣してさっさと事態を収束させたい気分になってきた。






















「とーちゃくです!こいつがここの管理者ですか?」

 ダンジョン攻略から数分、ベルが到着した。

「……!なんだコイツは……化物め……!」

「化物とは酷いですね!これからあなたの上司になる私にそのような態度は良くないですよ?反省しなさい!」

「うごっ……!」

 ベルによる鉄拳制裁によって地面に頭からめり込んだ蒼白君の姿に同情しながら俺は段々と面倒臭いなと思い始めてきた。

「……面倒臭い」

 ダンジョン一つでこれなのだから、この先どれだけ面倒な事になるのか想像するだけで家に帰りたくなった。



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